嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
506 / 566

第7章 1 エドガーとの再会

しおりを挟む
 ヒルダがノワールとエドガーと共にカウベリーを出て、3日が経過していた―。

それはヒルダがアレンの診療所のアルバイトから帰宅する時の出来事だった。


午後5時―

ヒルダのアルバイトの退勤時間になった。

「それではアレン先生、お先に失礼します」

丁度診療所の患者がいなくなった時間を見計らって、ヒルダはアレンに挨拶をした。

「ああ、お疲れ様。そうだ、帰宅したらカミラに…」

「ええ、分かっています。今週の土曜の夜の食事の誘いですね?カミラに伝えておきますね」

ヒルダは笑みを浮かべてアレンに返事をするとリンダとレイチェルにも挨拶を済ませ、ヒルダは診療所を出た。

「今日は寒いわ…」

すっかり日が暮れ、一番星が見える夜空を見上げた時―。

「ヒルダ」

突然背後から声を掛けられた。

「え?」

驚いて振り向くと、そこには白い息を吐きながらエドガーが立っていた。

「お、お兄様っ!な、何故ここに?」

するとエドガーが言った。

「実は、昨日から俺も兄と一緒に『ロータス』で暮らし始めたんだ。それで、今日はヒルダに会いにアパートメントに行ったら、カミラが出てきて教えてもらったんだ。今日はアレン先生の診療所でアルバイトの日だって。就業時間を聞いて会いに来たんだよ」

「そうだったのですね」

するとエドガーが自分の巻いているマフラーを外すとヒルダの首にかけた。

「寒いだろう?これを使うといい」

「そんな…お兄様の方が寒いのではありませんか?私が出てくるのを外で待っていたのですよね?」

「いいんだ、俺は男だし…それにヒルダは身体を冷やしては駄目だ。足だって痛むだろう?いいからそれを使え」

「はい…ありがとうございます」

「ああ…」

少しの間、エドガーはヒルダを愛おしげに見つめていたがやがて言った。

「ヒルダ…カミラには既に許可を貰っているんだが…今夜一緒に食事に行かないか?」

「食事ですか?」

そこでヒルダは自分の手持ちがいくらあるか少し考えて返事をした。

「はい。行きます」

「そうか…良かった。なら行こう。実は診療所へ行く途中にちょっと良い雰囲気の店を見つけたんだ。そこに行かないか?」

「ええ。行きます」

ヒルダはエドガーに負い目がある。断るという選択肢は無かった。

そしてヒルダとエドガーは並んで夜のロータスの町を歩き始めた―。



****

「素敵なお店ですね。何ていうか…少し大人の雰囲気があります」

店に入ったヒルダは言った。そこはジャズの生演奏を聴くことが出来るレストランで、店内はレンガの壁づくりになっていた。丸テーブルの上にはテーブルランプが置かれ、メニューの内容もワンプレート方式で最近流行りのスタイルだった。

「そうだな…でも気にいってもらえて良かったよ。ヒルダもワインを頼まないか?」

メニュー表を差し出しながらエドガーは尋ねた。

(明日はアルバイトはお休みだし…少しくらいならいいかもしれないわ)

少しだけ考えたヒルダは返事をした。

「はい、お兄様。それなら1杯だけいただきます」

返事をしたが、何故かエドガーは悲しげな顔をヒルダに見せる。

「お兄様?どうかされましたか?」

(どうしよう…私、ひょっとするとお兄様の気に障ることを言ってしまったのかしら…)

しかし、エドガーの口から出た言葉はヒルダの想像とは違った。

「お兄様…か…。ヒルダ。頼みがあるんだ。俺の事…もう名前で呼んでもらえないだろうか…?」

そして切なげな瞳でヒルダを見つめた―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください

今川幸乃
恋愛
貧乏令嬢のリッタ・アストリーにはバート・オレットという婚約者がいた。 しかしある日突然、バートは「こんな貧乏な家は我慢できない!」と一方的に婚約破棄を宣言する。 その裏には彼の領内の豪商シーモア商会と、そこの娘レベッカの姿があった。 どうやら彼はすでにレベッカと出来ていたと悟ったリッタは婚約破棄を受け入れる。 そしてバートはレベッカの言うがままに、彼女が「絶対儲かる」という先物投資に家財をつぎ込むが…… 一方のリッタはひょんなことから幼いころの知り合いであったクリフトンと再会する。 当時はただの子供だと思っていたクリフトンは実は大貴族の跡取りだった。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います

菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。 その隣には見知らぬ女性が立っていた。 二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。 両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。 メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。 数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。 彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。 ※ハッピーエンド&純愛 他サイトでも掲載しております。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。 彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。 優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。 王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。 忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか? 彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか? お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

処理中です...