嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

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第7章 3 明日の約束

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「もう夜も遅いし、アパートメントまで送る」

「ですが…まだ人通りも沢山ありますし、アパートメントはメインストリートにあるから大丈夫ですよ?」

しかし、エドガーは首を振った。

「駄目だ、ヒルダは…人目を惹く容姿をしている。1人で歩いていて悪い男に声でも掛けられたらどうする?」

(お兄様は…余程私の事が心配なのね…)

ヒルダはクスリと笑うと言った。

「分かりました…ではお願いできますか?」

「ああ、勿論だ。それじゃ行こう」

そしてヒルダとエドガーは2人で一緒にアパートメントに向かって歩き始めた。



「ノワール様は…今、どうしているのですか?」

ヒルダは歩きながらエドガーに尋ねた。

「ああ、兄さんは大学が休みの間に書き溜めていた小説のアイデアを元に、執筆活動を続けると言ってるよ」

「そうですか、お忙しそうですね…」

「…ヒルダ。兄さんの事が…気になるのか?」

「え?」

どこか寂し気なエドガーの口調にヒルダは顔を上げて、ドキリとした。そこには悲し気な瞳でヒルダを見つめているエドガーの姿があったからだ。

「そ、それは…ノワール様には色々助けて頂きましたから…」

そう、ノワールは苦手な相手でもあったが、恩人でもあった。そして絵本作家を目指しているヒルダにとって、ベストセラー作家のノワールは憧れの存在でもあった。

「そうか…でも確かに、兄さんには感謝してもしきれないな…俺を救ってくれたのだから…」

ポツリというエドガーの言葉にヒルダは何も言えなかった。エドガーの苦しみを作ったのは自分だと思うと、何と声を掛ければよいか分からなかったからだ。

(そうよ…私はずっとお兄様が幸せになるまでは…贖罪していかなければならないのだわ…)

ヒルダは心の中で思った―。



****

 10分程夜の町を2人で歩き…ヒルダとエドガーはアパートメントに到着した。

「エドガー様、もしよければ…寄っていきませんか?お茶くらいならお出し出来ますが…」

しかし、エドガーは首を振った。

「いや、いいよ。ヒルダを送り届けたらそのまま帰ろうと思っていたから」

「ですが…」

ヒルダは白い息を吐きながらエドガーを見上げた。その時…。白い粉雪が空から舞い降りてきた。

「あ…」

「雪…だな…どうりで冷えると思った…」

「そうですね」

「ヒルダ…」

不意にエドガーがヒルダの名を呼ぶ。

「何でしょうか?」

「明日の予定はどうなっているんだ?」

「明日はアルバイトはお休みです。カミラがお仕事の日なので私が家事を担当します」

「そうなのか?明日は特にこれと言った予定はないんだな?」

エドガーの声が何処か嬉しそうだった。

「はい、そうですが?」

「それなら家事が一段落したら…一緒に何処かへ出かけないか?」

「お出かけ…ですか?何処へ…?」

するとエドガーは少しだけ頬を赤らめながら言う。

「それは…何処だって構わない。ヒルだと一緒に出かけられるなら…」

「…分かりました。いいですよ」

「本当に…いいのか?」

エドガーは目を見開いてヒルダを見る。

「ええ、勿論です」

「ありがとう、ヒルダ」

エドガーは満面の笑みを浮かべると尋ねてきた。

「それで…何時からなら大丈夫だろうか?」

ヒルダは少し考えると答えた。

「そうですね。11時くらいなら…大丈夫だと思います」

「わかった、なら11時に迎えに来るよ。それじゃ」

「はい、おやすみなさい」

「ああ、おやすみ」

そしてエドガーはヒルダに背を向けると小雪の舞う中、歩き去っていった―。
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