嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

結城芙由奈@コミカライズ発売中

文字の大きさ
上 下
279 / 566

第1章 9 ルドルフの確信

しおりを挟む
「僕が・・・ヒルダ様のアパートメント迄荷物を持っていきます。」

ルドルフはヒルダを見つめながら言った。

「ル、ルドルフ・・・。」

ヒルダは狼狽えながらルドルフを見上げた。まっすぐ自分を見つめるルドルフの瞳に映る姿は自分だけだった。

「いいですよね?ヒルダ様。」

ヒルダ様・・・・。
ルドルフから名前を呼ばれたのはどのくらい久しいだろう。昨年、突然転入生としてセロニア学園高等学校にやって来たルドルフ。同じクラスメイトでありながら・・・ルドルフはどこかヒルダを避ける行動を取っており、名前を呼ばれること等一切無かった。なのでルドルフに完全にヒルダは嫌われていると思っていたのに・・。
気付けばヒルダの目に涙が浮かんでいた。
アンナの手引きで母マーガレットに再会できて枯れ果ていた涙が戻って来たヒルダ。
その為か・・・最近はほんの僅かな事でも涙ぐむようになっていたのだ。

一方、驚いたのはルドルフの方だった。

「え?ヒルダ様?」

突然涙ぐむヒルダを見てルドルフはすっかり驚いてしまった。

(どうしよう・・ひょっとして僕はきつい言い方をしてしまったのだろうか?どうしてもヒルダ様を前にすると・・・緊張してしまう・・。)

本当はヒルダの事が愛しくて仕方が無いのに、もっと優しく接してあげたいのに・・カウベリーでヒルダに冷たくあしらわれた記憶がルドルフの中に蘇ってきてしまうのだ。確証は無いけれども、ヒルダがあのような行動を取ったのは・・全てグレースのせいだと言う事が分かり切っているのに・・・。

「ヒルダ様・・・何故泣くのですか?僕は・・ひょっとしてヒルダ様を怖がらせていますか・・?」

ルドルフは恐る恐るヒルダに尋ねた。するとヒルダは首を振った。

「ううん・・・そうじゃないの・・・・ルドルフに名前を呼ばれたことが・・・話しかけてくれた事が・・嬉しくて・・・。」

そしてヒルダは恥ずかしそうに俯いた。

「!」

その言葉にルドルフは耳まで顔が赤く染まってしまった。頭の中にエドガーの言葉が蘇ってくる。
 
< 恐らく・・ヒルダはルドルフ・・君の事を愛している。 >

(本当に・・・?ヒルダ様・・僕の事を・・?)

「行きましょう、ヒルダ様。」

ルドルフは右手に荷物を持つと左手でヒルダの手を繋いできた。するとヒルダが驚いたように言う。

「だ、駄目よ。ルドルフ。」

「え・・?」

ルドルフはその言葉にショックを受けてパッとヒルダの手を離すと振り返った。

「・・・嫌でしたか?」

ショックを隠し切れない顔でルドルフはヒルダを見た。悲し気なルドルフの顔を見てヒルダは動揺しながらも言った。

「だ、だって・・・ルドルフはマドレーヌと・・お付き合いしているでしょう?私と手を繋いだりしたら・・誤解されてしまうわ。」

ヒルダは視線をそらせながら言う。

「え・・・?」

ルドルフはいきなりヒルダの口からマドレーヌの名前が出てきた事に驚いた。

「何故・・・僕がマドレーヌと付き合っていると思ったのですか?」

「だ、だって・・・わ、私・・・見てしまったの。マドレーヌと貴方が・・・2人で一緒に彼女のご両親が経営するお店に入って行くのを・・・。私も店の中に入ろうと思ったのだけど・・。」

「ヒルダ様・・・。」

(まさか見られていたなんて・・。)

「ごめんなさい。」

突然ヒルダが謝って来た。

「え?何故・・謝るのですか?」

「あの・・2人の後をつけるような真似をして・・つ、つい・・気になってしまって・・。」

真っ赤になって俯いて話すヒルダを見てルドルフは確信した。

(間違いない・・・!ヒルダ様は・・僕の事を・・・!)

「ヒルダ様・・・。」

嬉しくなったルドルフは先ほど離したヒルダの左手を再び握り締めた―。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

愚かな者たちは国を滅ぼす【完結】

春の小径
ファンタジー
婚約破棄から始まる国の崩壊 『知らなかったから許される』なんて思わないでください。 それ自体、罪ですよ。 ⭐︎他社でも公開します

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

貧乏令嬢はお断りらしいので、豪商の愛人とよろしくやってください

今川幸乃
恋愛
貧乏令嬢のリッタ・アストリーにはバート・オレットという婚約者がいた。 しかしある日突然、バートは「こんな貧乏な家は我慢できない!」と一方的に婚約破棄を宣言する。 その裏には彼の領内の豪商シーモア商会と、そこの娘レベッカの姿があった。 どうやら彼はすでにレベッカと出来ていたと悟ったリッタは婚約破棄を受け入れる。 そしてバートはレベッカの言うがままに、彼女が「絶対儲かる」という先物投資に家財をつぎ込むが…… 一方のリッタはひょんなことから幼いころの知り合いであったクリフトンと再会する。 当時はただの子供だと思っていたクリフトンは実は大貴族の跡取りだった。

【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする

冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。 彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。 優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。 王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。 忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか? 彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか? お話は、のんびりゆったりペースで進みます。

大好きなあなたを忘れる方法

山田ランチ
恋愛
あらすじ  王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。  魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。 登場人物 ・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。 ・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。 ・イーライ 学園の園芸員。 クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。 ・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。 ・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。 ・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。 ・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。 ・マイロ 17歳、メリベルの友人。 魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。 魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。 ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。

【完】あなたから、目が離せない。

ツチノカヲリ
恋愛
入社して3年目、デザイン設計会社で膨大な仕事に追われる金目杏里(かなめあんり)は今日も徹夜で図面を引いていた。共に徹夜で仕事をしていた現場監理の松山一成(まつやまひとなり)は、12歳年上の頼れる男性。直属の上司ではないが金目の入社当時からとても世話になっている。お互い「人として」の好感は持っているものの、あくまで普通の会社の仲間、という間柄だった。ところがある夏、金目の30歳の誕生日をきっかけに、だんだんと二人の距離が縮まってきて、、、。 ・全18話、エピソードによってヒーローとヒロインの視点で書かれています。

処理中です...