430 / 566
第3章 1 新生活の始まり
しおりを挟む
季節は9月に入り、今日からヒルダの大学生活が始まる。
「ヒルダ様、今日からいよいよ大学生活が始まりますね」
カミラが出かける準備をしているヒルダに声を掛けた。
「ええ、高校生の時とはまた違う生活が始まると思うと今からドキドキするわ」
ヒルダは髪を整えると言った。今までは背中まであった長い髪を肩先までバッサリ切ったヒルダがカミラを振り向くと言った。
「ヒルダ様。その髪型、素敵ですよ」
「ありがとう。短くなった分、手入れが楽になって良かったわ。何しろ大学は汽車に乗って通わなければならないから」
「ヒルダ様‥」
ヒルダは父とのわだかまりが解け、学費も生活費も全額ハリスが援助してくれる事が決定している。ヒルダが通う大学に住み心地の良い寮が完備され、寮とはいえど中々高額な寮費がかかるので、お金に余裕のある裕福な学生だけが入寮出来る。ヒルダは寮に入ろうと思えばいつでも入れるだけの余裕はあったのだが、アパートメントから大学に通うことを選択したのだ。
(ヒルダ様は…きっと私の為に寮に入ることをやめたのだわ)
カミラはそう考えていた。
ヒルダとカミラがこのロータスに一緒に暮らすようになってから4年近くが経過していた。いつしかヒルダとの生活はカミラにとってかけがえのないものとなっていた。
カミラは今年22歳になるが、結婚の予定も無いし、恋人もいない。出来ればずっとヒルダと2人の生活を続けたい…そう思っているくらいだった。
(だけど…ヒルダ様はまたいずれ誰かと恋をして…今度こそ結婚するかもしれないわ。そうしたら私は…)
「どうしたの?カミラ?」
不意にヒルダに声を掛けられてカミラは我に返った。
「い、いえ。少し考え事をしていただけです」
「考え事?」
「ええ、ヒルダ様の大学生活はどんなものになるのかと…」
「そうね。少し私も不安だけど…4年間しっかり勉強するわ。…お兄様とも以前に約束したから…」
「ヒルダ様…」
エドガーからの便りはピタリと終わってしまった。時折母から届く便りによると夫婦仲はまずまず良好だろうとの事だった。
「あ、そろそろバスが来る時間だわ。それじゃ行ってくるわね」
ヒルダはリュックを背負うと笑顔でカミラに手を振った。
「はい、行ってらっしゃいませ。ヒルダ様」
ヒルダは玄関に出るとシューズボックスの上に飾られたルドルフの写真に向かって声を掛けた。
「行ってきます。ルドルフ」
そして扉を開けて杖を持つとアパートメントを後にした。
ヒルダのアパートメントの真ん前には『ロータス』駅行きのバスが出ている。このバスに乗れば10分で駅に到着する。そして汽車で30分かけて『クレイブ』という駅で降りる。ここにヒルダの通う大学があるのだ。大学は駅から徒歩で5分とかからない場所にあるので通学はさほど苦では無い。
ヒルダが通う大学は名門大学として有名で、多くの学者や著名人を排出している。そしてヒルダは文学部を選択した。ヒルダには夢があったのだ。それは絵本作家になるという夢だった。
(絵本作家になって…一生1人で行きていけるように自立できれば…)
バス停でバスを待ちながらヒルダはこれから始まる新しい大学生活に思いを馳せるのだった―。
「ヒルダ様、今日からいよいよ大学生活が始まりますね」
カミラが出かける準備をしているヒルダに声を掛けた。
「ええ、高校生の時とはまた違う生活が始まると思うと今からドキドキするわ」
ヒルダは髪を整えると言った。今までは背中まであった長い髪を肩先までバッサリ切ったヒルダがカミラを振り向くと言った。
「ヒルダ様。その髪型、素敵ですよ」
「ありがとう。短くなった分、手入れが楽になって良かったわ。何しろ大学は汽車に乗って通わなければならないから」
「ヒルダ様‥」
ヒルダは父とのわだかまりが解け、学費も生活費も全額ハリスが援助してくれる事が決定している。ヒルダが通う大学に住み心地の良い寮が完備され、寮とはいえど中々高額な寮費がかかるので、お金に余裕のある裕福な学生だけが入寮出来る。ヒルダは寮に入ろうと思えばいつでも入れるだけの余裕はあったのだが、アパートメントから大学に通うことを選択したのだ。
(ヒルダ様は…きっと私の為に寮に入ることをやめたのだわ)
カミラはそう考えていた。
ヒルダとカミラがこのロータスに一緒に暮らすようになってから4年近くが経過していた。いつしかヒルダとの生活はカミラにとってかけがえのないものとなっていた。
カミラは今年22歳になるが、結婚の予定も無いし、恋人もいない。出来ればずっとヒルダと2人の生活を続けたい…そう思っているくらいだった。
(だけど…ヒルダ様はまたいずれ誰かと恋をして…今度こそ結婚するかもしれないわ。そうしたら私は…)
「どうしたの?カミラ?」
不意にヒルダに声を掛けられてカミラは我に返った。
「い、いえ。少し考え事をしていただけです」
「考え事?」
「ええ、ヒルダ様の大学生活はどんなものになるのかと…」
