316 / 566
第2章 25 ノラの行方
しおりを挟む
走り続ける馬車の中、ヒルダとルドルフは次の目的地・・ノラが働いている紡績工場へと向かっていた。
ヒルダは馬車から外を眺めながら言う。
「ここは・・本当に空気が悪い場所なのね・・。空の色もよく分らないし・・。カウベリーともロータスとも全く違う雰囲気の場所だわ・・。」
「ええ。そうですね・・・。時折町を歩く人の姿は見えますけど、皆・・どことなく暗い顔をしているようにも見えます。」
ヒルダの向かい側に座るルドルフが言い・・ノラの事を思い出していた。
ノラは数少ないグレースの女友達だったが、やはりとても貧しい農家の娘だった。
(多分・・ノラもグレースに何か甘い言葉を囁かれて・・・傍にいたのかもしれない・・。グレースは本当に卑怯な人間だ・・・。)
学校の先生に聞いた話では紡績工場はとても環境が悪く、そこで働く女性たちは身体を壊して仕事を辞めていく女性が多いと言う事で、あまり卒業生で紡績工場に就職する女子学生はいないそうだが・・。
(きっとあの教会の火事のせいで・・ノラもカウベリーに住みにくくなったんだ。だから『ボルト』の紡績工場に・・。)
「ルドルフ・・・また考え事しているけど・・大丈夫?」
ヒルダに声を掛けられてルドルフは顔を上げた。目の前には世界で一番愛する人が座っている。それだけでルドルフは幸せで胸が熱くなってくる。
「いいえ。何でもありません。ヒルダ様・・。」
そしてそっとヒルダの手を握りしめた―。
今回も馬車から降りる時、ルドルフはヒルダを抱きかかえて馬車を降りた。それを真っ赤な顔をしながらヒルダは言う。
「そ、そんなに甘やかさないで。ルドルフ・・1人で馬車位降りられるから・・。」
しかし、ルドルフは首を振った。
「いいえ、ヒルダ様は僕の大切な女性です。大事にさせて下さい。」
「あ、ありがとう・・。わ、私もルドルフが大切よ。あ・・愛しているわ・・。」
「僕もです。ヒルダ様。では・・・行きましょうか?」
「ええ・・・行きましょう。」
そしてルドルフとヒルダは紡績工場へ向かった―。
****
「え・・?ここにはいない?一体どういうことですか?」
ノラの勤めている紡績工場の寮を訪れた2人は、管理人室にいる寮母と話をしていた。寮母は30代程の女性で、でっぷりと肥え太っていた。
「ああ、言葉通りだよ。ノラは3カ月程前までは女工として働いていたけど、身体を壊して今はずっと入院しているんだよ。」
「え?!入院・・・一体何所の病院ですか?それは。」
ルドルフは驚いて詰め寄った。
「ああ・・今、住所を書いてあげるよ。」
寮母はメモ紙にサラサラと病院名と住所を書き、ルドルフに手渡した。
「ありがとうございます。」
すると寮母が言った。
「あんた達・・・・随分身なりが良い恰好をしているけど・・貴族かい?」
「は、はい。そうですけど・・・?」
ルドルフが返事をすると寮母が忠告した。
「ここ、『ボルト』はね・・・空気も悪いし、物乞いも多いから・・悪い事は言わない。早々にこの町を出たほうがいいよ。」
「わ、分りました・・・。」
ルドルフは背後にいるヒルダの手をしっかり握りしめると返事をした―。
****
「それにしても驚いたわ・・まさかノラさんが入院していたなんて・・・。」
次の辻馬車の中でヒルダが言う。
「ええ・・・そうですね・・。寮母さんは何の病気か教えてくれなかったけれども・・ヒルダ様。」
ルドルフはヒルダの手を握りしめると言った。
「どうやら・・この『ボルト』はあまり治安が良くない町の様です。だから・・・町の中では僕から絶対離れないでくださいね?」
「ええ・・分かったわ。」
ヒルダはルドルフを見つめて頷いた―。
ヒルダは馬車から外を眺めながら言う。
「ここは・・本当に空気が悪い場所なのね・・。空の色もよく分らないし・・。カウベリーともロータスとも全く違う雰囲気の場所だわ・・。」
