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第5章 9 それぞれのクリスマス 5
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カウベリーで一番大きな教会で行われた今年のクリスマス礼拝は静かに…粛々と進められる事になっていた。本来例年通りであれば、クリスマス礼拝では賑やかな讃美歌が歌われ、子供達にはお菓子が配られる‥楽しい催しであったが、今年だけは違った。何故ならたった一月足らずで凄惨な事件が相次いだからである。
領民達はヒルダが教会に現れたのを見て一斉にざわめいた。誤解は解けたものの教会の焼失時間に関わった人々が次々と死んでいったからである。
「見てごらん。ヒルダ様だよ‥」
「いつの間に戻って来ていたんだろう」
「相変わらずお美しい方だが…」
「その美しさが人を狂わせたんだろうな」
ピクリ
ヒルダは教会の前の方の席に父ハリスと座っていたが、その言葉が耳に入ってきた時に思わず反応してしまった。
「ア・・・」
思わずヒルダの身体が小刻みに震える。
「ヒルダ…」
勿論、今の言葉はハリスの耳にも入っていた。
(全く…一体誰だっ?!今の台詞を言ったのは‥!)
視線だけをキョロキョロ動かし、ハリスは辺りを探したが誰が今の言葉を言ったのか見当がつかなかった。代わりに震えているヒルダを見つめた。
「ヒルダ。大丈夫か?」
心配気に声を掛ける。ヒルダは青ざめた顔でスカートの上で両手を組み、震えていた。
(やっぱり…私?私のせいだったの?私がグレースさんの好きだったルドルフを奪ってしまったのが…全ての元凶だったの?私が…ルドルフの運命を狂わせてしまったの‥?)
娘の異変に気付いたハリスがヒルダに声を掛ける。
「ヒルダ、しっかりするんだ!」
「あ…お、お父様…」
ヒルダは震えながらハリスを見た。
「お父様…私のせいなのですか?私が…皆の運命を狂わせてしまったのですか…?」
「何を言う!そんなはずはないだろう?」
ハリスは震えるヒルダを抱きしめると言った。
「すまなかった…ヒルダ。まだお前を領民たちの前に連れて来るのは時期尚早だったのかもしれない。‥帰ろう」
ヒルダの肩を抱き、ガタンとハリスは席を立つと出口へ向かって歩き出した。
「父上!」
その時、ヒルダ達から少し離れた席に座っていたエドガーが傍を通りかかったハリスに声を掛けた。隣にはアンナが座っている。
「あ、ああ…エドガー。」
「屋敷に…帰られるのですか?」
「そうだ。」
「あの…噂話のせいですか?」
エドガーの声には怒りが満ちていた。
「ああ…あのせいでヒルダがおかしくなってしまったんだ」
「酷いですわ…あんなデマ…!」
アンナの目に涙が滲んでいる。
「父上、私も帰ります」
「え?エドガー様?」
アンナが驚いた声を上げる。
「いや、駄目だ。エドガー。お前はアンナ嬢と最後まで礼拝に参列するのだ。しっかりエスコートしてさしあげろ」
「はい…」
エドガーは俯きながら返事をする。
「アンナ嬢」
ハリスは優しく声を掛ける。
「はい」
「もうしわけありません。ヒルダが具合を悪くしてしまったのでお先に失礼致します」
「はい、分りました。ヒルダ様…お大事にしてください」
アンナはハリスの陰に隠れているヒルダに声を掛ける。
「はい…有難うございます。アンナ様」
ヒルダは弱々し気に返事をすると、ハリスに連れられて教会を去って行った。
その後ろ姿を見送りながら、エドガーの心は激しい怒りに燃えていた。
(誰だっ!一体誰が‥あんな事を言ったんだ?!)
「どうしたのですか?」
アンナはエドガーに問いかけるも、エドガーは気付かず、教会を見渡している。
(くそっ!誰だっ?!よりにもよってヒルダの事をあんな風に言うなんて…必ず見つけ出して‥‥謝罪させてやる…!)
エドガーは心に誓った―。
領民達はヒルダが教会に現れたのを見て一斉にざわめいた。誤解は解けたものの教会の焼失時間に関わった人々が次々と死んでいったからである。
「見てごらん。ヒルダ様だよ‥」
「いつの間に戻って来ていたんだろう」
「相変わらずお美しい方だが…」
「その美しさが人を狂わせたんだろうな」
ピクリ
ヒルダは教会の前の方の席に父ハリスと座っていたが、その言葉が耳に入ってきた時に思わず反応してしまった。
「ア・・・」
思わずヒルダの身体が小刻みに震える。
「ヒルダ…」
勿論、今の言葉はハリスの耳にも入っていた。
(全く…一体誰だっ?!今の台詞を言ったのは‥!)
視線だけをキョロキョロ動かし、ハリスは辺りを探したが誰が今の言葉を言ったのか見当がつかなかった。代わりに震えているヒルダを見つめた。
「ヒルダ。大丈夫か?」
心配気に声を掛ける。ヒルダは青ざめた顔でスカートの上で両手を組み、震えていた。
(やっぱり…私?私のせいだったの?私がグレースさんの好きだったルドルフを奪ってしまったのが…全ての元凶だったの?私が…ルドルフの運命を狂わせてしまったの‥?)
娘の異変に気付いたハリスがヒルダに声を掛ける。
「ヒルダ、しっかりするんだ!」
「あ…お、お父様…」
ヒルダは震えながらハリスを見た。
「お父様…私のせいなのですか?私が…皆の運命を狂わせてしまったのですか…?」
「何を言う!そんなはずはないだろう?」
ハリスは震えるヒルダを抱きしめると言った。
「すまなかった…ヒルダ。まだお前を領民たちの前に連れて来るのは時期尚早だったのかもしれない。‥帰ろう」
ヒルダの肩を抱き、ガタンとハリスは席を立つと出口へ向かって歩き出した。
「父上!」
その時、ヒルダ達から少し離れた席に座っていたエドガーが傍を通りかかったハリスに声を掛けた。隣にはアンナが座っている。
「あ、ああ…エドガー。」
「屋敷に…帰られるのですか?」
「そうだ。」
「あの…噂話のせいですか?」
エドガーの声には怒りが満ちていた。
「ああ…あのせいでヒルダがおかしくなってしまったんだ」
「酷いですわ…あんなデマ…!」
アンナの目に涙が滲んでいる。
「父上、私も帰ります」
「え?エドガー様?」
アンナが驚いた声を上げる。
「いや、駄目だ。エドガー。お前はアンナ嬢と最後まで礼拝に参列するのだ。しっかりエスコートしてさしあげろ」
「はい…」
エドガーは俯きながら返事をする。
「アンナ嬢」
ハリスは優しく声を掛ける。
「はい」
「もうしわけありません。ヒルダが具合を悪くしてしまったのでお先に失礼致します」
「はい、分りました。ヒルダ様…お大事にしてください」
アンナはハリスの陰に隠れているヒルダに声を掛ける。
「はい…有難うございます。アンナ様」
ヒルダは弱々し気に返事をすると、ハリスに連れられて教会を去って行った。
その後ろ姿を見送りながら、エドガーの心は激しい怒りに燃えていた。
(誰だっ!一体誰が‥あんな事を言ったんだ?!)
「どうしたのですか?」
アンナはエドガーに問いかけるも、エドガーは気付かず、教会を見渡している。
(くそっ!誰だっ?!よりにもよってヒルダの事をあんな風に言うなんて…必ず見つけ出して‥‥謝罪させてやる…!)
エドガーは心に誓った―。
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