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第2章 9 悩むアレン

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 夕方4時―

ヒルダのアルバイトの終わりの時間がやってきた。この時間は診察時間が中休みの時間帯である。ヒルダはエプロンを外すと、診察室でコーヒーを飲みながら休憩しているアレンに声を掛けた。

「アレン先生。」

「な、何だ?!」

ヒルダの恋人の事をぼんやりと考えていたアレンは突然声を掛けられて慌ててヒルダの方を振り向いた。

「あの・・・時間になったのでご挨拶に伺ったのですが・・・。先生、大丈夫ですか?」

ヒルダは怪訝な顔をしながらアレンを見る。


「ああ。俺は大丈夫、何の問題もない。」

妙な返事をするアレンにヒルダは少しだけ首をかしげた。

「そうですか・・・?では先生。また明後日、よろしくお願いします。」

「ああ、こちらこそよろしく頼むよ。それで・・・ヒルダ・・。」

「はい。」

「そ、その・・・恋人へのクリスマスプレゼントの事なんだが・・。何か決まったのか?」

「いえ、まだです。」

「そうか・・・学生なら・・万年筆とかは・・どうだろうか・・。」

アレンは自信なさげに言う。

「万年筆・・ですか?」

「あ、ああ・・!もし自分が17歳だったらって考えて・・・ほら、来年ヒルダも彼も受験生になるわけだろう?書きやすい万年筆なら・・・ましてや恋人からの万年筆なら勉強に力も入るのではないかと思って・・。」

アレンは一気にまくし立て・・ヒルダが口をぽかんと開けたまま自分を見ている姿に気づき、思わず赤面してしまった。そして慌てて咳払いをする。

「う・・、ゴ・ゴホンッ!つ、つまり・・それは単なる一例だ・・。今の話は忘れてくれ・・。やっぱり彼も・・ヒルダからのプレゼントなら・・・どんなものだって嬉しいだろう・・。」

しかし、ヒルダは笑顔になると言った。

「いいえ、とても参考になりました。ありがとうございます、アレン先生。これで・・2人のクリスマスプレゼントが決まりました。早速買いに行ってみたいと思います。やはり男性なら・・色は黒か紺がいいでしょうね?アレン先生、本当にありがとうございました。」

ヒルダは頭を下げると、診察室を後にした。一方、1人部屋に残されたアレンは呆然とヒルダが出て行ったドアを見つめていた。

(ヒルダ・・・今、確かに2人と言ったよな?2人って・・・後の1人は・・・一体誰なんだ・・・っ?!)

こうして、また一つアレンの悩みは増えてしまった。


受付に現れたヒルダを見てリンダが声を掛けた。丁度カルテの整理をしている真っ最中だったのである。

「あら、ヒルダちゃん。そういえばもうバイトの時間が終わりだったわね?」

「はい、そうです。これから買い物をして帰るんです。」

ヒルダは笑顔で答える。

「まあ、何を買って帰るのかしら?」

リンダが興味深げに尋ねてきた。

「はい。彼と・・お兄様にあげるクリスマスプレゼントです。アレン先生が考えて下さったんです。」

「まあ・・アレン先生が・・?」

(あれほど、ヒルダの事でショックを受けていたのに・・フフ・・・アレン先生はちゃんとヒルダの事を考えていてくれたのね・・。)

リンダは笑みを浮かべると言った。

「それで?アレン先生のアドバイスは何だったの?」

「万年筆を薦められました。なのでそれにしようと思います。」

「万年筆・・・そうね。毎日使うものだし・・とても重宝すると思うわ。さすがはアレン先生ね?」

「はい、私もそう思います。ではお先に失礼します。」

ヒルダは頭を下げると、アレンの診察室を出て・・すっかり薄暗くなったロータスの町を文房具屋へ向けて歩き出した―。
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