嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第6章 10 エドガーの離婚届 

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 ヒルダを買い取る…。その言葉にハリスは激怒した。

「おいっ!お前…何という事を言うのだっ?!ヒルダは物ではない!買い取るなどという言葉遣いをするなっ!」

ハリスは顔を真っ赤にさせ、ノワールを指差す。

「買い取る?それでは尋ねますが、伯爵がヒルダを年配の有力貴族に嫁がせようとするのはどうなのですか?ヒルダの嫁ぎ先から援助をしてもらう…。俺がヒルダを買い取る行為とどう違うと言うのです?ああ、そうだ。貴方にはまだ報告していませんでしたが、エドガーと結婚した女性…確かエレノアでしたっけ?あの女性から離婚届を預かって来ておりますよ。後はエドガーがサインをすればいいだけです」

「えっ?!」

「何だとっ?!」

エドガーとハリスが驚きの声を上げる。

「い、一体今の台詞はどういう意味だっ!嘘をつくのも大概にしろっ!」

ハリスは額に血管を浮かび上がらせながら怒鳴る。

「そうですね。口で言うよりも実際に書類を目にしたほうが良いでしょうね」

ノワールは言うとポケットから4つ折りに畳んだ書類を取り出し、ハリスの眼前で広げてみせた。確かにその書類は離婚届けであり、しっかりとエレノアのサインが記されている。

「い、一体…これはどういう事なのだ…」

ハリスは目を見開いて書類を見つめている。するとノワールが言った。

「簡単なことですよ。俺がトナー家に高額な慰謝料を支払い、先方から離婚しても良いと承諾を得て書類を書いて貰ったのですよ」

「何だとっ!何故その様な勝手な真似を…!」

「勝手な真似?エドガーは確かに貴方の養子になって貴方の息子になったのは確かだが…俺にとってもエドガーは大切な弟でね」

言いながらノワールはエドガーを見た。

「兄さん…」

エドガーは信じられない思いで2人の会話を黙って聞いていた。

(まさか兄さんがエレノアに離婚届を書いてもらっていたなんて、いつの間に…。けれど、あの書類にサインをすれば…俺はエレノアと離婚出来るんだ…)

そしてそれと同時に不謹慎ながらヒルダの顔が脳裏に浮かび…エドガーは首を振った。

(駄目だ…きっと俺の離婚が成立しても…ヒルダが俺を受け入れてくれる事はないのだろうな…)

その時、ハリスがいきなりエドガーに声を掛けた。

「エドガーッ!まさか…この離婚届にサインするつもりではないだろうな?!もし離婚すれば、『カウベリー』の未来は無いかも知れないんだぞっ!仮に書類にサインするならすぐに次の見合いをさせるからな!」

ハリスは何とかしてエドガーに離婚を思いとどまらせようとしていた。何故ならハリは、農地改革の為に必要な機材を購入する為に多額の投資をして借金を作っていたからである。

「!そ、それは…」

エドガーはその言葉に項垂れる。

(やはり…俺は望まない結婚から逃れられないのか…?)

するとノワールが言った。

「だから、先程言ったでしょう?エドガーを買い取ると。早く小切手にお好きな額面の金額を書いて下さい。貴方が望むだけの金を支払いますよ?」

「何だと…!お前の様な貧乏貴族風情が一体何を…」

ハリスは言いかけて、ふと思った。

(待てよ…そう言えばトナー家に慰謝料を支払ったから、離婚届にサインを貰えたと言っていたな…?)

そこでハリスは咳払いすると言った。

「ところで、尋ねるが本当に君はお金を持っているのか?実家は貧しかったはずだが?」

ハリスはエドガーとちらりと見ると言った。

「どうやら、俺がお金を持っているかどうか疑っているんですね?貴方は何も知らないようだから、この際特別に教えてあげましょう。俺はペンネームを使って小説を書いていて…気づけばベストセラー作家になっていたのですよ」

ノワールは不敵な笑みを浮かべながら言った―。
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