上 下
509 / 566

第7章 4 カミラの回想

しおりを挟む
「雪が降って来たわ…。ヒルダ様、そろそろお帰りになる頃かしら…」

窓の外を眺めながらカミラはポツリと呟き、薪ストーブの上に置かれたケトルをポットに注ぎ入れながら、エドガーと交わした会話を思い出していた―。


****

 エドガーがアパートメントを訪ねて来たのは午後3時を少し過ぎたところだった。カミラはこの日たまたま仕事が休みで家で家事をしていた。明日はミートパイを作ろうと思い、下ごしらえをしていた時に部屋の中にノックの音が響いた。

コンコン

「あら…?誰かしら?」

カミラは玄関へ向かい、ドアアイで外を確認して驚いた。何とそこに立っていたのはエドガーだったからである。慌てて扉を開けると、エドガーが笑顔でカミラに言った。

「久しぶりだな、カミラ。ヒルダは…いるかな?」

「はい、おひさしぶりです。エドガー様。ヒルダ様なら本日はアルバイトに行っておりますが?」

「そうか…アルバイトか…何時に終わるのだろう?」

「5時には終わりますよ?」

「そうか…5時か…」

「宜しければ部屋の中でお待ちになりますか?」

「え?いいのか?」

「ええ。もちろんです。どうぞ」

カミラは笑顔でエドガーを招き入れた。



「お茶をどうぞ」

カミラはリビングに招き入れたエドガーの前に紅茶が注がれたティーカップを置いた。

「ああ、ありがとう」

エドガーは早速紅茶に口を付けると言った。

「ありがとう、美味しいよ」

「いえ…」

「ところでカミラ…聞きたい事があるんだが…」

「はい、何でしょう?」

「ヒルダに聞いたんだ。カミラは今、ヒルダの主治医でもあり…アルバイト先のアレン先生と交際しているって」

「は、はい。そうです」

カミラは少しだけ頬を染めながら返事をする。

「いずれ…結婚は考えているのだろう?」

「そ、そうですね…。アレン先生にはさり気なく将来の話はされていますから。ですが、そうなった場合…」

そこでカミラは言葉を切った。実はカミラは以前からアレンにプロポーズをされていた。ただ…そうなると、ヒルダを1人きりにしてしまうことになる。

「ひょっとして…ヒルダの事を気にしているのか?」

「!は、はい…」

エドガーは少しの間だけ、無言だったが…やがて口を開いた。 

「カミラも既に知っているとは思うが…俺はヒルダの事を…愛している。ルドルフとヒルダの仲を応援しつつも…ヒルダへの思いを断ち切ることが出来なかったんだ…」

「エドガー様…」

「恐らく、ヒルダは俺の事などこれっぽっちも思ってはいないだろうけど…近いうちにヒルダにプロポーズしたいと思っている。仮に断られたとしても…兄としてヒルダを支えていきたいと考えているんだ。だから…安心してアレン先生と結婚していいと俺はおもっているよ」

そしてエドガーは再び紅茶に口をつけた―。


****

「エドガー様は…ひょっとすると今夜ヒルダ様にプロポーズされたのかしら…」

ぽつりと呟いたとき…。

「ただいま」

玄関でヒルダの声が響き渡った―。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

愛人を切れないのなら離婚してくださいと言ったら子供のように駄々をこねられて困っています

永江寧々
恋愛
結婚生活ニ十周年を迎える今年、アステリア王国の王であるトリスタンが妻であるユーフェミアから告げられたのは『離婚してください」という衝撃の告白。 愛を囁くのを忘れた日もない。セックスレスになった事もない。それなのに何故だと焦るトリスタンが聞かされたのは『愛人が四人もいるから』ということ。 愛している夫に四人も愛人がいる事が嫌で、愛人を減らしてほしいと何度も頼んできたユーフェミアだが、 減るどころか増えたことで離婚を決めた。 幼子のように離婚はしたくない、嫌だと駄々をこねる夫とそれでも離婚を考える妻。 愛しているが、愛しているからこそ、このままではいられない。 夫からの愛は絶えず感じているのにお願いを聞いてくれないのは何故なのかわからないユーフェミアはどうすればいいのかわからず困っていた。 だが、夫には夫の事情があって…… 夫に問題ありなのでご注意ください。 誤字脱字報告ありがとうございます! 9月24日、本日が最終話のアップとなりました。 4ヶ月、お付き合いくださいました皆様、本当にありがとうございました! ※番外編は番外編とも言えないものではありますが、小話程度にお読みいただければと思います。 誤字脱字報告ありがとうございます! 確認しているつもりなのですが、もし発見されましたらお手数ですが教えていただけると助かります。

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

処理中です...