上 下
341 / 566

第4章 7 4日ぶりの室内デート

しおりを挟む
12月23日―

この日はヒルダとルドルフの4日ぶりのデートの日だった。今朝は朝からとても寒く、小雪がちらちら舞っていた。


「もうすぐルドルフに会えるわ…」

濃紺のウールのワンピースに身を包んだヒルダは部屋の壁掛け時計をじっと見つめながらソワソワしていた。今の時間は午前10時である。ルドルフがアパートメントを訪れる時間が迫っていた。

「お茶菓子の準備も出来ているし、お湯も薪ストーブの上で沸いているし…準備は大丈夫よね?」

独り言のように呟いていると、玄関からノックの音が聞こえてきた。

コンコン

「あ!ルドルフが来てくれたんだわ!」

ヒルダは足を引きずりながら玄関へ向かい、ガチャリとドアを開けた。するとそこにはベレー帽をかぶり、防寒コートに身を包んだルドルフが笑顔で立っていた。

「おはようございます。ヒルダ様」

そしてヒルダを抱き寄せると耳元で囁く。

「貴女に会いたくて…待ち焦がれていました」

その言葉にヒルダは白い肌を耳まで真っ赤に染めると言った。

「ル、ルドルフ…私も貴方に会いたくてたまらなかったわ」

「ヒルダ様…」

2人はいつしか互いに顔を寄せ合い、しっかり抱き合うとキスを交わした―。



「ルドルフ、今日は小雪も待っていて寒かったでしょう?すぐにお茶を入れるから待っていてね?」

リビングにルドルフを案内してソファに座らせるとヒルダは早速カウベリーティーを淹れる準備を始めた。そしてヒルダがお茶を淹れる姿をルドルフは愛し気にじっと見つめている。


「どうぞ」

コトンと湯気の立つティーカップをルドルフのテーブルの前に置いた。

「いつものカウベリーティー…良い香りですね」

ルドルフはカップを手に取り、香りを嗅ぐといった。2人でヒルダのアパートメントで会う時はいつもカウベリーティーと決まっている。

「ええ、私もこの香り大好きよ」

そしてヒルダは自分の分のお茶を淹れるとルドルフの向かい側のソファに座った。
その時、ルドルフはヒルダが左足をかばうようにして座る姿を見逃さなかった。

「ヒルダ様…ひょっとして足が痛むのではないですか?」

するとヒルダは頬を染めながら答える。

「あ…やっぱり分ってしまったかしら?今朝は雪が降っていていつもより寒いせいか、少し左足が痛くて…」

ヒルダは黒いタイツの上から左足に触れると言った。するとルドルフは立ち上がり、隣に座ると言った。

「ヒルダ様、足が痛むなら今日は美術館に行くのはやめましょう。」

実は今日は2人で美術館で今開催されている宗教画の絵画展を鑑賞しに行く予定を立てていたのだ。

「え…?でも、せっかく2人で絵画展に行く約束をしていたのに…?」

「ええ、でもこの絵画展は来年の2月まで開催しているのですから、またの機会にしましょう。それよりヒルダ様の足の痛みの方が心配です」

ルドルフはそっとヒルダの細い左足に触れると言った。
あの日の夜…ベッドの中で月明りに照らされたヒルダの細い左に走る大きな傷跡…それを思い出すたびにルドルフの胸は痛んだ。そしてそんな傷跡を見られるのはヒルダにとっては相当辛い事だっただろう。それなのに自分に身を委ねてくれたヒルダがまた、愛しくてたまらなかった。

「ごめんなさい、ルドルフ。折角楽しみにしていたのに」

ヒルダは俯いたがルドルフは首を振った。

「いいえ、僕はヒルダ様の傍にいられるだけで幸せですから」

「有難う、私も…貴方の傍にいられるだけで幸せよ」

「それではヒルダ様、今日は1日このお部屋でデートをしましょう。実は僕、念の為に部屋で遊べるカードゲームや他にボードゲームを持ってきたのですよ?」

朝起きた時、小雪が舞っていたのでルドルフは万一の時の為に室内用の遊び道具を持ってきていたのだ。『ボルト』のホテルでカードゲームをしていた時、ヒルダが楽しそうに笑ってたので買っておいたのである。

「まあ、本当?とても楽しみだわ?」

「それでは今からやりましょうか?」

ルドルフは傍らに置いたカバンからトランプを取り出すと、2人は早速トランプに興じるのだった―。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真実の愛とやらの結末を見せてほしい~婚約破棄された私は、愚か者たちの行く末を観察する~

キョウキョウ
恋愛
私は、イステリッジ家のエルミリア。ある日、貴族の集まる公の場で婚約を破棄された。 真実の愛とやらが存在すると言い出して、その相手は私ではないと告げる王太子。冗談なんかではなく、本気の目で。 他にも婚約を破棄する理由があると言い出して、王太子が愛している男爵令嬢をいじめたという罪を私に着せようとしてきた。そんなこと、していないのに。冤罪である。 聞くに堪えないような侮辱を受けた私は、それを理由に実家であるイステリッジ公爵家と一緒に王家を見限ることにしました。 その後、何の関係もなくなった王太子から私の元に沢山の手紙が送られてきました。しつこく、何度も。でも私は、愚かな王子と関わり合いになりたくありません。でも、興味はあります。真実の愛とやらは、どんなものなのか。 今後は遠く離れた別の国から、彼らの様子と行く末を眺めて楽しもうと思います。 そちらがどれだけ困ろうが、知ったことではありません。運命のお相手だという女性と存分に仲良くして、真実の愛の結末を、ぜひ私に見せてほしい。 ※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開は、ほぼ変わりません。加筆修正して、新たに連載します。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

【完結】無能に何か用ですか?

凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」 とある日のパーティーにて…… セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。 隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。 だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。 ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ…… 主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

処理中です...