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第2章 19 コリンの現状
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コリンが暮らす寮から300m程歩いた先には大通りが広がっている。立ち並ぶ店は主に金物屋、クリーニング店、仕立て屋と言った実用品を扱う店ばかりであったが、その中の何軒かは喫茶店になっていた。
ルドルフはそのうちのある1軒の喫茶店の前で足を止めた。窓から店内の様子を伺うとルドルフはヒルダに言う。
「ヒルダ様、この店が一番椅子の座り心地が良さそうで店内も綺麗です。この店に入りましょう。」
「ええ、そうね。」
コリンは2人の会話を耳にして驚いた。
(な、なんて2人なんだ・・・!ここは・・この辺り一帯で一番高級な喫茶店で・・工場長や社長くらいしか利用できないのに・・!)
「コリン、この店に入ろう。」
ルドルフはコリンを振り向くと言った。
「あ、ああ・・・。」
コリンは震えながらも頷くと、ルドルフはヒルダを連れて店のドアを開けて、中へと入っていく。そんな2人の後をコリンもおっかなびっくり店内へと足を踏み入れた。
店の中は少し薄暗く、2組の男性客がいるだけでガラガラだった。彼らは静かに談笑している。
「窓際のボックス席に座りましょう。」
「ええ・・明るい場所の方がいいものね。」
ルドルフの言葉にヒルダは頷く。
「・・・・。」
コリンは黙って2人の会話を聞きながら店の中を見渡した。店の壁にはどのような仕組みなのかは不明だが、何やら大きなプロペラのような羽がついて、ゆっくりと回っている。赤茶色の木目の壁には様々な絵画が飾られ、店のいたるところには大きな観葉植物が置かれている。
(なんて凄い店なんだ・・。)
コリンは思わず感嘆のため息を漏らした。まるでここは中学時代に仲間たちと訪れていたグレースの屋敷を彷彿とさせるものだった。
辛く、惨めな工場での仕事・・職場でも寮でもコリンは田舎の『カウベリー』出身という事で馬鹿にされ、いじめられていた。辛くて逃げたくても逃げ道は無かった。すでにコリンの家は『カウベリー』にはなく、両親はここ『ボルト』で住み込みで工場の社長の家で下働きの仕事をしていたからだ。
(これも・・・全部あのグレースのせいだ・・・!)
あの火事の焼失事件・・・責任は罪のないヒルダが被り、カウベリーを追い出されたことで、コリンたちは責任の矢面に立たされることはなかったかが、それでも近所で悪い評判が立ち・・・住んでいられなくなってしまったのだ。もともと就職先もカウベリーでは見つからなかったし、中学教師の勧めでここ『ボルト』の工場に就職が決まったが・・まるで地獄のような生活だった。
昼の休憩をはさんで1日12時間の過酷な労働・・力仕事が多く、手の豆はつぶれて、すっかり固くなってしまった。毎日疲れが取れず、その上職場内でのいじめ・・ここで過酷な労働を強いられている男達は皆ストレスがたまり、そのうっぷんを晴らすためにいじめが常駐化していたのだ。
コリンは何度、この工場を逃げ出そうと思ったか・・その数は計り知れない。しかし、逃げてもどこへも行く当てもないのだ。だからコリンの希望はただ一つ、お金をためていつかこの工場を辞めて別の土地へ行って働くこと・・・。しかし、2年たった今でも全くお金を貯めることは出来ずにいたのだ。
(こんな立派な店に入るなんて・・遥か夢のような話だと思っていたのに・・それをこの2人はあっという間に叶えてしまうんだからな・・。)
コリンはすっかり卑屈な思いで、目の前に座るルドルフとヒルダを交互に見た。
2人は貴族というだけの事があり・・・とても身なりの良い服を着ていた。コリンは自分のつぎはぎだらけの服が恥ずかしく・・どうしてこんな場違いな場所に来ているのだろうとぼんやり考えているとルドルフに声を掛けられた。
「コリン、好きなものを頼むといいよ。」
そしてコリンの前にメニュー表を差し出してきた―。
ルドルフはそのうちのある1軒の喫茶店の前で足を止めた。窓から店内の様子を伺うとルドルフはヒルダに言う。
「ヒルダ様、この店が一番椅子の座り心地が良さそうで店内も綺麗です。この店に入りましょう。」
「ええ、そうね。」
コリンは2人の会話を耳にして驚いた。
(な、なんて2人なんだ・・・!ここは・・この辺り一帯で一番高級な喫茶店で・・工場長や社長くらいしか利用できないのに・・!)
