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第5章 15 特別車両
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馬車がロータス駅に到着すると、ノワールが無言でヒルダに手を差し伸べて来た。
「有難うございます」
ヒルダはノワールの手を借りて2人で降りた。ノワールは多めの路銀を渡すと馬車は再び走り去っていく。
「よし、行こう」
ノワールはヒルダの顔も見ずに声を掛けると、さっさと歩きだしてしまった。
(もう何を尋ねても答えてくれそうにないから黙ってついていくしかないわね…)
ヒルダは杖をつきながらノワールの後を追った。
改札を通り抜けてホームに出ると、汽車は既に蒸気を拭き上げながら停車していた。そしてすぐ目の前にはノワールがこちらを向いて立っていた。
「待っていて下さったのですか?」
「ああ。当然だろう。こっちだ。指定席を買ってあるんだ」
ノワールは踵を返すと再びホームに沿って歩きだす。ヒルダも黙ってその後を追った。
少し歩き続けるとノワールはピタリと足を止めたのでヒルダも立ち止まり、汽車を見上げて息を飲んだ。何とそこは特別車両の列だった。
「あ、あの…まさか、この車両ですか?」
「ああ、そうだ。汽車で4時間も乗るんだ。少しでも楽な席が良いだろう?ヒルダは足が悪いんだし」
「え…?」
(まさかノワール様は私の足の事を気遣って…?)
「あ、ありがとうございます…」
「べつに礼を言う程の事じゃない。行くぞ」
「はい」
ノワールが列車に乗り込んだので、ヒルダも後に続いた。
特別車両は他の車両とは全てが異なっていた。床には品の良いグレーのカーペットが敷かれている。座席は背もたれが倒せるようになっており、程よい形で座り心地が良かった。また窓に取り付けられたカーテンもワインレッド色の上質な手触りだった。
(この車両の席だけで金貨1枚にはなりそうだわ…)
ヒルダがキョロキョロしているとノワールが声を掛けて来た。
「何をキョロキョロしているんだ?もうすぐ出発するから座っていた方がいいぞ」
「は、はい…」
ヒルダはノワールの向かい側に座った。ノワールはチラリとヒルダを見ただけですぐにカバンの中から本を取り出して読み始めたのでヒルダは窓の外を眺める事にした。
やがて汽車は大きな汽笛を上げて、ゆっくりと走り始めた―。
****
ガタンゴトンと規則正しく揺れる汽車の中、ヒルダは窓の外を眺めながら横目でチラリとノワールを見た。
「…」
ノワールはヒルダの存在をまるで気にすることなく、一心不乱に本を読んでいる。
(ノワール様は本当に読書が好きなのね…)
ヒルダはノワールの様子をそっと見つめながら…いつしか眠りに落ちてしまった―。
****
「…」
ノワールは読んでいた本をパタンと閉じて、向かい側の席に座るヒルダの様子を見た。
ヒルダは長い金のまつ毛時折震わせながら眠りに就いている。
「ヒルダ…」
ノワールはヒルダの柔らかな金の髪にそっと触れ…我に返った。そして慌てた様にヒルダから離れると、再び読書の続きを始めた―。
「ヒルダ…ヒルダ」
突然ヒルダは身体を揺り起こされた。
「う~ん…」
「え?あ!」
慌てて体を起こすと、そこには自分を覗きこんでいるノワールの姿があった。
「ヒルダ、もう起きろ。じきに『カウベリー』に到着するから降りる準備を始めて置け」
「は、はい。分りました」
ヒルダは慌てて居住まいを正すと、そっとノワールの様子をうかかがった。
(いやだわ、私ったら…男の人の前で眠ってしまうなんて…)
そして心の中でためいきをついた―。
「有難うございます」
ヒルダはノワールの手を借りて2人で降りた。ノワールは多めの路銀を渡すと馬車は再び走り去っていく。
「よし、行こう」
ノワールはヒルダの顔も見ずに声を掛けると、さっさと歩きだしてしまった。
(もう何を尋ねても答えてくれそうにないから黙ってついていくしかないわね…)
ヒルダは杖をつきながらノワールの後を追った。
改札を通り抜けてホームに出ると、汽車は既に蒸気を拭き上げながら停車していた。そしてすぐ目の前にはノワールがこちらを向いて立っていた。
「待っていて下さったのですか?」
「ああ。当然だろう。こっちだ。指定席を買ってあるんだ」
ノワールは踵を返すと再びホームに沿って歩きだす。ヒルダも黙ってその後を追った。
少し歩き続けるとノワールはピタリと足を止めたのでヒルダも立ち止まり、汽車を見上げて息を飲んだ。何とそこは特別車両の列だった。
「あ、あの…まさか、この車両ですか?」
「ああ、そうだ。汽車で4時間も乗るんだ。少しでも楽な席が良いだろう?ヒルダは足が悪いんだし」
「え…?」
(まさかノワール様は私の足の事を気遣って…?)
「あ、ありがとうございます…」
「べつに礼を言う程の事じゃない。行くぞ」
「はい」
ノワールが列車に乗り込んだので、ヒルダも後に続いた。
特別車両は他の車両とは全てが異なっていた。床には品の良いグレーのカーペットが敷かれている。座席は背もたれが倒せるようになっており、程よい形で座り心地が良かった。また窓に取り付けられたカーテンもワインレッド色の上質な手触りだった。
(この車両の席だけで金貨1枚にはなりそうだわ…)
ヒルダがキョロキョロしているとノワールが声を掛けて来た。
「何をキョロキョロしているんだ?もうすぐ出発するから座っていた方がいいぞ」
「は、はい…」
ヒルダはノワールの向かい側に座った。ノワールはチラリとヒルダを見ただけですぐにカバンの中から本を取り出して読み始めたのでヒルダは窓の外を眺める事にした。
やがて汽車は大きな汽笛を上げて、ゆっくりと走り始めた―。
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ガタンゴトンと規則正しく揺れる汽車の中、ヒルダは窓の外を眺めながら横目でチラリとノワールを見た。
「…」
ノワールはヒルダの存在をまるで気にすることなく、一心不乱に本を読んでいる。
(ノワール様は本当に読書が好きなのね…)
ヒルダはノワールの様子をそっと見つめながら…いつしか眠りに落ちてしまった―。
****
「…」
ノワールは読んでいた本をパタンと閉じて、向かい側の席に座るヒルダの様子を見た。
ヒルダは長い金のまつ毛時折震わせながら眠りに就いている。
「ヒルダ…」
ノワールはヒルダの柔らかな金の髪にそっと触れ…我に返った。そして慌てた様にヒルダから離れると、再び読書の続きを始めた―。
「ヒルダ…ヒルダ」
突然ヒルダは身体を揺り起こされた。
「う~ん…」
「え?あ!」
慌てて体を起こすと、そこには自分を覗きこんでいるノワールの姿があった。
「ヒルダ、もう起きろ。じきに『カウベリー』に到着するから降りる準備を始めて置け」
「は、はい。分りました」
ヒルダは慌てて居住まいを正すと、そっとノワールの様子をうかかがった。
(いやだわ、私ったら…男の人の前で眠ってしまうなんて…)
そして心の中でためいきをついた―。
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