嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第5章 2 知られてはいけない思い

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 家族団らんの食事が終わり、ヒルダは立ち上がると挨拶をした。

「お父様、お母様。それでは失礼致します」

「あ、ああ…ヒルダ。もう行くのか?」

ハリスが名残惜しそうにヒルダに話しかける。

「はい、学校の課題がありますので…」

真面目なヒルダは冬期休暇の課題を全て持ってきていた。最も今まではとてもではないが課題に取り組めるような精神状態では無かった。
だが…。

(私が…いつまでも嘆き悲しんでいたら‥家族みんなを心配させてしまうわ‥)

ルドルフを思って泣くなら自分の部屋で誰にも知られないように泣こう…ヒルダはそう心に決めたのだった。

「ヒルダ、また貴女の手が空いたら私の部屋に来てもらえるかしら?貴女と色々話がしたいから」

マーガレットが言う。

「はい、分りました。お母様」

そして頭を下げて退室しようとしたところをエドガーが呼び止めた。

「ヒルダ、待ってくれ」

「お兄様…」

「部屋まで送ろう。足が痛むのだろう?」

エドガーはヒルダが足をかばうように立ち上がったのを見過ごさなかった。

「あ…は、はい…」

ヒルダが躊躇いがちに返事をする。

「父上、母上。それでは私はヒルダを連れて部屋に戻ります。失礼します」

エドガーは頭を下げると、ヒルダの手を取った。そしてヒルダはペコリと父母に頭を下げるとエドガーに手を引かれてダイニングルームを出て行った。
2人の姿が見えなくなるとマーガレットが口を開いた。

「ヒルダ…。すっかり大人の落ち着いた女性になったわね。それにエドガーは…本当に妹思いの青年だわ」

「…」

しかし、ハリスは眉間にしわを寄せたまま黙っている。

「あなた、どうされたのですか?」

「エドガー。まさか…」

ハリスは小さく呟いた。

「あなた。どうされたのかしら?」

マーガレットがハリスに声を掛けた。そこでハリスは我に返った。

「あ、い・いや。確かにお前の言う通りだな。エドガーは妹思いの兄だ」

ハリスは2人が出て行った扉をじっと見つめながら言った―。



 エドガーとヒルダは2人でヒルダの自室に向かって長い廊下を歩いていた。

「ヒルダ…少しは精神的に落ち着いてきたみたいだな」

エドガーがヒルダに話しかけた。

「はい。私がいつまでも悲しんでいれば…お父様もお母様も…それにお兄様も悲しませてしまいますから」

ヒルダはエドガーをじっと見上げると言った。

「ヒルダ…。だが、俺の前では別に感情を殺さないでもいいんだぞ…?」

(お前の辛く、悲しい気持ちは…全て俺が受け止めてやりたいから…)

しかし、この台詞はエドガーには口に出せなかった。少しでもヒルダに対する自分の思いを悟られてはいけないと思ったからだ。

「ありがとうございます、お兄様。そのお気持ち…嬉しいです」

ヒルダは少しだけ、悲し気に口元に笑みを浮かべると言った。

「そ、そうか。そう言って貰えると俺も嬉しいよ」

しかし、次のヒルダの口から出た言葉でエドガーは凍り付きそうになった。

「そう言えば…先程食事の時にお父様がお話ししていましたが‥‥アンナ様と婚期が速まりそうですね。お兄様には幸せになって欲しいから‥その時が来たら、心よりお祝いしますね」

「!」

(ヒルダ…!)

思わずエドガーはヒルダをじっと見つめた。ヒルダの口からはそのような言葉をどうしても聞きたくは無かった。

「お兄様?どうしましたか?」

ヒルダは大きな青い瞳でエドガーをじっと見る。ヒルダの瞳に映る自分の顔は悲し気だった。

「い、いや…何でもない」

エドガーはヒルダから視線をそらせた。

「お兄様」

するとヒルダが声を掛けてきた。

「な、何だ?」

「もう、私の部屋に着きました」

「あ…」

見ると、そこはヒルダの自室だった。

「そ、そうか。部屋に着いたのだな」

「はい、お見送り有難うございました」

ヒルダはエドガーから手を離すと、正面に向き直った。

「それでは失礼致します」

「あ、ああ…またな、ヒルダ」

「はい」

ヒルダは短く返事をするとノブを回して扉を開けると自分の部屋へと入り、エドガーに軽く会釈すると部屋の扉は閉ざされた―。 

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