嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
490 / 566

第6章 5 探しに来た人物は

しおりを挟む
 パーティ会場を出るとすぐにエドガーがヒルダに話しかけてきた。

「ヒルダ…聞きたいことがあるのだが…」

「はい、何でしょうか?」

「ひょっとして…兄と…付き合っているのか?」

「いいえ、まさか…ありえません」

(ノワール様は私のことを憎んでいるのにそんなはず無いわ)

しかし、その理由をエドガーに話すことは出来ない。ノワールはエドガーの兄であり、エドガーとノワールは互いを思いやっている実の兄弟なのだから。

「ヒルダは…兄のことを好き…なのか?」

「え?」

あまりの突然の質問にヒルダは驚いて顔を上げた。エドガーは真剣な眼差しでヒルダをじっと見つめている。

「ノワール様には好きだとか…そういう感情は持ったことはありませんので…」

「そうか…」

どこかホッとした様子のエドガーにヒルダは複雑な感情を持ちながら尋ねた。

「お兄様…ひょっとして今夜のクリスマスパーティーですが…ただ単にクリスマスをお祝いする為のパーティーなのですか?」

「え?な、何故そんな話を…?」

エドガーの姿は少し焦りを感じているように見えた。

(やはり…他に何か意図があったのね…)

ヒルダは今回のクリスマスパーティーにある疑念を抱いていた。エドガーの結婚生活がこじれている今、何故わざわざ盛大なクリスマスパーティーを開くのか…。ヒルダは伯爵令嬢であり、少しは有力貴族たちの顔を知っていた。今回のパーティー会場には領民達以外に貴族たちの姿もあったからだ。

「もしかすると、今回のクリスマスパーティーの本当の目的は…私の結婚相手か、もしくはお兄様の再婚相手を探すのが目的のパーティーだったのではないですか?」

ヒルダは先程自分に声を掛けてきたトビアスを見て、そう感じたのだ。

(あの方はお兄様の御友人…あの様子では恐らくご結婚も婚約者もいらっしゃらないのではないかしら…)

そこまで話をした時、丁度ヒルダの部屋の前に2人はたどり着いていた。

「お兄様、お部屋までついてきて下さってありがとうございました。それでは私は部屋で休ませて頂きますね」

頭を下げて部屋へ戻ろうとした時…。

「ヒルダッ!待ってくれっ!」

不意に右腕を掴まれ、引き寄せられた次の瞬間…ヒルダはエドガーに抱きしめられていた。

「お、お兄様…」

「ヒルダ…」

エドガーはヒルダの柔らかな金の髪に顔を埋めながら言った。

「お前の言ったとおりだ…。父は今回のクリスマスパーティーで周辺に住む有力貴族たちを招き、俺だけでなく、ヒルダの結婚相手も探すつもりなんだ…。俺はまだ離婚すら成立していないのに…。さっきパーティー会場で会ったあいつだって…お前の婚約候補者だ…。だが、俺は…他の誰とも…」

エドガーはヒルダを力強く抱きしめ、身体を震わせている。

「お、お兄様…」

ヒルダはエドガーに強く抱きしめられ、息が詰まりそうになっていた。

「お兄様…お、落ち着いて下さ…い。」

その時―。

「エドガー様っ?!」

廊下にマルコの声が響き渡った。エドガーはその声に驚き、ハッとなって慌てて身体を離した。

「エドガー様…一体ヒルダ様に何を…」

マルコは青ざめながらエドガーを見ている。マルコはパーティ会場からいなくなったエドガーを探していたのだ。

「あ…」

ヒルダはバツが悪そうに顔を伏せた。

(そ、そんな…よりにもよってルドルフのお父さんに見られてしまうなんて…)

尤も、それはエドガーにとっても同じことであった。エドガーとルドルフは親しい仲であり、マルコもその事を知っていたからだ。

マルコはゴホンと咳払いすると言った。

「エドガー様…旦那様がお探しになっております。パーティー会場にお戻り下さい」

「あ、ああ…分かった…」

エドガーは頷くとヒルダを見た。

「…すまなかった。ヒルダ…」

「いいえ…」

ヒルダは俯く。

「それでは参りましょう」

「ああ…」

エドガーはマルコに促され、2人はヒルダに背を向けるとパーティー会場へと戻って行った―。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約破棄されたい公爵令息は、子供のふりをしているけれど心の声はとても優しい人でした

三月叶姫
恋愛
北の辺境伯の娘、レイナは婚約者であるヴィンセント公爵令息と、王宮で開かれる建国記念パーティーへ出席することになっている。 その為に王都までやってきたレイナの前で、ヴィンセントはさっそく派手に転げてみせた。その姿はよく転ぶ幼い子供そのもので。 彼は二年前、不慮の事故により子供返りしてしまったのだ――というのは本人の自作自演。 なぜかヴィンセントの心の声が聞こえるレイナは、彼が子供を演じている事を知ってしまう。 そして彼が重度の女嫌いで、レイナの方から婚約破棄させようと目論んでいる事も。 必死に情けない姿を見せつけてくる彼の心の声は意外と優しく、そんな彼にレイナは少しずつ惹かれていった。 だが、王宮のパーティーは案の定、予想外の展開の連続で……? ※設定緩めです ※他投稿サイトにも掲載しております

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

処理中です...