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第4章 8 ノワールの家族
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辻馬車は門の前で停車した。
「ありがとう」
ノワールは御者に路銀を支払うと自分とヒルダの荷物を手に取ると言った。
「降りるぞ。…1人で降りれるか?」
「は、はい降りれます」
(え…?今私を気遣ってくれたの…?)
ヒルダは初めて少しだけ気遣いを見せたノワールに戸惑っていた。
「よし、なら行くぞ」
「はい」
ノワールが馬車から降りた後ろをヒルダも続いた。
ノワールは木製の門扉を押して扉を開けると、芝生に囲まれた3階建ての四角い屋敷が現れた。白い石造りの家に赤い屋根の可愛らしい屋敷だった。
「家の中庭でガーデンパーティーをしているんだ。毎年の恒例行事さ」
ノワールは家族に会えるのが嬉しいのか笑みを浮かべているが、ヒルダはそれどころでは無かった。まるでこれから裁判所に連れて行かれて裁きを受ける…そんな心境だった。
(故郷でも帰省する度に散々白い目で見られたり、傷つく言葉を投げつけられてきたけど…また別の怖さがあるわ…)
しかし、エドガーが自分のせいで犠牲になってしまったのは言うまでもない。
(そうよ…私は責められるべき立場の人間なのだから…。で、でも…怖いわ…)
こうしてヒルダは震えながらノワールの後をついて行った―。
屋敷の裏手側に周ると賑やかな声とおいしそうな臭いが漂ってきた。そしてヒルダは見た。庭でバーベキューパーティーを開いている人たちの姿を。
「皆!帰ったよ!」
不意に隣に立っていたノワールが大きな声で呼びかけると、そこにいた人々が一斉に振り向く。そしてノワールは荷物を持って彼らの元へと駆けて行く。
「ノワール、今年も来てくれたのね」
40代後半と思われる金色の髪の女性がノワールを抱きしめた。
「ただいま、母さん」
そして2人を優し気に見つめる、同じく金色の髪の男性が声を掛ける。
「元気そうだったな。ノワール」
「ええ、父さんも元気そうですね」
「勉強頑張っているか?」
そこへ美しい青年が声を掛けて来た。その隣には栗毛色の美しい女性が立っている。
「はい。兄さん」
ノワールが返事をすると、不意に母親がヒルダの姿に気付いたのか、じっと見つめて来た。
「ノワール、あの子は誰なの?」
「ああ、彼女はヒルダと言って、俺の大学の後輩なんです。同じゼミの学生です。この町に来てみたいと言っていたので一緒に連れて来たのですよ」
「は、初めまして。ヒルダと申します」
ヒルダは慌てて頭を下げた。
「まあ…とても綺麗な方ね」
ノワールの兄嫁であるローラがヒルダを見て微笑む。
「お前の恋人なのか?初めてじゃないか。お前が誰かを家に連れ帰って来るなんて」
デイビッドが嬉しそうにノワールに言う。
「いや、そう言う訳じゃない。ヒルダ、早くこっちへおいで」
今までにない優しい態度で自分を手招きするノワールの姿にヒルダは驚いてしまった。
「は、はい…」
ヒルダは素直に彼等の傍へ行く。ノワールの機嫌を損ねる訳にはいかないからだ。
しかし、ヒルダはあることに気付いた。
「あれ?エドガーは?」
ノワールがキョロキョロしながら誰ともなしに言うと父親が答えた。
「エドガーなら家の裏手でブルーベリーを採取してくれているよ」
「そうですか。ならヒルダ。弟のエドガーに挨拶しに行ってくれるかい?」
(え…?)
ヒルダは一瞬戸惑ったが、ノワールがエドガーと2人きりでヒルダに会わせようとしている意図に気付き、頷いた。
「は、はい、行って来ます」
すると母親が言った。
「あら、1人で行かせていいの?ノワール。貴方もついて行ってあげれば?」
「い、いえ。私は1人で平気です。どうぞノワール様は此方にいて下さい」
ヒルダは素早く返事をすると、頭を下げてエドガーがいるとされている屋敷の裏手に向かった。
(この先にお兄様がいる…)
会った時にどんな顔をされるのだろう?冷たい顔で見られるか、それとも迷惑そうな顔をされるか…。
(どのみち…お兄様を傷つけてしまう事に変わりないわね…)
溜息をつきながら、ヒルダが建物の裏手に周った時…。
少し離れた場所でこちらに背を向けてブルーベリーを採取しているエドガーの後姿がヒルダの目に飛び込んできた―。
「ありがとう」
ノワールは御者に路銀を支払うと自分とヒルダの荷物を手に取ると言った。
「降りるぞ。…1人で降りれるか?」
「は、はい降りれます」
(え…?今私を気遣ってくれたの…?)
ヒルダは初めて少しだけ気遣いを見せたノワールに戸惑っていた。
「よし、なら行くぞ」
「はい」
ノワールが馬車から降りた後ろをヒルダも続いた。
ノワールは木製の門扉を押して扉を開けると、芝生に囲まれた3階建ての四角い屋敷が現れた。白い石造りの家に赤い屋根の可愛らしい屋敷だった。
「家の中庭でガーデンパーティーをしているんだ。毎年の恒例行事さ」
ノワールは家族に会えるのが嬉しいのか笑みを浮かべているが、ヒルダはそれどころでは無かった。まるでこれから裁判所に連れて行かれて裁きを受ける…そんな心境だった。
(故郷でも帰省する度に散々白い目で見られたり、傷つく言葉を投げつけられてきたけど…また別の怖さがあるわ…)
しかし、エドガーが自分のせいで犠牲になってしまったのは言うまでもない。
(そうよ…私は責められるべき立場の人間なのだから…。で、でも…怖いわ…)
こうしてヒルダは震えながらノワールの後をついて行った―。
屋敷の裏手側に周ると賑やかな声とおいしそうな臭いが漂ってきた。そしてヒルダは見た。庭でバーベキューパーティーを開いている人たちの姿を。
「皆!帰ったよ!」
不意に隣に立っていたノワールが大きな声で呼びかけると、そこにいた人々が一斉に振り向く。そしてノワールは荷物を持って彼らの元へと駆けて行く。
「ノワール、今年も来てくれたのね」
40代後半と思われる金色の髪の女性がノワールを抱きしめた。
「ただいま、母さん」
そして2人を優し気に見つめる、同じく金色の髪の男性が声を掛ける。
「元気そうだったな。ノワール」
「ええ、父さんも元気そうですね」
「勉強頑張っているか?」
そこへ美しい青年が声を掛けて来た。その隣には栗毛色の美しい女性が立っている。
「はい。兄さん」
ノワールが返事をすると、不意に母親がヒルダの姿に気付いたのか、じっと見つめて来た。
「ノワール、あの子は誰なの?」
「ああ、彼女はヒルダと言って、俺の大学の後輩なんです。同じゼミの学生です。この町に来てみたいと言っていたので一緒に連れて来たのですよ」
「は、初めまして。ヒルダと申します」
ヒルダは慌てて頭を下げた。
「まあ…とても綺麗な方ね」
ノワールの兄嫁であるローラがヒルダを見て微笑む。
「お前の恋人なのか?初めてじゃないか。お前が誰かを家に連れ帰って来るなんて」
デイビッドが嬉しそうにノワールに言う。
「いや、そう言う訳じゃない。ヒルダ、早くこっちへおいで」
今までにない優しい態度で自分を手招きするノワールの姿にヒルダは驚いてしまった。
「は、はい…」
ヒルダは素直に彼等の傍へ行く。ノワールの機嫌を損ねる訳にはいかないからだ。
しかし、ヒルダはあることに気付いた。
「あれ?エドガーは?」
ノワールがキョロキョロしながら誰ともなしに言うと父親が答えた。
「エドガーなら家の裏手でブルーベリーを採取してくれているよ」
「そうですか。ならヒルダ。弟のエドガーに挨拶しに行ってくれるかい?」
(え…?)
ヒルダは一瞬戸惑ったが、ノワールがエドガーと2人きりでヒルダに会わせようとしている意図に気付き、頷いた。
「は、はい、行って来ます」
すると母親が言った。
「あら、1人で行かせていいの?ノワール。貴方もついて行ってあげれば?」
「い、いえ。私は1人で平気です。どうぞノワール様は此方にいて下さい」
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(どのみち…お兄様を傷つけてしまう事に変わりないわね…)
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