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第6章 5 探しに来た人物は
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パーティ会場を出るとすぐにエドガーがヒルダに話しかけてきた。
「ヒルダ…聞きたいことがあるのだが…」
「はい、何でしょうか?」
「ひょっとして…兄と…付き合っているのか?」
「いいえ、まさか…ありえません」
(ノワール様は私のことを憎んでいるのにそんなはず無いわ)
しかし、その理由をエドガーに話すことは出来ない。ノワールはエドガーの兄であり、エドガーとノワールは互いを思いやっている実の兄弟なのだから。
「ヒルダは…兄のことを好き…なのか?」
「え?」
あまりの突然の質問にヒルダは驚いて顔を上げた。エドガーは真剣な眼差しでヒルダをじっと見つめている。
「ノワール様には好きだとか…そういう感情は持ったことはありませんので…」
「そうか…」
どこかホッとした様子のエドガーにヒルダは複雑な感情を持ちながら尋ねた。
「お兄様…ひょっとして今夜のクリスマスパーティーですが…ただ単にクリスマスをお祝いする為のパーティーなのですか?」
「え?な、何故そんな話を…?」
エドガーの姿は少し焦りを感じているように見えた。
(やはり…他に何か意図があったのね…)
ヒルダは今回のクリスマスパーティーにある疑念を抱いていた。エドガーの結婚生活がこじれている今、何故わざわざ盛大なクリスマスパーティーを開くのか…。ヒルダは伯爵令嬢であり、少しは有力貴族たちの顔を知っていた。今回のパーティー会場には領民達以外に貴族たちの姿もあったからだ。
「もしかすると、今回のクリスマスパーティーの本当の目的は…私の結婚相手か、もしくはお兄様の再婚相手を探すのが目的のパーティーだったのではないですか?」
ヒルダは先程自分に声を掛けてきたトビアスを見て、そう感じたのだ。
(あの方はお兄様の御友人…あの様子では恐らくご結婚も婚約者もいらっしゃらないのではないかしら…)
そこまで話をした時、丁度ヒルダの部屋の前に2人はたどり着いていた。
「お兄様、お部屋までついてきて下さってありがとうございました。それでは私は部屋で休ませて頂きますね」
頭を下げて部屋へ戻ろうとした時…。
「ヒルダッ!待ってくれっ!」
不意に右腕を掴まれ、引き寄せられた次の瞬間…ヒルダはエドガーに抱きしめられていた。
「お、お兄様…」
「ヒルダ…」
エドガーはヒルダの柔らかな金の髪に顔を埋めながら言った。
「お前の言ったとおりだ…。父は今回のクリスマスパーティーで周辺に住む有力貴族たちを招き、俺だけでなく、ヒルダの結婚相手も探すつもりなんだ…。俺はまだ離婚すら成立していないのに…。さっきパーティー会場で会ったあいつだって…お前の婚約候補者だ…。だが、俺は…他の誰とも…」
エドガーはヒルダを力強く抱きしめ、身体を震わせている。
「お、お兄様…」
ヒルダはエドガーに強く抱きしめられ、息が詰まりそうになっていた。
「お兄様…お、落ち着いて下さ…い。」
その時―。
「エドガー様っ?!」
廊下にマルコの声が響き渡った。エドガーはその声に驚き、ハッとなって慌てて身体を離した。
「エドガー様…一体ヒルダ様に何を…」
マルコは青ざめながらエドガーを見ている。マルコはパーティ会場からいなくなったエドガーを探していたのだ。
「あ…」
ヒルダはバツが悪そうに顔を伏せた。
(そ、そんな…よりにもよってルドルフのお父さんに見られてしまうなんて…)
尤も、それはエドガーにとっても同じことであった。エドガーとルドルフは親しい仲であり、マルコもその事を知っていたからだ。
マルコはゴホンと咳払いすると言った。
「エドガー様…旦那様がお探しになっております。パーティー会場にお戻り下さい」
「あ、ああ…分かった…」
エドガーは頷くとヒルダを見た。
「…すまなかった。ヒルダ…」
「いいえ…」
ヒルダは俯く。
「それでは参りましょう」
「ああ…」
エドガーはマルコに促され、2人はヒルダに背を向けるとパーティー会場へと戻って行った―。
「ヒルダ…聞きたいことがあるのだが…」
「はい、何でしょうか?」
「ひょっとして…兄と…付き合っているのか?」
「いいえ、まさか…ありえません」
(ノワール様は私のことを憎んでいるのにそんなはず無いわ)
しかし、その理由をエドガーに話すことは出来ない。ノワールはエドガーの兄であり、エドガーとノワールは互いを思いやっている実の兄弟なのだから。
「ヒルダは…兄のことを好き…なのか?」
「え?」
あまりの突然の質問にヒルダは驚いて顔を上げた。エドガーは真剣な眼差しでヒルダをじっと見つめている。
「ノワール様には好きだとか…そういう感情は持ったことはありませんので…」
「そうか…」
どこかホッとした様子のエドガーにヒルダは複雑な感情を持ちながら尋ねた。
「お兄様…ひょっとして今夜のクリスマスパーティーですが…ただ単にクリスマスをお祝いする為のパーティーなのですか?」
「え?な、何故そんな話を…?」
エドガーの姿は少し焦りを感じているように見えた。
(やはり…他に何か意図があったのね…)
ヒルダは今回のクリスマスパーティーにある疑念を抱いていた。エドガーの結婚生活がこじれている今、何故わざわざ盛大なクリスマスパーティーを開くのか…。ヒルダは伯爵令嬢であり、少しは有力貴族たちの顔を知っていた。今回のパーティー会場には領民達以外に貴族たちの姿もあったからだ。
「もしかすると、今回のクリスマスパーティーの本当の目的は…私の結婚相手か、もしくはお兄様の再婚相手を探すのが目的のパーティーだったのではないですか?」
ヒルダは先程自分に声を掛けてきたトビアスを見て、そう感じたのだ。
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「お兄様、お部屋までついてきて下さってありがとうございました。それでは私は部屋で休ませて頂きますね」
頭を下げて部屋へ戻ろうとした時…。
「ヒルダッ!待ってくれっ!」
不意に右腕を掴まれ、引き寄せられた次の瞬間…ヒルダはエドガーに抱きしめられていた。
「お、お兄様…」
「ヒルダ…」
エドガーはヒルダの柔らかな金の髪に顔を埋めながら言った。
「お前の言ったとおりだ…。父は今回のクリスマスパーティーで周辺に住む有力貴族たちを招き、俺だけでなく、ヒルダの結婚相手も探すつもりなんだ…。俺はまだ離婚すら成立していないのに…。さっきパーティー会場で会ったあいつだって…お前の婚約候補者だ…。だが、俺は…他の誰とも…」
エドガーはヒルダを力強く抱きしめ、身体を震わせている。
「お、お兄様…」
ヒルダはエドガーに強く抱きしめられ、息が詰まりそうになっていた。
「お兄様…お、落ち着いて下さ…い。」
その時―。
「エドガー様っ?!」
廊下にマルコの声が響き渡った。エドガーはその声に驚き、ハッとなって慌てて身体を離した。
「エドガー様…一体ヒルダ様に何を…」
マルコは青ざめながらエドガーを見ている。マルコはパーティ会場からいなくなったエドガーを探していたのだ。
「あ…」
ヒルダはバツが悪そうに顔を伏せた。
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尤も、それはエドガーにとっても同じことであった。エドガーとルドルフは親しい仲であり、マルコもその事を知っていたからだ。
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「…すまなかった。ヒルダ…」
「いいえ…」
ヒルダは俯く。
「それでは参りましょう」
「ああ…」
エドガーはマルコに促され、2人はヒルダに背を向けるとパーティー会場へと戻って行った―。
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