嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第7章 9 思いがけない人物

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 俯きながら出版社の扉を開けて、逃げるように外に出たヒルダは入口付近で人にぶつかってしまった。

「あ…す、すみません…」

「ヒルダじゃないか」

するとその人物は突然声を掛けて来た。しかも聞き覚えのある声である。

「え…?」

顔を上げて驚いた。そこに立っていたのはノワールだったのだ。

「ノワール様…?何故ここに…?」

「ああ。実は今執筆中だった作品が思った以上ペンが進んで仕上げる事が出来たんだ。そこで息抜きがてら出て来たんだ。こんなに早く作品が仕上がるとは思っていなかったからな。こんな事ならエドガーにわざわざ頼む必要も無かった」

「そうだったのですか…」

小さな声で返事をするヒルダにノワールが尋ねて来た。

「ところでヒルダ…。こんなところで何をしているんだ?エドガーとデートじゃなかったのか?」

「え…?デート…?」

ヒルダにはデートだと言う感覚はまるでなかった。エドガーに誘われたから出て来た。ただ、それだけの事だったのだが…。

「何だ?デートじゃないって言いたいのか?年齢の近い男女が一緒に約束して出掛ける…。これをデートと言わずに何と言うのだ?」

「た、確かにそう言われるとデートと言えるのかもしれませんけど…」

「ところでエドガーはどうした?2人で一緒にここの出版社に来たんじゃ無かったのか?」

ノワールの質問にヒルダは先ほどの事を思い出してしまった。冷たい視線で見つめて来るリゼのあの視線を…。

(駄目だわ…あの視線を見ると、グレースさんの事を思い出してしまう…)

元はと言えば、ルドルフが死んでしまったきっかけを作ったのは全て自分のせいだとヒルダは責めていた。ルドルフに恋して、婚約者になってもらったのが全てのきっかけだったのだと。もうあの時の二の舞は御免だった。

「あの…この出版社は関係者以外立ち入り禁止だそうですので…。考えてみればそうですよね?まだ未発売の小説だって沢山取り扱っている場所に部外者が出入りするわけにはいきませんよね?だから、私だけ出て来たのです。エドガー様はまだ打ち合わせがあるそうですから、中にいらっしゃいますよ」

「え…?何だって?その話は…」

ノワールの顔色が変わる。

「ノワール様はこれから出版社に行かれるのですよね?ではエドガー様に伝えて下さいますか?私は今日はもうこれで帰りますと…」

「待てヒルダッ!」

ノワールは大きな声でヒルダの言葉を制した。

「ノ、ノワール様…?」

その声の大きさにヒルダは驚き、顔を上げて息を飲んだ。何故ならノワールが険しい顔でヒルダを見つめていたからである。

「ヒルダ。一体誰に言われたのだ?部外者以外立ち入り禁止だと…」

「すみません。お名前は分りませんでしたけど…若い女性の方でした。ノワール様の担当者のアシスタントの方だと仰っておりましたが…?」

「チッ!リゼ…彼女か…」

「リゼ?あの方はリゼと仰るのですか?」

「行くぞ、ヒルダ」

ノワールはヒルダの腕を掴むと言った―。
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