嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第4章 18 悲しみのヒルダと再会

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「ヒルダ様っ!しっかりして下さい!」

ヒルダは自分の悲鳴で目が覚めた。そしてここが自室のベッドだという事に気がついた。部屋の中は明かりが灯され、いつの間にか窓の外は夜になっていた。そして…

「ヒルダ様…」

ヒルダのベッドの枕元に座っていたのはカミラだった。カミラは今にも泣きそうな顔でじっとヒルダを見つめていた。

「あ…カミラ・・」

「気が付かれましたか?ヒルダ様は…6時間も意識を失っていたのですよ?」

そこでヒルダは我に返った。

「そ、そうだわ!ルドルフは?!私、お兄様からの電話で気を失って…」

そしてカミラを見ると尋ねた。

「ねえ、カミラ。嘘よね?ルドルフが死んでしまったなんて…」

しかし、カミラは唇を噛み締め、中々返事をしようとしない。

「カミラ、黙っていないで答えて?ルドルフは?ルドルフが死んだなんて嘘よね?!」

「ヒルダ様…ルドルフさんは…もう、この世には…」

カミラは絞り出すように言う。

「そ、そんな…!イヤアアアアッ!!」

ヒルダは再び叫び、顔を覆って泣き崩れてしまった。

(嘘よ…!ルドルフが死んでしまったなんて…!だって、だってお守りを持っていってくれたでしょう?高校を卒業したら…結婚してくれるんじゃなかったの?!)

「いやよ…私、ルドルフがいないと…生きていけない…私も貴方の側に行きたい…」

ヒルダは激しく嗚咽しながら言う。

「ヒルダ様!そんな悲しい事を仰らないで下さい!」

カミラの声にヒルダは顔を上げた。カミラの顔も涙で濡れている。

「ヒルダ様、私だって貴女がいなくなったら生きていけません!それにヒルダ様が命を絶たれたらルドルフさんは悲しみます!」

「カ、カミラ…」

カミラはきつくヒルダを抱きしめると言った。

「お願いです、ヒルダ様。後生ですからどうか恐ろしい事を考えないで下さい。ヒルダ様に何かあったら、悲しむ人達が大勢いる事を忘れないで下さい!勿論この私もですっ!」

「カミラ…だ、だけど…どうしようもなく悲しくて仕方がないのよ。胸が苦しくて息も出来ないくらいに…生きていくのが辛いのよ…」

しかしカミラはヒルダに言った。

「ヒルダ様、人は遅かれ早かれ…いつか必ず神の身元へ召されるのです。私達に与えられた役割はどんなに辛いことが遭っても…それでも私達は生きていかなければいけないのです。それが…残された私達の役目なのです。せめて…ルドルフさんをが無事に神様の元へ行けることをお祈りするのが私達の務めではありませんか?」

「カミラ…だ、だけど私は『カウベリー』を追われた身だから…ルドルフの最後を見送ることも許されないのよ…?」

ヒルダは泣きじゃくりながらカミラに訴える。

「ええ。ヒルダ様。実はそのことですが…」

その時―

コンコン

ドアをノックする音が聞こえた。

「あ、いらしたようですね。ヒルダ様、ここでお待ちになっていて下さい」

カミラは立ち上がると部屋を後にした。一方、1人部屋に残されたヒルダは呆然と窓の外を眺め…気付けばルドルフのプレゼントしてくれたオルゴールを見つめていた。

「ルドルフ…」

ヒルダの目に再び涙が滲んでくる。その時―

「ヒルダッ!!」

聞き覚えのある声が自分を呼ぶ。顔を上げて声の方を見れば、そこに現れたのは何とエドガーであった。

「え…?お兄様…?」

するとエドガーは素早く部屋に入って来るとヒルダのベッド脇に膝をついて手を取ると言った。

「ヒルダ、電話口でお前が倒れた事を聞かされて心配になってすぐに列車に飛び乗ってここまでやってきたんだ。ヒルダ…可哀想に…酷く泣いていたんだな…?」

エドガーはヒルダの頬に触れると言った。

「お兄…様…」

次の瞬間、ヒルダはエドガーに抱きつくと激しく泣きじゃくった。

「お兄様…ルドルフが…ルドルフが…っ!私を置いて…!」

「ヒルダ…!」

エドガーはヒルダを強く抱きしめ、髪をなでながら言う。

「ヒルダ…父さんから許しを得たんだ。もうヒルダが罪に問われることは無い。ルドルフのお陰だよ。明日俺と一緒にカウベリーへ戻ろう。ルドルフの…葬儀が行われるんだ…」

「葬儀…?」

「ああ。明日…最後の別れをするんだ…」

「最後…?」

「ああ、最後だ」

するとヒルダはますます泣きじゃくりながら、エドガーに訴える。

「お兄様…わ、私。ルドルフを愛してるの。やっと…恋人同士になれたのに…高校を卒業したら結婚の約束だって…してたのに…!」

「ああ、分かってる。ヒルダ、分かってるよ…」

エドガーはヒルダが泣きつかれて眠るまで、ずっと抱きしめ続けるのだった―。

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