367 / 566
第4章 33 ヒルダの決意
しおりを挟む
翌朝7時―
コンコン
カミラがヒルダの部屋の前にやってきた。
「ヒルダ様、起きてらっしゃいますか?カミラです」
「…」
しかし、ヒルダの部屋からは何の反応も無い。カミラは首を傾げ、考えた。
(ヒルダ様…まだねむっているのかしら?)
「ヒルダ様、入りますね」
カミラはドアノブに手をかけ、カチャリとドアを開けて部屋の中へ足を踏み入れた。
窓際に置かれた大きな天蓋付きベッド。カーテンが閉められているので、ベッドの中の様子が全く分からない。
「ヒルダ様…?」
カミラはそっとベッドに近付くと、レースのカーテン越しにヒルダが枕を抱きかかえ、服を着たままブランケットも掛けずに眠っている様子がうかがえた。
「ヒルダ様、風邪をひいてしまいますよ」
カミラがブランケットをそっと掛けてあげた時、ヒルダがふと目を覚ました。
「あ…カミラ。お早う」
ヒルダの寝起きの顔を見たカミラは驚きの声を上げた。
「まあ…ヒルダ様。泣きながら眠られたのですか?目が真っ赤になっていますわ」
カミラが心配そうに声を掛ける。
「ええ…そうなの。寝ても覚めてもルドルフの事が頭から離れなくて…悲しくて辛くて堪らないの…」
そしてカミラを見てヒルダはあることに気付いた。
「カミラ…その恰好、もしかして…『ロータス』へ戻るの?」
ヒルダが尋ねたのも無理はない。カミラはすっかり旅支度の恰好をしていたからである。
「はい、そうです。私はランドルフ家のシッターをしておりますから、何日もお休みするわけには参りません。昨日の内にランドルフ家にお電話を入れて事情は説明しておりますが、本日中に戻って、明日から仕事に復帰するもりです」
「そう…。え?待って。と言う事は…?」
「はい。フランシスさんもう知っております。ルドルフ様がお亡くなりになった事」
「!」
ヒルダは一瞬肩をビクリと震わせ、恐る恐るカミラに尋ねた。
「それで…フランシスはどんな様子だった?」
「ええ。大変驚いて…一瞬言葉を失っていたようでした。そしてルドルフさんの死を学校に代りに伝えてくれるそうです。ルドルフさんの両親には…とても無理そうにみえたので」
「そうよね…。ねぇカミラ。貴女はこれからどうするの?あのアパートメントの経営者はカミラのお姉さんの御主人でしょう?」
するとカミラは言う。
「私は…常にヒルダ様のお傍にいようと決めています。ヒルダ様が『カウベリー』に残るのであれば、ランドルフ家にシッターを辞めさせて貰う旨を伝えます。後はヒルダ様の学校に退学の話と、アレン先生にはヒルダ様がアルバイトを辞める事も伝えます」
「そう…。カミラ。お兄様は私が『カウベリー』に残る事を望んでいるの。ここにいれば苦労する事は何も無いって言って…」
「ヒルダ様…」
「だけど私はここには住めない。『カウベリー』にはルドルフとの思い出が沢山あるから。勿論『ロータス』にもルドルフとの思い出はあるけれども、ここの比では無いわ…」
ヒルダは涙交じりに言う。
「ヒルダ様。それでは…」
「私は…『ロータス』へ帰るわ。私が暮らす場所はもう、ここでは無いわ…」
「分りました。ではヒルダ様。私はシッターの仕事があるので一足先に帰らなければなりません。あのアパートメントで、ヒルダ様が戻られるのを待っていますね?」
カミラは笑みを浮かべてヒルダを見つめた―。
コンコン
カミラがヒルダの部屋の前にやってきた。
「ヒルダ様、起きてらっしゃいますか?カミラです」
「…」
しかし、ヒルダの部屋からは何の反応も無い。カミラは首を傾げ、考えた。
(ヒルダ様…まだねむっているのかしら?)
