上 下
327 / 566

第3章 7 再びの面会

しおりを挟む
 それから約1時間後―

ヒルダとルドルフは赤十字病院から出てきた。あの後無事にノラの代理で診察室へ入り、現状を報告することが出来たのだ。診察室に現れたのは年若い女医でルドルフの話を親身になって聞いてくれた。そして明日、ノラを今入院している施設からこの病院に転院させることを承諾してくれたのだった。

「良かったわね。ノラさんをこの病院に転院させてあげることが出来て」

手を繋ぎながら歩いていると、ヒルダが声を掛けてきた。

「ええ。本当に良かったです。これからノラのいる入院施設に行って知らせに行きましょう」

ルドルフがヒルダの手をギュッと握り締めると言った。

「ええ。そうね。行きましょう」

そしてヒルダは笑みを返すのだった―。




「おや?あんたたち・・・性懲りもなくまたここへやってきたのかい?」

昨日同様、受付にいた老婆が2人をジロリと見ると言った。

「ええ。そのことなんですが・・もう赤十字病院から連絡は来ましたか?」

ルドルフが尋ねると老婆は頷いた。

「ああ。さっき病院から電話を貰って驚いたよ。まさかあの少女を病院に移してあげるとはね・・一体どんな手を使ったんだい?」

「いえ、使ったも何も・・・お金さえ払えれば入院出来ると言うので・・ただそれだけのことです」

ルドルフは先ほどの病院での会話を思い出していた。入院費用は大体1カ月で金貨2枚だと言う。それなら自分のアルバイト代でまかなえそうだったのでルドルフは了承したのだった。

「ふん・・・やはりこの世は金なんだねぇ・・でもあの子はついていたね?あんたたち貴族と知り合いだったんだから。・・・それじゃ早く伝えて来てやりな。・・感染しないように注意するんだよ」

「はい、分かりました」

「ありがとうございます」

ルドルフに続いて、ヒルダも礼を述べると2人はマスクをし、それぞれスカーフやマフラーでしっかり口元を押さえるとノラのいる病室へと向かった。

「ルドルフ・・・相変わらずこの病院は・・寒いわね。赤十字病院ではボイラーがたかれて・・暖かだったのに」

スカーフで顔を覆ったヒルダがポツリという。

「ええ・・そうですね。ヒルダ様・・寒いですか?大丈夫ですか?」

歩きながらルドルフがヒルダの肩を抱き寄せてきた。

「ええ、大丈夫よ。ありがとう、ルドルフ」

「いえ・・それでは部屋に向かいましょう」

ルドルフは笑みを浮かべてヒルダを見つめた―。



 病室へ入るとルドルフはヒルダを伴ってまっすぐにノラのベッドへ近づいた。

壁の方を向いてゴホンゴホンと咳をするノラから少し距離を開けてルドルフは立つと声を掛けた。

「ノラ・・・」

「え・・?」

その声に驚いたようにノラは振り返り、ルドルフを見ると目を見開いた。

「え・・?ルドルフ・・?それにヒルダさんも・・どうしてまた・・ここへきたのよ・・」

タオルで口を押え、時折咳込みながらノラが尋ねた。

「ノラ、君を明日赤十字病院に転院させることが決まったよ。そこで治療を受けるんだ。そしたら・・結核が治るかもしれない」

「え・・・?ちょ、ちょっと・・・何言ってるのよ・・・?」

ノラは耳を疑った。まさか赤十字病院に転院して治療を受ける事になるとは夢にも思わなかったからだ。

「ルドルフが・・・ノラさんの為に病院を探してくれたのよ?あの病院は温かかったし・・先生もとても良い方だったわ」

ヒルダが言う。

「だ、だけど・・・私にはお金なんて・・・まさか・・?」

ノラはルドルフを見た。

「入院費用なら僕が払うよ。ノラ・・・君には絶対に良くなって貰いたいんだ。あの教会の火事の事件の証言をしてくれる数少ない人間だから・・」

「そう・・私に死なれたら・・困るもの・・ね・・」

ノラは寂し気に笑った。

「別にそんなつもりで君を病院に移すわけじゃないよ。仮にも僕たちは友人同士だっただ・・イワンがあんな事になって・・もう僕はこれ以上誰かが不幸な目に遭うのを見たくはないんだよ」

「・・・そう、ありがとう・・・」

ノラは背中を向けると礼を言った。

「明日、10時に迎えの馬車が来るそうだから・・・明日又来るよ。じゃあね」

(え・・?明日・・?)

ヒルダはその言葉に首を傾げた。


 病室を出たヒルダはルドルフに尋ねた。

「ねえ、明日も・・ここへ来るの?てっきり今日『ロータス』へ帰るのだと思っていたのだけど・・」

「すみません、その事ですが・・僕はノラを転院させる責任があるので明日も滞在してみるつもりなんです。なので・・・ヒルダ様だけは先に『ロータス』へ・・!」

突如ヒルダがルドルフに抱き着いて来ると言った。

「私も・・ここに残らせて?もっとルドルフと一緒にいたいから・・」

「ヒルダ様・・!」

ルドルフは嬉しさのあまり、ヒルダを強く抱きしめるのだった―
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

愛しいあなたに真実(言葉)は不要だった

cyaru
恋愛
伯爵令嬢のエリツィアナは領地で暮らしていた。 「結婚が出来る15歳になったら迎えに来る」 そこで出会った1人の少年の言葉を信じてみようとルマンジュ侯爵子息のオーウェンとの婚約話を先延ばしにしたが少年は来なかった。 領地から王都に住まうに屋敷は長兄が家族と共に住んでおり部屋がない事から父の弟(叔父)の家に厄介になる事になったが、慈善活動に力を入れている叔父の家では貧しい家の子供たちに文字の読み書きを教えていた。エリツィアナも叔父を手伝い子供たちに文字を教え、本を読みきかせながら、嫁ぎ先となる侯爵家に通う日々が始まった。 しかし、何時になっても正式な婚約が成されないばかりか、突然オーウェンから婚約破棄と慰謝料の請求が突きつけられた。 婚約もしていない状態なのに何故?マルレイ伯爵家一同は首を傾げた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません。

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

ヴェルセット公爵家令嬢クラリッサはどこへ消えた?

ルーシャオ
恋愛
完璧な令嬢であれとヴェルセット公爵家令嬢クラリッサは期待を一身に受けて育ったが、婚約相手のイアムス王国デルバート王子はそんなクラリッサを嫌っていた。挙げ句の果てに、隣国の皇女を巻き込んで婚約破棄事件まで起こしてしまう。長年の王子からの嫌がらせに、ついにクラリッサは心が折れて行方不明に——そして約十二年後、王城の古井戸でその白骨遺体が発見されたのだった。 一方、隣国の法医学者エルネスト・クロードはロロベスキ侯爵夫人ことマダム・マーガリーの要請でイアムス王国にやってきて、白骨死体のスケッチを見てクラリッサではないと看破する。クラリッサは行方不明になって、どこへ消えた? 今はどこにいる? 本当に死んだのか? イアムス王国の人々が彼女を惜しみ、探そうとしている中、クロードは情報収集を進めていくうちに重要参考人たちと話をして——?

処理中です...