「そうね。少し私も不安だけど…4年間しっかり勉強するわ。…お兄様とも以前に約束したから…」
「ヒルダ様…」
エドガーからの便りはピタリと終わってしまった。時折母から届く便りによると夫婦仲はまずまず良好だろうとの事だった。
「あ、そろそろバスが来る時間だわ。それじゃ行ってくるわね」
ヒルダはリュックを背負うと笑顔でカミラに手を振った。
「はい、行ってらっしゃいませ。ヒルダ様」
ヒルダは玄関に出るとシューズボックスの上に飾られたルドルフの写真に向かって声を掛けた。
「行ってきます。ルドルフ」
そして扉を開けて杖を持つとアパートメントを後にした。
ヒルダのアパートメントの真ん前には『ロータス』駅行きのバスが出ている。このバスに乗れば10分で駅に到着する。そして汽車で30分かけて『クレイブ』という駅で降りる。ここにヒルダの通う大学があるのだ。大学は駅から徒歩で5分とかからない場所にあるので通学はさほど苦では無い。
ヒルダが通う大学は名門大学として有名で、多くの学者や著名人を排出している。そしてヒルダは文学部を選択した。ヒルダには夢があったのだ。それは絵本作家になるという夢だった。
(絵本作家になって…一生1人で行きていけるように自立できれば…)
バス停でバスを待ちながらヒルダはこれから始まる新しい大学生活に思いを馳せるのだった―。
0
お気に入りに追加
733
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
悪役令嬢エリザベート物語
kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ
公爵令嬢である。
前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。
ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。
父はアフレイド・ノイズ公爵。
ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。
魔法騎士団の総団長でもある。
母はマーガレット。
隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。
兄の名前はリアム。
前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。
そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。
王太子と婚約なんてするものか。
国外追放になどなるものか。
乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。
私は人生をあきらめない。
エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。
⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください
今川幸乃
恋愛
貧乏令嬢のリッタ・アストリーにはバート・オレットという婚約者がいた。
しかしある日突然、バートは「こんな貧乏な家は我慢できない!」と一方的に婚約破棄を宣言する。
その裏には彼の領内の豪商シーモア商会と、そこの娘レベッカの姿があった。
どうやら彼はすでにレベッカと出来ていたと悟ったリッタは婚約破棄を受け入れる。
そしてバートはレベッカの言うがままに、彼女が「絶対儲かる」という先物投資に家財をつぎ込むが……
一方のリッタはひょんなことから幼いころの知り合いであったクリフトンと再会する。
当時はただの子供だと思っていたクリフトンは実は大貴族の跡取りだった。

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする
冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。
彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。
優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。
王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。
忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか?
彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか?
お話は、のんびりゆったりペースで進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる