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第5章 3 シャーリー
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自室に戻ったヒルダは机の上で学校の課題を広げていたが、何もする気力が起きなかった。そして気付けばルドルフとの交換日記を眺めていた。ルドルフが書き残した一番最後のページに書かれた文章…。
『僕の愛するヒルダ様。高校を卒業したらどうか僕と結婚して下さい』
「ルドルフ…」
ヒルダの目にいつしか涙がたまり、ポタリポタリと交換日記の隅のページに零れてゆく。
「あ…いけない!また日記帳の上に…!」
慌ててヒルダは机の上に乗せて置いたティッシュペーパーで自分の涙を吸いとる。
「馬鹿ね…私ったら。これは…ルドルフの大切な形見の品なのに‥わ、私はいつもこの日記帳に涙を…」
この交換日記にヒルダはどれ程の涙を今まで落として来ただろう。5年間ずっと愛していたルドルフ…。15歳の時に婚約した記憶。一度は悲しい別れをしてしまったけれども再び再会した時の驚き。2人の初めてのデート。そして身も心も結ばれたあの夜…。そのどれもがヒルダには胸を締め付けられるほどの切なすぎる思い出だった。それなのに…ルドルフは二度とヒルダの手には届かない遠い処へ旅立ってしまったのだ。
「ルドルフ…助けて…。貴方がいないと…何もする気が起きないの‥お願いだから名前を呼んで‥どこにもいかないで‥私の傍にいて欲しいの…」
とうとう我慢できず、ヒルダは机に突っ伏して声を殺して泣き出してしまった。
「ウ‥ウッウウ…」
そして、ヒルダは疲れて眠りにつくまでずっと泣き続けた―。
****
コンコン
「ヒルダ、ちょっといいか?」
扉のノックされる音でヒルダは目を覚ました。
「え…?」
ふと机の上に乗せてある置時計を見ると11時半になろうとしていた。ヒルダが部屋に戻ったのは8時半。3時間も寝てしまったことになる。
「ヒルダ?大丈夫か?」
部屋の外で少しだけ焦った声が聞こえた。それはエドガーの声だった。
「は、はい。今開けます」
ヒルダは慌てて足を引きずりながらドアに向かうと扉を開けた。すると目の前に心配そうな顔のエドガーが立っていた。
「ヒルダ…!良かった…返事が無いから何かあったんじゃないかと思った…!」
気付けばヒルダは強く抱きしめられていた。
「お兄様…?」
その時、ヒルダは気が付いた。エドガーの肩が小刻みに震えている。
(私‥‥こんなにお兄様を心配させていいたのね…)
「ごめんなさい、お兄様。心配させて…」
ヒルダはそっとエドガーの胸に顔をうずめると言った。
「い、いや。俺こそ‥大げさに騒いで本当に悪かった!」
エドガーは慌ててヒルダから身体を離すと言った。
「あの、それでお兄様…私に何か御用でしょうか…?」
「ああ、実はヒルダの友達を名乗る少女がやって来たんだ。ヒルダに会わせて欲しいと言って‥今もう応接室で待っているんだ」
「え…?私の友達…?」
(誰かしら‥?)
ヒルダが首を傾げるとエドガーが言った。
「シャーリー・クレイブと言っていたぞ?」
ヒルダはその名を聞いて目を見開いた。
「え…シャーリー…?!」
シャーリー・クレイブ。ヒルダの大切な親友だった。中学時代…いつもヒルダは彼女と一緒に過ごしていた。グレイスが転校してきて、ヒルダにつらく当たって来たのを必死でかばってくれたシャーリー。そしてあの火事の事件後…一番の親友だったのに、別れを告げる事も出来ないままこの地を去ってしまったヒルダ。
ヒルダは口には出さなかったけれども、シャーリーと最後の別れを告げる事が出来ずにずっと悔やんでいたのだ。
(きっとシャーリーは勝手にいなくなった私をさぞかし怒っていると思っていたのに…!)