「ええ。そうですね・・・。時折町を歩く人の姿は見えますけど、皆・・どことなく暗い顔をしているようにも見えます。」
ヒルダの向かい側に座るルドルフが言い・・ノラの事を思い出していた。
ノラは数少ないグレースの女友達だったが、やはりとても貧しい農家の娘だった。
(多分・・ノラもグレースに何か甘い言葉を囁かれて・・・傍にいたのかもしれない・・。グレースは本当に卑怯な人間だ・・・。)
学校の先生に聞いた話では紡績工場はとても環境が悪く、そこで働く女性たちは身体を壊して仕事を辞めていく女性が多いと言う事で、あまり卒業生で紡績工場に就職する女子学生はいないそうだが・・。
(きっとあの教会の火事のせいで・・ノラもカウベリーに住みにくくなったんだ。だから『ボルト』の紡績工場に・・。)
「ルドルフ・・・また考え事しているけど・・大丈夫?」
ヒルダに声を掛けられてルドルフは顔を上げた。目の前には世界で一番愛する人が座っている。それだけでルドルフは幸せで胸が熱くなってくる。
「いいえ。何でもありません。ヒルダ様・・。」
そしてそっとヒルダの手を握りしめた―。
今回も馬車から降りる時、ルドルフはヒルダを抱きかかえて馬車を降りた。それを真っ赤な顔をしながらヒルダは言う。
「そ、そんなに甘やかさないで。ルドルフ・・1人で馬車位降りられるから・・。」
しかし、ルドルフは首を振った。
「いいえ、ヒルダ様は僕の大切な女性です。大事にさせて下さい。」
「あ、ありがとう・・。わ、私もルドルフが大切よ。あ・・愛しているわ・・。」
「僕もです。ヒルダ様。では・・・行きましょうか?」
「ええ・・・行きましょう。」
そしてルドルフとヒルダは紡績工場へ向かった―。
****
「え・・?ここにはいない?一体どういうことですか?」
ノラの勤めている紡績工場の寮を訪れた2人は、管理人室にいる寮母と話をしていた。寮母は30代程の女性で、でっぷりと肥え太っていた。
「ああ、言葉通りだよ。ノラは3カ月程前までは女工として働いていたけど、身体を壊して今はずっと入院しているんだよ。」
「え?!入院・・・一体何所の病院ですか?それは。」
ルドルフは驚いて詰め寄った。
「ああ・・今、住所を書いてあげるよ。」
寮母はメモ紙にサラサラと病院名と住所を書き、ルドルフに手渡した。
「ありがとうございます。」
すると寮母が言った。
「あんた達・・・・随分身なりが良い恰好をしているけど・・貴族かい?」
「は、はい。そうですけど・・・?」
ルドルフが返事をすると寮母が忠告した。
「ここ、『ボルト』はね・・・空気も悪いし、物乞いも多いから・・悪い事は言わない。早々にこの町を出たほうがいいよ。」
「わ、分りました・・・。」
ルドルフは背後にいるヒルダの手をしっかり握りしめると返事をした―。
****
「それにしても驚いたわ・・まさかノラさんが入院していたなんて・・・。」
次の辻馬車の中でヒルダが言う。
「ええ・・・そうですね・・。寮母さんは何の病気か教えてくれなかったけれども・・ヒルダ様。」
ルドルフはヒルダの手を握りしめると言った。
「どうやら・・この『ボルト』はあまり治安が良くない町の様です。だから・・・町の中では僕から絶対離れないでくださいね?」
「ええ・・分かったわ。」
ヒルダはルドルフを見つめて頷いた―。
0
お気に入りに追加
725
あなたにおすすめの小説
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
愛さなかったのは貴方ですよね?
杉本凪咲
恋愛
彼に愛されるために、私は努力をした。
しかしそれは無駄だったようで、彼は私との婚約に悲観をこぼす。
追い打ちをかけるように階段から突き落とされた私だが、それをきっかけに人生が逆転して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる