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第5章 19 ヒルダの部屋で
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明日―
いよいよヒルダがロータスへ向けて帰る日がやってきた。ヒルダはシャーリーと自室でソファに向かい合わせに座り、親友同士のおしゃべりをしていた。
「とうとう明日、ロータスへ帰ってしまうのね…」
シャーリーはカウベリーティーを飲みながらポツリと言った。
「ええ…。明後日には学校が始まるから。シャーリーの学校はまだ始まらないのね」
「私の学校は来週から始まるの。だから5日後には私も戻るんだけどね」
カチャリとテーブルの上に乗せたソーサーの上にティーカップを乗せるとシャーリーは言った。
「そう、スコットさんも寂しくなるわね。恋人のシャーリーとまた離れて暮らさないといけないから」
ヒルダの言葉にシャーリーは目を潤ませた。
「ヒルダッ!何を言ってるのよ!あ、貴女の方が余程辛いのに…!」
「シャーリー…。だけど…私、短い間だったけど…そ、それでもやっぱり幸せだったわ。ルドルフと…恋人同士になれたから…。こんな、足の悪い私を全て愛してくれて…」
ヒルダは声を詰まらせながら言う。
「ヒルダ…」
シャーリーはヒルダを抱きしめると尋ねた。
「ヒルダ…ひょっとして、ルドルフと…身体も結ばれたの?」
「!」
ヒルダはピクリと身体を震わせたが、頷くと言った。
「ええ…私、ルドルフを愛していたから‥。それに…結婚するならルドルフとって決めていたから‥後悔していないわ。むしろこれで良かっと思っているの…」
「そうなのね…?」
シャーリーはヒルダの金の髪を撫でながら言った。
「ルドルフは…幸せだったと思うわ。」
そして思った。ヒルダは…ひょっとすると、もう他の誰とも結婚する気は無いのかもしれない…と―。
****
親友との短いひと時を過ごしたヒルダは部屋で床に座って荷造りをしていた。
コンコン
「ヒルダ、少しいいか?」
ノックの音と共にエドガーの声が扉の外で聞こえた。
「どうぞ」
カチャリ…
扉の開く音がエドガーが現れ、ヒルダの様子を見ると言った。
「明日、ロータスへ帰る準備をしていたのか?」
「はい、そうです。明後日から学校が始まるので。」
本当はもっと早くにロータスへ帰るつもりでいた。アルバイトの事も気になっていたし、何よりいつまでもカミラを1人にしておくわけにはいかないと思ったからだ。しかし、マーガレットやハリスに懇願され、ギリギリまで故郷で過ごす事になってしまったのだ。ただ、エドガーだけはヒルダを引き留める事はしなかった。父や母の様子を静観するだけであった。
「ヒルダ、本当に1人でロータスまで帰れるのか?」
エドガーが心配そうに尋ねた。
「はい、大丈夫です。駅まではスコットさんが乗せてくれますし、汽車のチケットも事前に持っています。ロータスは終点の駅なので、そこまで乗れば後は辻馬車を拾ってアパートメントまで帰れますから」
「そう…か…」
(ヒルダ…本当はお前をロータスに帰したくない。今ここで、何所にも行かずに俺の傍にいて欲しいと思いを告げられればいいのに‥!)
エドガーは俯き、グッと拳を握りしめた。
「お兄様」
不意にヒルダが声を掛けて来た。
「何だ?」
「クリスマス以来…こうして2人きりで話すのは久しぶりですね」
「ああ、そうだな」
あの日―
ハリスがエドガーとアンナの正式に結婚する事が決まったと世間に発表してからは、エドガーはヒルダと2人きりになるのをずっと避けていた。それはハリスの目を気にしての事だった。なので食事の時以外、エドガーはヒルダを意識してさけていたのだ。
「そうだわ。お兄様、アンナ様と正式に結婚されることが決まったそうですね。おめでとうございます」
「あ、ああ…ありがとう」
エドガーは胸を痛めながら礼を述べた。
「お兄様とアンナ様には幸せになってもらいたいです。私の分まで…」
「ヒルダ、お前だって幸せになる権利は…」
そこまで言いかけて、エドガーは言葉を飲み込んだ。
耐えきれない。ルドルフが相手だったから、エドガーは自分の恋心を抑え、2人の幸せを祈った。だが、ルドルフはもうこの世にはいない。やがてヒルダもまた別の異性と恋に落ち、結婚するかもしれない。そう思うと胸をかきむしられるくらい、辛くなる。そして思った。
(父が…アンナ嬢との結婚を急がせるのも…本当は俺が原因なのだろうな)
「お兄様、どうされたのですか?」
ヒルダが声を掛けて来た。
「いや、何でもない。ヒルダ、明日は…父と一緒に俺も見送りに行かせてくれ」
それだけ言うのが、今のエドガーにとって出来る精一杯の事だった―。