「ヒルダ様、入りますね」
カミラはドアノブに手をかけ、カチャリとドアを開けて部屋の中へ足を踏み入れた。
窓際に置かれた大きな天蓋付きベッド。カーテンが閉められているので、ベッドの中の様子が全く分からない。
「ヒルダ様…?」
カミラはそっとベッドに近付くと、レースのカーテン越しにヒルダが枕を抱きかかえ、服を着たままブランケットも掛けずに眠っている様子がうかがえた。
「ヒルダ様、風邪をひいてしまいますよ」
カミラがブランケットをそっと掛けてあげた時、ヒルダがふと目を覚ました。
「あ…カミラ。お早う」
ヒルダの寝起きの顔を見たカミラは驚きの声を上げた。
「まあ…ヒルダ様。泣きながら眠られたのですか?目が真っ赤になっていますわ」
カミラが心配そうに声を掛ける。
「ええ…そうなの。寝ても覚めてもルドルフの事が頭から離れなくて…悲しくて辛くて堪らないの…」
そしてカミラを見てヒルダはあることに気付いた。
「カミラ…その恰好、もしかして…『ロータス』へ戻るの?」
ヒルダが尋ねたのも無理はない。カミラはすっかり旅支度の恰好をしていたからである。
「はい、そうです。私はランドルフ家のシッターをしておりますから、何日もお休みするわけには参りません。昨日の内にランドルフ家にお電話を入れて事情は説明しておりますが、本日中に戻って、明日から仕事に復帰するもりです」
「そう…。え?待って。と言う事は…?」
「はい。フランシスさんもう知っております。ルドルフ様がお亡くなりになった事」
「!」
ヒルダは一瞬肩をビクリと震わせ、恐る恐るカミラに尋ねた。
「それで…フランシスはどんな様子だった?」
「ええ。大変驚いて…一瞬言葉を失っていたようでした。そしてルドルフさんの死を学校に代りに伝えてくれるそうです。ルドルフさんの両親には…とても無理そうにみえたので」
「そうよね…。ねぇカミラ。貴女はこれからどうするの?あのアパートメントの経営者はカミラのお姉さんの御主人でしょう?」
するとカミラは言う。
「私は…常にヒルダ様のお傍にいようと決めています。ヒルダ様が『カウベリー』に残るのであれば、ランドルフ家にシッターを辞めさせて貰う旨を伝えます。後はヒルダ様の学校に退学の話と、アレン先生にはヒルダ様がアルバイトを辞める事も伝えます」
「そう…。カミラ。お兄様は私が『カウベリー』に残る事を望んでいるの。ここにいれば苦労する事は何も無いって言って…」
「ヒルダ様…」
「だけど私はここには住めない。『カウベリー』にはルドルフとの思い出が沢山あるから。勿論『ロータス』にもルドルフとの思い出はあるけれども、ここの比では無いわ…」
ヒルダは涙交じりに言う。
「ヒルダ様。それでは…」
「私は…『ロータス』へ帰るわ。私が暮らす場所はもう、ここでは無いわ…」
「分りました。ではヒルダ様。私はシッターの仕事があるので一足先に帰らなければなりません。あのアパートメントで、ヒルダ様が戻られるのを待っていますね?」
カミラは笑みを浮かべてヒルダを見つめた―。
0
お気に入りに追加
725
あなたにおすすめの小説
【完結】さようなら、婚約者様。私を騙していたあなたの顔など二度と見たくありません
ゆうき@初書籍化作品発売中
恋愛
婚約者とその家族に虐げられる日々を送っていたアイリーンは、赤ん坊の頃に森に捨てられていたところを、貧乏なのに拾って育ててくれた家族のために、つらい毎日を耐える日々を送っていた。
そんなアイリーンには、密かな夢があった。それは、世界的に有名な魔法学園に入学して勉強をし、宮廷魔術師になり、両親を楽させてあげたいというものだった。
婚約を結ぶ際に、両親を支援する約束をしていたアイリーンだったが、夢自体は諦めきれずに過ごしていたある日、別の女性と恋に落ちていた婚約者は、アイリーンなど体のいい使用人程度にしか思っておらず、支援も行っていないことを知る。
どういうことか問い詰めると、お前とは婚約破棄をすると言われてしまったアイリーンは、ついに我慢の限界に達し、婚約者に別れを告げてから婚約者の家を飛び出した。
実家に帰ってきたアイリーンは、唯一の知人で特別な男性であるエルヴィンから、とあることを提案される。
それは、特待生として魔法学園の編入試験を受けてみないかというものだった。
これは一人の少女が、夢を掴むために奮闘し、時には婚約者達の妨害に立ち向かいながら、幸せを手に入れる物語。
☆すでに最終話まで執筆、予約投稿済みの作品となっております☆
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】本当の悪役令嬢とは
仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。
甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。
『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も
公爵家の本気というものを。
※HOT最高1位!ありがとうございます!
今さら救いの手とかいらないのですが……
カレイ
恋愛
侯爵令嬢オデットは学園の嫌われ者である。
それもこれも、子爵令嬢シェリーシアに罪をなすりつけられ、公衆の面前で婚約破棄を突きつけられたせい。
オデットは信じてくれる友人のお陰で、揶揄されながらもそれなりに楽しい生活を送っていたが……
「そろそろ許してあげても良いですっ」
「あ、結構です」
伸ばされた手をオデットは払い除ける。
許さなくて良いので金輪際関わってこないで下さいと付け加えて。
※全19話の短編です。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。
白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?
*6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」
*外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる