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第2章 7 様子のおかしいアレン
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その日の夜―
ルドルフはエドガー宛に手紙を書いていた。教会焼失事件があった日に、他に居合わせていた2人の少年と少女・・コリンとノラの居場所が分かった事、そして来週の土曜日にヒルダと2人でコリンとノラがいる『ボルト』の町へ行くことを手紙にしたためたのだ。勿論・・・ヒルダと恋人同士になれた事も書いた。
(本当は・・こんな事を書いていいのだろうか・・・。)
ルドルフは手紙に封をしながら思った。エドガーはヒルダの事を愛している。しかし、その胸の内は決して明かさない。さらにヒルダと恋人同士になるように伝えてきたのもエドガーなのだ。
エドガーの事を考えれば、ヒルダと一緒に『ボルト』へ行くことは伝えるべきではなかったのかもしれない。なぜなら場合によってその町に2人は宿泊するかもしれないからだ。最も部屋は別々に取るとはいえ・・エドガーからしてみれば、決して気分の良い話ではないだろう。ましてや・・・2人は恋人同士になったのだから。けれど、その事実を隠して、尊敬するエドガーを欺くことはルドルフはしたくなかったのだ。
「申し訳ございません・・・エドガー様・・。」
ルドルフはそっと呟くと、真鍮のスプーンの上にえんじ色のワックスを乗せて机の上に置いてあるオイルランプの蓋を開けて、ワックスの乗ったスプーン熱してオイルを溶かした。そのオイルを慎重に封筒に垂らし、最後に自分のサインとなる印璽を押して、ため息をつき、窓から星空を眺めた―。
翌日―
月曜日・・この日はヒルダのアルバイトの日であった。
「おはようございます。」
ヒルダがいつものように受付に顔を出すと、そこにはリンダが返事もせずに何故かヒルダを手招きする。
(どうしたのかしら・・リンダさん。)
ヒルダはリンダの傍に来ると声をかけた。
「あの、何かあったのですか?」
するとリンダが小声で言う。
「なんだか今朝のアレン先生・・様子がおかしいのよ。」
「え?・・どういうことですか?」
「それが、何となくぼ~っとして・・呼びかけてもどこか上の空だし・・何かあったのしら・・?」
「それは・・・確かに少し心配ですね・・。でも、アレン先生の事ですから・・診察が始まれば、いつもの先生に戻ると思いますけど・・?」
するとそこへ看護師のレイチェルも現れた。
「あら、おはよう、ヒルダ。」
「おはようございます。レイチェルさん。」
「やっぱり・・アレン先生様子がおかしいわ。ねえ、ヒルダ。アレン先生にコーヒーでもいれてくれるかしら?」
レイチェルは怪訝そうな顔をしながらヒルダに言う。
「はい、わかりました。」
言われたヒルダは診察室を覗き込むと、そこには机に向かい、何やらボ~ッとしているアレンの姿があった。
「あの・・アレン先生・・?」
ヒルダが声をかけると、突然アレンは我に返ったかのように慌ててヒルダを見た。
「あ、ああ!おはよう、ヒルダ。」
やはりヒルダの目から見てもいつものアレンらしくない姿がそこにあった。
「あの・・・アレン先生、何かあったのですか?」
「え?な、何かって?」
「はい・・何だかいつもと様子が違うように見えるのですが・・?」
「いや・・別に。何でもないから気にしないでくれ。」
コホンと咳払いするとアレンは言う。
「そうですか・・?アレン先生。着替て来たらコーヒーを入れますね。」
ヒルダはお辞儀をすると、診察室を後にした。その様子をじっと見送るアレン。
そしてさらにそんなアレンを見つめるリンダとレイチェル。
「やっぱり・・これはアレね・・?」
「ええ。間違いないわ。」
リンダとレイチェルが交互に言う。
「「きっと、ヒルダの事で何かあったのよ。」」
そう、2人は判断したのだった―。
ルドルフはエドガー宛に手紙を書いていた。教会焼失事件があった日に、他に居合わせていた2人の少年と少女・・コリンとノラの居場所が分かった事、そして来週の土曜日にヒルダと2人でコリンとノラがいる『ボルト』の町へ行くことを手紙にしたためたのだ。勿論・・・ヒルダと恋人同士になれた事も書いた。
(本当は・・こんな事を書いていいのだろうか・・・。)
ルドルフは手紙に封をしながら思った。エドガーはヒルダの事を愛している。しかし、その胸の内は決して明かさない。さらにヒルダと恋人同士になるように伝えてきたのもエドガーなのだ。
エドガーの事を考えれば、ヒルダと一緒に『ボルト』へ行くことは伝えるべきではなかったのかもしれない。なぜなら場合によってその町に2人は宿泊するかもしれないからだ。最も部屋は別々に取るとはいえ・・エドガーからしてみれば、決して気分の良い話ではないだろう。ましてや・・・2人は恋人同士になったのだから。けれど、その事実を隠して、尊敬するエドガーを欺くことはルドルフはしたくなかったのだ。
「申し訳ございません・・・エドガー様・・。」
ルドルフはそっと呟くと、真鍮のスプーンの上にえんじ色のワックスを乗せて机の上に置いてあるオイルランプの蓋を開けて、ワックスの乗ったスプーン熱してオイルを溶かした。そのオイルを慎重に封筒に垂らし、最後に自分のサインとなる印璽を押して、ため息をつき、窓から星空を眺めた―。
翌日―
月曜日・・この日はヒルダのアルバイトの日であった。
「おはようございます。」
ヒルダがいつものように受付に顔を出すと、そこにはリンダが返事もせずに何故かヒルダを手招きする。
(どうしたのかしら・・リンダさん。)
ヒルダはリンダの傍に来ると声をかけた。
「あの、何かあったのですか?」
するとリンダが小声で言う。
「なんだか今朝のアレン先生・・様子がおかしいのよ。」
「え?・・どういうことですか?」
「それが、何となくぼ~っとして・・呼びかけてもどこか上の空だし・・何かあったのしら・・?」
「それは・・・確かに少し心配ですね・・。でも、アレン先生の事ですから・・診察が始まれば、いつもの先生に戻ると思いますけど・・?」
するとそこへ看護師のレイチェルも現れた。
「あら、おはよう、ヒルダ。」
「おはようございます。レイチェルさん。」
「やっぱり・・アレン先生様子がおかしいわ。ねえ、ヒルダ。アレン先生にコーヒーでもいれてくれるかしら?」
レイチェルは怪訝そうな顔をしながらヒルダに言う。
「はい、わかりました。」
言われたヒルダは診察室を覗き込むと、そこには机に向かい、何やらボ~ッとしているアレンの姿があった。
「あの・・アレン先生・・?」
ヒルダが声をかけると、突然アレンは我に返ったかのように慌ててヒルダを見た。
「あ、ああ!おはよう、ヒルダ。」
やはりヒルダの目から見てもいつものアレンらしくない姿がそこにあった。
「あの・・・アレン先生、何かあったのですか?」
「え?な、何かって?」
「はい・・何だかいつもと様子が違うように見えるのですが・・?」
「いや・・別に。何でもないから気にしないでくれ。」
コホンと咳払いするとアレンは言う。
「そうですか・・?アレン先生。着替て来たらコーヒーを入れますね。」
ヒルダはお辞儀をすると、診察室を後にした。その様子をじっと見送るアレン。
そしてさらにそんなアレンを見つめるリンダとレイチェル。
「やっぱり・・これはアレね・・?」
「ええ。間違いないわ。」
リンダとレイチェルが交互に言う。
「「きっと、ヒルダの事で何かあったのよ。」」
そう、2人は判断したのだった―。
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