いよいよヒルダがロータスへ向けて帰る日がやってきた。ヒルダはシャーリーと自室でソファに向かい合わせに座り、親友同士のおしゃべりをしていた。
「とうとう明日、ロータスへ帰ってしまうのね…」
シャーリーはカウベリーティーを飲みながらポツリと言った。
「ええ…。明後日には学校が始まるから。シャーリーの学校はまだ始まらないのね」
「私の学校は来週から始まるの。だから5日後には私も戻るんだけどね」
カチャリとテーブルの上に乗せたソーサーの上にティーカップを乗せるとシャーリーは言った。
「そう、スコットさんも寂しくなるわね。恋人のシャーリーとまた離れて暮らさないといけないから」
ヒルダの言葉にシャーリーは目を潤ませた。
「ヒルダッ!何を言ってるのよ!あ、貴女の方が余程辛いのに…!」
「シャーリー…。だけど…私、短い間だったけど…そ、それでもやっぱり幸せだったわ。ルドルフと…恋人同士になれたから…。こんな、足の悪い私を全て愛してくれて…」
ヒルダは声を詰まらせながら言う。
「ヒルダ…」
シャーリーはヒルダを抱きしめると尋ねた。
「ヒルダ…ひょっとして、ルドルフと…身体も結ばれたの?」
「!」
ヒルダはピクリと身体を震わせたが、頷くと言った。
「ええ…私、ルドルフを愛していたから‥。それに…結婚するならルドルフとって決めていたから‥後悔していないわ。むしろこれで良かっと思っているの…」
「そうなのね…?」
シャーリーはヒルダの金の髪を撫でながら言った。
「ルドルフは…幸せだったと思うわ。」
そして思った。ヒルダは…ひょっとすると、もう他の誰とも結婚する気は無いのかもしれない…と―。
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親友との短いひと時を過ごしたヒルダは部屋で床に座って荷造りをしていた。
コンコン
「ヒルダ、少しいいか?」
ノックの音と共にエドガーの声が扉の外で聞こえた。
「どうぞ」
カチャリ…
扉の開く音がエドガーが現れ、ヒルダの様子を見ると言った。
「明日、ロータスへ帰る準備をしていたのか?」
「はい、そうです。明後日から学校が始まるので。」
本当はもっと早くにロータスへ帰るつもりでいた。アルバイトの事も気になっていたし、何よりいつまでもカミラを1人にしておくわけにはいかないと思ったからだ。しかし、マーガレットやハリスに懇願され、ギリギリまで故郷で過ごす事になってしまったのだ。ただ、エドガーだけはヒルダを引き留める事はしなかった。父や母の様子を静観するだけであった。
「ヒルダ、本当に1人でロータスまで帰れるのか?」
エドガーが心配そうに尋ねた。
「はい、大丈夫です。駅まではスコットさんが乗せてくれますし、汽車のチケットも事前に持っています。ロータスは終点の駅なので、そこまで乗れば後は辻馬車を拾ってアパートメントまで帰れますから」
「そう…か…」
(ヒルダ…本当はお前をロータスに帰したくない。今ここで、何所にも行かずに俺の傍にいて欲しいと思いを告げられればいいのに‥!)
エドガーは俯き、グッと拳を握りしめた。
「お兄様」
不意にヒルダが声を掛けて来た。
「何だ?」
「クリスマス以来…こうして2人きりで話すのは久しぶりですね」
「ああ、そうだな」
あの日―
ハリスがエドガーとアンナの正式に結婚する事が決まったと世間に発表してからは、エドガーはヒルダと2人きりになるのをずっと避けていた。それはハリスの目を気にしての事だった。なので食事の時以外、エドガーはヒルダを意識してさけていたのだ。
「そうだわ。お兄様、アンナ様と正式に結婚されることが決まったそうですね。おめでとうございます」
「あ、ああ…ありがとう」
エドガーは胸を痛めながら礼を述べた。
「お兄様とアンナ様には幸せになってもらいたいです。私の分まで…」
「ヒルダ、お前だって幸せになる権利は…」
そこまで言いかけて、エドガーは言葉を飲み込んだ。
耐えきれない。ルドルフが相手だったから、エドガーは自分の恋心を抑え、2人の幸せを祈った。だが、ルドルフはもうこの世にはいない。やがてヒルダもまた別の異性と恋に落ち、結婚するかもしれない。そう思うと胸をかきむしられるくらい、辛くなる。そして思った。
(父が…アンナ嬢との結婚を急がせるのも…本当は俺が原因なのだろうな)
「お兄様、どうされたのですか?」
ヒルダが声を掛けて来た。
「いや、何でもない。ヒルダ、明日は…父と一緒に俺も見送りに行かせてくれ」
それだけ言うのが、今のエドガーにとって出来る精一杯の事だった―。
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