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第4章 6 言い出せない相手
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ボーッ…
汽笛が大きく鳴り響いた。『エボニー』の駅に到着したのだ。ヒルダの向かい側の席に座っていたノワールが声をかけてきた。
「着いた、降りるぞ」
「はい」
ヒルダは左で杖をついて、右手でボストンバッグを持った時―。
「貸せよ」
ノワールの手が伸びてきてヒルダの手からボストンバッグを掴んだ。
「あ、ありがとうございます」
「…この駅の停車時間は短いからな。急ぐぞ」
「はい」
ヒルダの荷物を持ってさっさと歩くノワールを必死で追った。
ホームに降り立つと汽車を降りたのはヒルダとノワール以外に20名近い人々だった。
(カウベリーよりはこの駅は降りる人が多いのね)
ヒルダは『エボニー』で降りるのは初めてだった。この駅は『カウベリー』よりは大きな駅に見えた。
「ヒルダ、何してるんだ?行くぞ」
前方を歩いていたノワールが振り返った。
「あ、す・すみません」
ヒルダは杖をつくと、急ぎ足でノワールの後をついていった。
駅舎を出ると、目の前には土を踏み固めた道が広がっていた。駅の前には何台もの辻馬車が止まっている。
「…ここは『ロータス』に比べると田舎だからな。車は殆ど走っていない。交通手段は馬車がほとんどだ。」
ノワールはヒルダの方を見ることもなく説明する。そして1台の馬車を見つけた。
「よし、あれに乗ろう。行くぞ」
そしてノワールはヒルダの返事を聞くまでも無く、客待ちの馬車に向かってさっさと歩いていってしまう。
「はい」
ヒルダは痛む足を杖をついて引きずるようについて行く。
(足が痛いわ…もっと履き慣れた靴を履いてくるべきだったわ…)
洋服に合わせて履いた靴なので、あまりヒルダはこの靴になれていなかった。更に左足が不自由な事も有り、かなり痛みは悪化していた。ヒルダはマッサージクリームを持参してこなかったことを後悔していた。
(困ったわ…こんなに足が痛くなるとは思ってもいなかったから)
しかし、ノワールにはとてもそんな事を言い出せる雰囲気ではなかった。ヒルダは痛む足を我慢するしか無かった。
馬車につくとノワールは既に乗り込んでいた。
「早く乗れ」
椅子に座ったままのノワールがジロリと睨みつけるようにヒルダに言った。
「は、はい…」
ヒルダは杖を先に馬車に乗せると、手すりに捕まってステップに乗ろうとしたが足が痛くて片足で立つことが出来ない。
「…っ」
痛みに耐えて何とか乗り込もうとするヒルダにノワールが気付いた。
「どうした、まさか1人で乗れないのか?」
「い、いえ…だ、大丈夫です…」
(ここで1人では乗れないと言えば甘えていると言われてしまいそうだもの…)
ノワールにこれ以上叱責されたくなかったヒルダは痛みをこらえてステップに乗ろうとした時…不意にノワールが立ち上がった。
「ヒルダ、入り口を開けろ」
「?」
言われた通りにヒルダが入り口をあけるとノワールがさっさと降りてきた。そして突然ヒルダを抱え上げたのだ。
「キャッ!」
突然の事にヒルダが驚くとノワールが言った。
「おい、暴れると危ないぞ」
「は、はい」
ヒルダを抱え上げたノワールはそのままステップを踏むと馬車に乗り込み、ヒルダを椅子におろした。
「ありがとうございます…」
お礼を述べるとノワールは仏頂面で答えた。
「足が痛むならそう言うんだ。俺は何も分からないのだから」
「はい…すみません」
うつむき加減に返事をするヒルダを見てノワールは小さなため息を付くと、御者に声を掛けた。
「すみません、馬車を出して下さい」
御者は小さく頷くと、手綱を振るった。
やがて…馬車は音を立てて走り始めた―。
汽笛が大きく鳴り響いた。『エボニー』の駅に到着したのだ。ヒルダの向かい側の席に座っていたノワールが声をかけてきた。
「着いた、降りるぞ」
「はい」
ヒルダは左で杖をついて、右手でボストンバッグを持った時―。
「貸せよ」
ノワールの手が伸びてきてヒルダの手からボストンバッグを掴んだ。
「あ、ありがとうございます」
「…この駅の停車時間は短いからな。急ぐぞ」
「はい」
ヒルダの荷物を持ってさっさと歩くノワールを必死で追った。
ホームに降り立つと汽車を降りたのはヒルダとノワール以外に20名近い人々だった。
(カウベリーよりはこの駅は降りる人が多いのね)
ヒルダは『エボニー』で降りるのは初めてだった。この駅は『カウベリー』よりは大きな駅に見えた。
「ヒルダ、何してるんだ?行くぞ」
前方を歩いていたノワールが振り返った。
「あ、す・すみません」
ヒルダは杖をつくと、急ぎ足でノワールの後をついていった。
駅舎を出ると、目の前には土を踏み固めた道が広がっていた。駅の前には何台もの辻馬車が止まっている。
「…ここは『ロータス』に比べると田舎だからな。車は殆ど走っていない。交通手段は馬車がほとんどだ。」
ノワールはヒルダの方を見ることもなく説明する。そして1台の馬車を見つけた。
「よし、あれに乗ろう。行くぞ」
そしてノワールはヒルダの返事を聞くまでも無く、客待ちの馬車に向かってさっさと歩いていってしまう。
「はい」
ヒルダは痛む足を杖をついて引きずるようについて行く。
(足が痛いわ…もっと履き慣れた靴を履いてくるべきだったわ…)
洋服に合わせて履いた靴なので、あまりヒルダはこの靴になれていなかった。更に左足が不自由な事も有り、かなり痛みは悪化していた。ヒルダはマッサージクリームを持参してこなかったことを後悔していた。
(困ったわ…こんなに足が痛くなるとは思ってもいなかったから)
しかし、ノワールにはとてもそんな事を言い出せる雰囲気ではなかった。ヒルダは痛む足を我慢するしか無かった。
馬車につくとノワールは既に乗り込んでいた。
「早く乗れ」
椅子に座ったままのノワールがジロリと睨みつけるようにヒルダに言った。
「は、はい…」
ヒルダは杖を先に馬車に乗せると、手すりに捕まってステップに乗ろうとしたが足が痛くて片足で立つことが出来ない。
「…っ」
痛みに耐えて何とか乗り込もうとするヒルダにノワールが気付いた。
「どうした、まさか1人で乗れないのか?」
「い、いえ…だ、大丈夫です…」
(ここで1人では乗れないと言えば甘えていると言われてしまいそうだもの…)
ノワールにこれ以上叱責されたくなかったヒルダは痛みをこらえてステップに乗ろうとした時…不意にノワールが立ち上がった。
「ヒルダ、入り口を開けろ」
「?」
言われた通りにヒルダが入り口をあけるとノワールがさっさと降りてきた。そして突然ヒルダを抱え上げたのだ。
「キャッ!」
突然の事にヒルダが驚くとノワールが言った。
「おい、暴れると危ないぞ」
「は、はい」
ヒルダを抱え上げたノワールはそのままステップを踏むと馬車に乗り込み、ヒルダを椅子におろした。
「ありがとうございます…」
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「足が痛むならそう言うんだ。俺は何も分からないのだから」
「はい…すみません」
うつむき加減に返事をするヒルダを見てノワールは小さなため息を付くと、御者に声を掛けた。
「すみません、馬車を出して下さい」
御者は小さく頷くと、手綱を振るった。
やがて…馬車は音を立てて走り始めた―。
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