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第4章 24 葬儀の準備
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ヒルダがカミラに連れられて屋敷の中へ入っていくと、ハリスはエドガーに声を掛けた。
「エドガー。お前も中に入って喪服に着替えてきたほうが良い」
「はい、分かりました」
エドガーとハリスは2人揃って屋敷内へ入るとハリスが言った。
「すまなかったな…エドガー。お前に…嫌な役目をおしつけてしまって。ルドルフの死の知らせの電話や、ヒルダの迎えにまで行かせてしまって。だが、マーガレットはまだ体調が万全ではないし、それに私はヒルダをカウベリーから追い出してしまった張本人だからな…」
「いいえ。そんな事はありません。むしろ重大な役目を任せてくれた事を光栄に思っています」
2人で廊下を歩きながらハリスはエドガーを見た。
「それにしてもヒルダは随分お前を信頼しているんだな?はじめ2人はうまくいくかどうか心配だったが」
ハリスは知らない。エドガーが実はヒルダの事を妹としてではなく、1人の女性としてヒルダの事を愛しているという事実を。
「ええ、ヒルダは…大切な妹ですから」
エドガーは感情を殺して言う。
(駄目だ…決して父にはヒルダへの思いを知られてはいけない。そしてヒルダにも…。)
本来であれば、エドガーに邪な心があったなら恋敵のルドルフが死んでしまった今ならヒルダに愛を打ち明けるチャンスだと思ったかもしれない。しかし、とてもではないがエドガーにはそんなマネは出来そうになかった。ヒルダの悲しみで弱りきっている心に付け入りたくは無かったし、第一エドガーにはアンナという婚約者がいるのだ。2人はアンナが18歳になれば結婚することが決められている。それに仮にヒルダに愛を告げたとして、それが仇となって恐れられる事が何より一番怖かった。
(愛しているのに…。俺は一生、ヒルダに思いを告げる事は出来ないんだ…)
気付けば、2人はエドガーの部屋の前に来ていた。
「ではエドガー。準備が終わり次第、私の執務室へ来てくれ」
「はい、父上」
エドガーは頭を下げると自室へ入った―。
****
「ヒルダ様…お支度が終わりましたよ?」
喪服を着てドレッサーの前に座るヒルダの髪をとかし終えるとカミラは声を掛けた。
「ありがとう…カミラ…」
ヒルダは小さな声で礼を述べた。本来であればヒルダは2年間も普通の平民と同じような生活をしてきた。料理も家事もこなせるし、当然身支度などは1人で出来る。だが、今のヒルダには脱力感しか無かった。まるで魂の抜け殻の様になってしまっていた。
2年ぶりに入る自分の懐かしい部屋だと言うのに、ヒルダには何の感情も湧き上がって来なかった。この部屋は大好きな物に囲まれた部屋なのに‥。
「ヒルダ様。歩けますか?杖をお持ちしましょうか?」
カウベリーの12月はとても冷える。ロータスと比べて冬の気温は5度以上低いのだ。その為ヒルダの足の怪我の痛みも出やすい。
「大丈夫…杖はいらないわ…」
ヒルダはルドルフの葬儀の時に、杖を使いたくは無かった。ここは閉鎖的で田舎の町だ。ルドルフの葬儀には他の領民達も参加するだろう。葬儀の時、ヒルダはヴェール付きの黒い帽子で自分の顔を隠すつもりだった。まだ自分に対する世間の偏見の目が怖かったからだ。杖をついていれば自分だとばれてしまうかもしれない。
「そうですか。分りました…でもお辛かったら言って下さいね?私がヒルダ様を支えますから」
「ええ…有難う、カミラ」
「それでは行きましょうか?」
カミラに促され、ヒルダは立ち上がると2人は部屋を後にした。
ルドルフの葬儀を執り行う教会へ向かう為―。
「エドガー。お前も中に入って喪服に着替えてきたほうが良い」
「はい、分かりました」
エドガーとハリスは2人揃って屋敷内へ入るとハリスが言った。
「すまなかったな…エドガー。お前に…嫌な役目をおしつけてしまって。ルドルフの死の知らせの電話や、ヒルダの迎えにまで行かせてしまって。だが、マーガレットはまだ体調が万全ではないし、それに私はヒルダをカウベリーから追い出してしまった張本人だからな…」
「いいえ。そんな事はありません。むしろ重大な役目を任せてくれた事を光栄に思っています」
2人で廊下を歩きながらハリスはエドガーを見た。
「それにしてもヒルダは随分お前を信頼しているんだな?はじめ2人はうまくいくかどうか心配だったが」
ハリスは知らない。エドガーが実はヒルダの事を妹としてではなく、1人の女性としてヒルダの事を愛しているという事実を。
「ええ、ヒルダは…大切な妹ですから」
エドガーは感情を殺して言う。
(駄目だ…決して父にはヒルダへの思いを知られてはいけない。そしてヒルダにも…。)
本来であれば、エドガーに邪な心があったなら恋敵のルドルフが死んでしまった今ならヒルダに愛を打ち明けるチャンスだと思ったかもしれない。しかし、とてもではないがエドガーにはそんなマネは出来そうになかった。ヒルダの悲しみで弱りきっている心に付け入りたくは無かったし、第一エドガーにはアンナという婚約者がいるのだ。2人はアンナが18歳になれば結婚することが決められている。それに仮にヒルダに愛を告げたとして、それが仇となって恐れられる事が何より一番怖かった。
(愛しているのに…。俺は一生、ヒルダに思いを告げる事は出来ないんだ…)
気付けば、2人はエドガーの部屋の前に来ていた。
「ではエドガー。準備が終わり次第、私の執務室へ来てくれ」
「はい、父上」
エドガーは頭を下げると自室へ入った―。
****
「ヒルダ様…お支度が終わりましたよ?」
喪服を着てドレッサーの前に座るヒルダの髪をとかし終えるとカミラは声を掛けた。
「ありがとう…カミラ…」
ヒルダは小さな声で礼を述べた。本来であればヒルダは2年間も普通の平民と同じような生活をしてきた。料理も家事もこなせるし、当然身支度などは1人で出来る。だが、今のヒルダには脱力感しか無かった。まるで魂の抜け殻の様になってしまっていた。
2年ぶりに入る自分の懐かしい部屋だと言うのに、ヒルダには何の感情も湧き上がって来なかった。この部屋は大好きな物に囲まれた部屋なのに‥。
「ヒルダ様。歩けますか?杖をお持ちしましょうか?」
カウベリーの12月はとても冷える。ロータスと比べて冬の気温は5度以上低いのだ。その為ヒルダの足の怪我の痛みも出やすい。
「大丈夫…杖はいらないわ…」
ヒルダはルドルフの葬儀の時に、杖を使いたくは無かった。ここは閉鎖的で田舎の町だ。ルドルフの葬儀には他の領民達も参加するだろう。葬儀の時、ヒルダはヴェール付きの黒い帽子で自分の顔を隠すつもりだった。まだ自分に対する世間の偏見の目が怖かったからだ。杖をついていれば自分だとばれてしまうかもしれない。
「そうですか。分りました…でもお辛かったら言って下さいね?私がヒルダ様を支えますから」
「ええ…有難う、カミラ」
「それでは行きましょうか?」
カミラに促され、ヒルダは立ち上がると2人は部屋を後にした。
ルドルフの葬儀を執り行う教会へ向かう為―。
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