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第5章 16 それぞれのクリスマス 12
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「君は誰だ?」
エドガーは見知らぬ少年に話しかけられて首を傾げた。
「あ、俺はアンナの親戚でジャン・ポワレと言います。初めまして。貴方はアンナの婚約者ですよね?」
「ああ、そうだよ」
エドガーは白い息を吐きながらジャンを見た。満月を背に立つエドガーは本当に美しい貴公子そのものであった。
(くっそ…!確かにあの男…アンナが夢中になるだけあるな…。けど…!)
「婚約者なら、何故アンナをパーティー会場に1人にしておいたんですか?!しかもあんなに大勢の人の前で、おめでたいクリスマスパーティーだと言うのに、あんな暴力的な行動を取って…!」
「え?見ていたのか?」
エドガーはジャンを見た。
「俺だけじゃありません!アンナだって貴方のあの乱暴を働く姿を見ているんですよ!」
ジャンはエドガーが婚約者のアンナを1人にさせていた事が気に入らなかった。
「え…?アンナ嬢が…?」
エドガーはこの時、初めてアンナを見てその目に涙がたまっていることに気付いた。
「エドガー様…」
一方、焦ったのはエドガーの方だった。アンナが何故涙を浮かべて自分を見ているのかさっぱり分らなかったからだ。
「どうしたんだ?アンナ嬢」
エドガーが心配そうにアンナを見た。
(エドガー様が私の事を心配して下さっている…!)
その事実だけで、アンナの心は幸せに満たされる。
「エドガー様!」
アンナはエドガーに駆け寄る。
「お、おい!行くなよ、アンナッ!」
ジャンはアンナに手を伸ばしたが、その手は空しく宙を掴むだけだった。そして気付けばアンナはエドガーの腕の中にいた。
「エドガー様…エドガー様…」
アンナはエドガーに縋って泣く。
「どうしたんだ?アンナ嬢…」
エドガーは優しい声でアンナを片手で抱き寄せ、髪を撫でている。その姿を目にしたジャンは嫉妬で胸が激しく熱くなるのを感じた。
「おい!アンナッ!」
その時、背後から声を掛けられた。
「おおっ!こんなところにいたのか?アンナ。エドガー」
その人物はアンナの父であった。
「あ…お父様」
エドガーに抱きしめられ、すっかり悲しい気持ちが消えうせていたアンナは笑顔で父をみた。
「クルト伯爵…!」
エドガーはアンナの父の名を口にした。
「うむうむ。本当に2人は仲が良い、実に素晴らしい。これなら今夜発表しても差し支えは無いだろう」
クルト伯爵は満足げに言う。
「え?お父様?」
「…」
アンナは首を傾げるが、一方のエドガーは嫌な予感を感じていた。
(発表…?まさかあの事なのか?だが父が来ていないのにまさかいきなり今夜発表するとは思えない。だとしたら別の何かなのだろうか?)
出来ればあの発表では無い様に…エドガーは心の中で祈った。
「さあ、2人共。そしてジャン。早く中へ入りなさい。外は冷えるぞ?」
「分りました。行こうか?アンナ嬢」
エドガーはアンナの肩を抱き寄せると言った。
「はい。エドガー様」
アンナは頬を染める。そしてエドガーはアンナを連れて室内へ入るときにジャンとすれ違いざまに言った。
「君も中へ入った方がいい」
それはエドガーの大人の余裕であった。
「!」
ジャンはビクリと肩を動かした。そしてアンナを連れて部屋の中へ入って行く2人の後姿を悔しそうに見送った―。
ざわめくパーティー会場で、エドガーとアンナは特別に設けられた1段高い壇上に立たされていた。両脇にはアンナの両親が立っている。
そして会場に集まっている貴族たちは一斉に壇上に立つエドガー達に注目している。
(何だ…?一体この状況は…)
エドガーはますます不安な気持ちが募っていたが、まだ一縷の望みを持っていた。そして俯くと自分に言い聞かせた。
(大丈夫だ…!父はこの場にいないのだから…!)