ヒルダは一瞬俯くと、杖も持たずに急いで客室へ向かった。エドガーの方を振り向きもせずに…。
(ヒルダ…これで少しは元気になってくれればいいが…)
エドガーはヒルダの背中を見送りながら思うのだった―。
『僕の愛するヒルダ様。高校を卒業したらどうか僕と結婚して下さい』
「ルドルフ…」
ヒルダの目にいつしか涙がたまり、ポタリポタリと交換日記の隅のページに零れてゆく。
「あ…いけない!また日記帳の上に…!」
慌ててヒルダは机の上に乗せて置いたティッシュペーパーで自分の涙を吸いとる。
「馬鹿ね…私ったら。これは…ルドルフの大切な形見の品なのに‥わ、私はいつもこの日記帳に涙を…」
この交換日記にヒルダはどれ程の涙を今まで落として来ただろう。5年間ずっと愛していたルドルフ…。15歳の時に婚約した記憶。一度は悲しい別れをしてしまったけれども再び再会した時の驚き。2人の初めてのデート。そして身も心も結ばれたあの夜…。そのどれもがヒルダには胸を締め付けられるほどの切なすぎる思い出だった。それなのに…ルドルフは二度とヒルダの手には届かない遠い処へ旅立ってしまったのだ。
「ルドルフ…助けて…。貴方がいないと…何もする気が起きないの‥お願いだから名前を呼んで‥どこにもいかないで‥私の傍にいて欲しいの…」
とうとう我慢できず、ヒルダは机に突っ伏して声を殺して泣き出してしまった。
「ウ‥ウッウウ…」
そして、ヒルダは疲れて眠りにつくまでずっと泣き続けた―。
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コンコン
「ヒルダ、ちょっといいか?」
扉のノックされる音でヒルダは目を覚ました。
「え…?」
ふと机の上に乗せてある置時計を見ると11時半になろうとしていた。ヒルダが部屋に戻ったのは8時半。3時間も寝てしまったことになる。
「ヒルダ?大丈夫か?」
部屋の外で少しだけ焦った声が聞こえた。それはエドガーの声だった。
「は、はい。今開けます」
ヒルダは慌てて足を引きずりながらドアに向かうと扉を開けた。すると目の前に心配そうな顔のエドガーが立っていた。
「ヒルダ…!良かった…返事が無いから何かあったんじゃないかと思った…!」
気付けばヒルダは強く抱きしめられていた。
「お兄様…?」
その時、ヒルダは気が付いた。エドガーの肩が小刻みに震えている。
(私‥‥こんなにお兄様を心配させていいたのね…)
「ごめんなさい、お兄様。心配させて…」
ヒルダはそっとエドガーの胸に顔をうずめると言った。
「い、いや。俺こそ‥大げさに騒いで本当に悪かった!」
エドガーは慌ててヒルダから身体を離すと言った。
「あの、それでお兄様…私に何か御用でしょうか…?」
「ああ、実はヒルダの友達を名乗る少女がやって来たんだ。ヒルダに会わせて欲しいと言って‥今もう応接室で待っているんだ」
「え…?私の友達…?」
(誰かしら‥?)
ヒルダが首を傾げるとエドガーが言った。
「シャーリー・クレイブと言っていたぞ?」
ヒルダはその名を聞いて目を見開いた。
「え…シャーリー…?!」
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ヒルダは口には出さなかったけれども、シャーリーと最後の別れを告げる事が出来ずにずっと悔やんでいたのだ。
(きっとシャーリーは勝手にいなくなった私をさぞかし怒っていると思っていたのに…!)
ヒルダは一瞬俯くと、杖も持たずに急いで客室へ向かった。エドガーの方を振り向きもせずに…。
(ヒルダ…これで少しは元気になってくれればいいが…)
エドガーはヒルダの背中を見送りながら思うのだった―。
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