嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売

文字の大きさ
上 下
329 / 566

第3章 9 不気味な占い

しおりを挟む
 ルドルフとヒルダが並んで店を出ると、先ほどまでは誰もいなかったのにボロボロのコートをはおり、フードを目深にかぶった人物が座り込んでいた。そして2人を見上げると言った。

「おお・・・何と身なりの良い方々なのでしょう・・どうかこの哀れな老婆に御恵みを・・」

細く、しわがれた手を必死で伸ばす老婆にルドルフは胸を打たれた。

(こんな高齢のおばあさんが・・・物乞いをする町があるなんて・・)

カウベリーも確かに田舎で貧しい町ではあったが・・村中で助け合って生きていたので物乞いをするような人々はいなかった。

「ルドルフ・・・おばあさん、可哀相だわ・・」

そしてヒルダは肩から下げていたショルダーバッグからお財布を出そうとしたとき、ルドルフが止めた。

「ヒルダ様、僕が出します」

そしてルドルフは銀貨を1枚取り出すと手渡した。

「どうぞ、おばあさん」

そしてニッコリ微笑むと、初めて老婆は顔を上げるた。

「な、なんと・・・こんな・・銀貨を下さるなんて・・」

老婆は深々と頭を下げて銀貨を受け取ると言った。

「親切なお方だ・・・お礼に占いをして差し上げましょう・・実は私は昔こう見えても辻占いをしていたのですよ・・」

「いえ・・占って頂かなくても大丈夫ですよ」

ルドルフは占いは信じないタイプだったので断ったのだが、老婆はどうしてもひこうとしない。

「そんな事言わずに・・せめてものお礼をさせて下さい・・」

そして老婆はルドルフの返事も聞かずに懐から水晶玉を取り出した。

「これは・・・・私が物乞いに転落しても手放さなかった水晶なのです・・」

そしてルドルフの前に掲げた。

「「・・・」」

ヒルダとルドルフは黙って水晶玉を見つめると、やがて老婆が顔を上げてルドルフを見ると言った。

「おお・・・な、なんという事だ・・・・」

老婆は震えている。

「おばあさん・・どうしたのですか?」

ヒルダは尋ねた。すると老婆はヒルダをじっと見つめると言った。

「この少年は・・貴女の恋人ですか・・・?」

「は、はい・・そうです」

ヒルダは頬を染めると頷いた。すると老婆はますます震えながらルドルフを見た。

「お気をつけなされ・・死相だ・・・貴方に死相が見える・・」

「え・・?」

ルドルフは眉をひそめた。

「し・・死相っ?!」

ヒルダはその言葉に真っ青になり、ルドルフを見つめた。

「ル・・ルドルフ・・」

ヒルダの声は震えている。

「大丈夫ですか?ヒルダ様。」

ルドルフはヒルダを抱きしめると老婆に言った。

「あの・・占って頂いてこんな言い方をするのはどうかと思いますが・・あまり妙な事を言って・・この方を怖がらせないで頂けますか?」

しかし老婆は首を振る。

「どうか気を付けなされ・・。これはお守りです。どうか・・どうか肌身離さず持っていて下さい」

老婆は懐から小さな布袋をルドルフに差し出す。しかしルドルフは物乞いの老婆から物を貰う事は考えていなかった。

「いいえ、僕なら大丈夫ですから・・」

「そのお守り・・くださいっ!」

ヒルダが老婆に言った。

「どうぞ、お嬢さん」

老婆はヒルダにお守りを手渡すとヒルダはそれをしっかり握りしめた。

「行きましょう、ヒルダ様」

ルドルフはヒルダの肩を抱くと馬車へと連れて行った。ルドルフは馬車に乗る寸前、老婆の方を振り向くと、彼女はじっとこちらを見つめていた・・。


ガラガラガラガラ・・・

揺れる馬車の中、ヒルダはルドルフに抱き着いたまま離れようとはしなかった。

「ヒルダ様・・・」

ルドルフはヒルダをしっかり抱きしめ、金の髪を撫でながら言う。

「あんな占い、気にする事はありません。所詮・・・ただの占いですから。」

しかし、ヒルダは無言で首を振ると身体を震わせながらますますルドルフを抱きしめる。

「大丈夫です・・僕が愛するヒルダ様を置いて・・先に逝くはずないじゃありませんか。身体だってどこも悪いところはないのですから・・」

ルドルフはヒルダを落ち着ける為に、ホテルに着くまで語り続けるのだった―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと

淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。 第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品) ※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。 原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。 よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。 王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。 どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。 家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。 1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。 2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる) 3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。 4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。 5.お父様と弟の問題を解決する。 それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc. リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。 ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう? たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。 これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。 【注意点】 恋愛要素は弱め。 設定はかなりゆるめに作っています。 1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。 2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

婚約破棄? 五年かかりますけど。

冬吹せいら
恋愛
娼婦に惚れたから、婚約破棄? 我が国の規則を……ご存じないのですか?

婚約破棄されたい公爵令息は、子供のふりをしているけれど心の声はとても優しい人でした

三月叶姫
恋愛
北の辺境伯の娘、レイナは婚約者であるヴィンセント公爵令息と、王宮で開かれる建国記念パーティーへ出席することになっている。 その為に王都までやってきたレイナの前で、ヴィンセントはさっそく派手に転げてみせた。その姿はよく転ぶ幼い子供そのもので。 彼は二年前、不慮の事故により子供返りしてしまったのだ――というのは本人の自作自演。 なぜかヴィンセントの心の声が聞こえるレイナは、彼が子供を演じている事を知ってしまう。 そして彼が重度の女嫌いで、レイナの方から婚約破棄させようと目論んでいる事も。 必死に情けない姿を見せつけてくる彼の心の声は意外と優しく、そんな彼にレイナは少しずつ惹かれていった。 だが、王宮のパーティーは案の定、予想外の展開の連続で……? ※設定緩めです ※他投稿サイトにも掲載しております

【完結】真実の愛に目覚めたと婚約解消になったので私は永遠の愛に生きることにします!

ユウ
恋愛
侯爵令嬢のアリスティアは婚約者に真実の愛を見つけたと告白され婚約を解消を求められる。 恋する相手は平民であり、正反対の可憐な美少女だった。 アリスティアには拒否権など無く、了承するのだが。 側近を婚約者に命じ、あげくの果てにはその少女を侯爵家の養女にするとまで言われてしまい、大切な家族まで侮辱され耐え切れずに修道院に入る事を決意したのだが…。 「ならば俺と永遠の愛を誓ってくれ」 意外な人物に結婚を申し込まれてしまう。 一方真実の愛を見つけた婚約者のティエゴだったが、思い込みの激しさからとんでもない誤解をしてしまうのだった。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

処理中です...