しかし…
「やぁ、お待たせして申し訳ございませんでした」
見覚えのある声が聞こえ、エドガーは顔を上げた。するとそこに立っていたのはハリスで、アンナの父親に挨拶をしていた。
「父上…」
するとハリスは顔を上げてエドガーを見た。
「うむ、本当にお似合いの2人だ」
そして意味深に笑みを浮かべた―。
エドガーは見知らぬ少年に話しかけられて首を傾げた。
「あ、俺はアンナの親戚でジャン・ポワレと言います。初めまして。貴方はアンナの婚約者ですよね?」
「ああ、そうだよ」
エドガーは白い息を吐きながらジャンを見た。満月を背に立つエドガーは本当に美しい貴公子そのものであった。
(くっそ…!確かにあの男…アンナが夢中になるだけあるな…。けど…!)
「婚約者なら、何故アンナをパーティー会場に1人にしておいたんですか?!しかもあんなに大勢の人の前で、おめでたいクリスマスパーティーだと言うのに、あんな暴力的な行動を取って…!」
「え?見ていたのか?」
エドガーはジャンを見た。
「俺だけじゃありません!アンナだって貴方のあの乱暴を働く姿を見ているんですよ!」
ジャンはエドガーが婚約者のアンナを1人にさせていた事が気に入らなかった。
「え…?アンナ嬢が…?」
エドガーはこの時、初めてアンナを見てその目に涙がたまっていることに気付いた。
「エドガー様…」
一方、焦ったのはエドガーの方だった。アンナが何故涙を浮かべて自分を見ているのかさっぱり分らなかったからだ。
「どうしたんだ?アンナ嬢」
エドガーが心配そうにアンナを見た。
(エドガー様が私の事を心配して下さっている…!)
その事実だけで、アンナの心は幸せに満たされる。
「エドガー様!」
アンナはエドガーに駆け寄る。
「お、おい!行くなよ、アンナッ!」
ジャンはアンナに手を伸ばしたが、その手は空しく宙を掴むだけだった。そして気付けばアンナはエドガーの腕の中にいた。
「エドガー様…エドガー様…」
アンナはエドガーに縋って泣く。
「どうしたんだ?アンナ嬢…」
エドガーは優しい声でアンナを片手で抱き寄せ、髪を撫でている。その姿を目にしたジャンは嫉妬で胸が激しく熱くなるのを感じた。
「おい!アンナッ!」
その時、背後から声を掛けられた。
「おおっ!こんなところにいたのか?アンナ。エドガー」
その人物はアンナの父であった。
「あ…お父様」
エドガーに抱きしめられ、すっかり悲しい気持ちが消えうせていたアンナは笑顔で父をみた。
「クルト伯爵…!」
エドガーはアンナの父の名を口にした。
「うむうむ。本当に2人は仲が良い、実に素晴らしい。これなら今夜発表しても差し支えは無いだろう」
クルト伯爵は満足げに言う。
「え?お父様?」
「…」
アンナは首を傾げるが、一方のエドガーは嫌な予感を感じていた。
(発表…?まさかあの事なのか?だが父が来ていないのにまさかいきなり今夜発表するとは思えない。だとしたら別の何かなのだろうか?)
出来ればあの発表では無い様に…エドガーは心の中で祈った。
「さあ、2人共。そしてジャン。早く中へ入りなさい。外は冷えるぞ?」
「分りました。行こうか?アンナ嬢」
エドガーはアンナの肩を抱き寄せると言った。
「はい。エドガー様」
アンナは頬を染める。そしてエドガーはアンナを連れて室内へ入るときにジャンとすれ違いざまに言った。
「君も中へ入った方がいい」
それはエドガーの大人の余裕であった。
「!」
ジャンはビクリと肩を動かした。そしてアンナを連れて部屋の中へ入って行く2人の後姿を悔しそうに見送った―。
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「うむ、本当にお似合いの2人だ」
そして意味深に笑みを浮かべた―。
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