「コリン、この店に入ろう。」
ルドルフはコリンを振り向くと言った。
「あ、ああ・・・。」
コリンは震えながらも頷くと、ルドルフはヒルダを連れて店のドアを開けて、中へと入っていく。そんな2人の後をコリンもおっかなびっくり店内へと足を踏み入れた。
店の中は少し薄暗く、2組の男性客がいるだけでガラガラだった。彼らは静かに談笑している。
「窓際のボックス席に座りましょう。」
「ええ・・明るい場所の方がいいものね。」
ルドルフの言葉にヒルダは頷く。
「・・・・。」
コリンは黙って2人の会話を聞きながら店の中を見渡した。店の壁にはどのような仕組みなのかは不明だが、何やら大きなプロペラのような羽がついて、ゆっくりと回っている。赤茶色の木目の壁には様々な絵画が飾られ、店のいたるところには大きな観葉植物が置かれている。
(なんて凄い店なんだ・・。)
コリンは思わず感嘆のため息を漏らした。まるでここは中学時代に仲間たちと訪れていたグレースの屋敷を彷彿とさせるものだった。
辛く、惨めな工場での仕事・・職場でも寮でもコリンは田舎の『カウベリー』出身という事で馬鹿にされ、いじめられていた。辛くて逃げたくても逃げ道は無かった。すでにコリンの家は『カウベリー』にはなく、両親はここ『ボルト』で住み込みで工場の社長の家で下働きの仕事をしていたからだ。
(これも・・・全部あのグレースのせいだ・・・!)
あの火事の焼失事件・・・責任は罪のないヒルダが被り、カウベリーを追い出されたことで、コリンたちは責任の矢面に立たされることはなかったかが、それでも近所で悪い評判が立ち・・・住んでいられなくなってしまったのだ。もともと就職先もカウベリーでは見つからなかったし、中学教師の勧めでここ『ボルト』の工場に就職が決まったが・・まるで地獄のような生活だった。
昼の休憩をはさんで1日12時間の過酷な労働・・力仕事が多く、手の豆はつぶれて、すっかり固くなってしまった。毎日疲れが取れず、その上職場内でのいじめ・・ここで過酷な労働を強いられている男達は皆ストレスがたまり、そのうっぷんを晴らすためにいじめが常駐化していたのだ。
コリンは何度、この工場を逃げ出そうと思ったか・・その数は計り知れない。しかし、逃げてもどこへも行く当てもないのだ。だからコリンの希望はただ一つ、お金をためていつかこの工場を辞めて別の土地へ行って働くこと・・・。しかし、2年たった今でも全くお金を貯めることは出来ずにいたのだ。
(こんな立派な店に入るなんて・・遥か夢のような話だと思っていたのに・・それをこの2人はあっという間に叶えてしまうんだからな・・。)
コリンはすっかり卑屈な思いで、目の前に座るルドルフとヒルダを交互に見た。
2人は貴族というだけの事があり・・・とても身なりの良い服を着ていた。コリンは自分のつぎはぎだらけの服が恥ずかしく・・どうしてこんな場違いな場所に来ているのだろうとぼんやり考えているとルドルフに声を掛けられた。
「コリン、好きなものを頼むといいよ。」
そしてコリンの前にメニュー表を差し出してきた―。
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