上 下
482 / 566

第5章 20 ハリスの牽制

しおりを挟む
「ヒルダッ!今年の冬期休暇はカウベリーには戻ってこないと言っていたけれども…帰ってきてくれたのだなっ?!」

ハリスはヒルダに駆け寄り、力強く抱きしめると言った。

「は、はい…お父様」

ヒルダはそっとハリスの背中に手を回した。

「ヒルダ…お帰り…」

そしてハリスはヒルダから離れると気まずそうに立っているエドガーに言った。

「エドガー。ひょっとすると…お前が言っていた大切な客とはヒルダの事だったのか?」

その声は何処か棘々しかった。

「!い、いえっ!それは…」

「違いますっ、お父様っ!」

ヒルダはエドガーの前に立ちはだかると言った。

「私はお兄様のお客様と一緒にカウベリーへ来たのです。その方は途中で体調を崩してしまい、今はカウベリーのホテルでお休みになっていらっしゃいます。その方は私と同じ大学に通っている方で偶然出会ったのです」

「ヒルダ…ッ!」

ヒルダの背後で驚いた様子のエドガーの声が聞こえた。

(どうしよう…私…。お兄様をかばうためとはいえ…お父様に嘘をついてしまったわ…。だけど、そうでなければお兄様が…)

ヒルダの真剣な様子を見てハリスは唸った。

「ヒルダ…その話は本当なのか…?」

「はい、本当です」

頷くヒルダにハリスは言った。

「ま、まぁ…体調を崩されたのなら仕方あるまい。それにその方のお陰だしな、ヒルダがこうして再び故郷へ戻ってきてくれたのも」

そこへ騒ぎを聞きつけてマーガレットがエントランスに現れた。

「まぁ…!ヒルダッ!」

「ただいま…お母様」

「お帰りなさい、ヒルダッ!」

マーガレットはヒルダに近付くと抱きしめた。

「…はい」

母娘は少しの間、エントランスで抱き合っていた―。



****

「ヒルダ、疲れただろう?パーティーが始まるまでまだ少し時間があるから部屋で休んでくると良い」

ハリスがヒルダに言う。

「はい、お父様…」

「エドガー、お前は残りなさい。話がある」

ハリスが厳しい目でエドガーを見る。

「はい…」

うつむいて返事をするエドガーを見てヒルダはとっさに言った。

「お父様、足が痛むので…お兄様にお部屋まで連れて行って欲しいのですが」

「何?」

ハリスの目が厳しくなる。

「!」

エドガーはその言葉にピクリと反応した。

「ヒルダ、だったら私がお前を部屋まで連れて行ってやろう」

ハリスの言葉にヒルダは首を振る。

「いいえ、お父様。お父様にはご挨拶をしなければならないお客様方が大勢いらっしゃるのではないですか?なのでお兄様にお願いしたいです」

可愛い娘の訴えにハリスは渋々首を縦に振る。

「わ、分かった…ヒルダがそこまで言うなら…エドガー。ヒルダを部屋まで連れて行ってやりなさい」

「はい、分かりました」

返事をするエドガーにハリスは言った。

「いいか?エドガー。分かっているだろうが、くれぐれも…」

そこから先は言わない。だが、言われなくてもエドガーには分かっていた。

「ええ、分かっています」

素直に返事をするエドガー。

(多分、父はこう言いたいのだろうな…くれぐれもヒルダには手を出すな、と…。言われなくてもそんな事出来るはずがないのに…)

「それじゃ、行こうか?ヒルダ」

「はい、お兄様」

エドガーが差し出した右手につかまるとヒルダは言った―。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

処理中です...