嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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番外編 カウベリーの事件簿 ⑤

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「駄目です警部補。こっちは何も見つかりませんでした。」

カール巡査が机の前に立っている警部補の処へやって来た。

「・・・。」

しかし、警部補はそれには答えずに机の引き出しから取り出した便箋を眺めていた。

「警部補?何を見ていたんですか?」

カール巡査が覗き込んできて、真新しい便箋を見て言った。

「あ、便箋じゃないですか。何か書いてありましたか?」

「いや・・・残念ながら何も残されていないよ。でも・・ほら、これを見て見ろ。」

警部補は便箋の表紙をめくると、枚数が半分近く減っているのが分かった。

「・・・イワンは・・しょっちゅう手紙を書いていたんでしょうかねぇ・・?」

「君はどうだ?よく手紙は書くか?」

「う~ん・・・あまり書くことはないですかねぇ・・・。」

「・・他にイワンの私物をみたのだが・・封筒も見つけたんだ。」

警部補は引き出しから封筒も取り出した。便箋も、封筒も・・・そのどちらもとても真新しく見えた。

「便箋も封筒も・・・新しく見えますね。」

先程イワンの本棚を見たカール巡査にはそう思えた。本棚に置かれた本はどれも年季が入っており、黄ばんでかさついていたからだ。

「カール巡査もそう思うかね?」

意外そうな顔で警部補は言う。

「え、ええ・・そうですね。」

「この引き出しからは・・真新しい便箋と封筒・・そして鉛筆1本に・・消しゴムと鉛筆を削る小さなナイフだけ入っていたんだ。」

「え・・・これですか・・?」

カール巡査は長さが5センチにも満たない鉛筆にとても小さくなった消しゴムを見て顔をしかめた。

「イワンは・・・よほど貧しい生活をしていたのでしょうね・・・。それなのに便箋と封筒だけは妙に真新しい・・・。」

「ああ、きっと伯爵家に手紙を出す為に・・なけなしの金をはたいて買ったのだろうな。」

「はい・・・。」

「でも・・遺書位は残されていると思ったのだが・・・。」

溜息をつきながら警部補はさりげなくハンガーにかけてある清掃員の制服をチラリと見た。

「・・・たしか、イワンはその日も勤務があったはずだな?」

「ええ。そうですね。出勤簿にはイワンの名前の欄に丸印がついていましたから。」

カール巡査は答えた。

「ふむ・・・。普通制服というのは・・職場のロッカールームに置くものじゃないか?」

「あ、それなんですけどね。イワンはただの清掃員だったからロッカーは無かったそうです。いつも制服を着て出勤してたらしいですよ?しかもレンタルだったそうです。お金が無くて・・給料が貯まったら買い取ることになっていたそうです・・。」

「ほーう・・良くそこまで事情徴収出来たな。そういえば・・確かイワンの飛び込み現場を目撃してしまった駅員がいたよな?」

「ええ、彼は制服を着て来なかったイワンを注意したそうなんですが、イワンはその言葉に耳も貸さない様子で、ホームに入り・・やって来た始発列車に飛び込んだそうです。」

「ああ・・・それに目撃した人物は今も放心状態で仕事を欠勤しているときいてるが・・・。」

「まあ・・誰だってトラウマになりますよ。だって知っている人間が目の前で自殺なんて・・・。」

「本当に・・哀れな少年だったな・・。」

警部補は溜息をつき・・ハンガーにかけてある制服に近付き、何気なく触れると顔色を変えた。

「・・・これは・・・。」

「警部補?どうされましたか?」

カール巡査は自分の方に背を向けてイワンの制服に触れている警部補に声を掛けた。

すると、警部補は何も言わずに制服のポケットに手をいれ・・・1通の封筒を取り出した―。
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