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第12章 9 こことは違う場所で
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イワンの埋葬が終わった。イワンの母はすっかり放心状態になっており、真新しい墓標の前に茫然と跪いていた。そんな彼女を心配して町の人々は次々と声を掛けていくが、すっかり生気が抜けてしまったかのようなイワンの母にその言葉は届くはずも無かった。
そんなイワンの母を遠目から見ていたエドガーとルドルフ。エドガーは白い息を吐きながらルドルフに声を掛けた。
「ルドルフ・・すまないが、俺は屋敷に帰らせてもらうよ。恐らくアンナ嬢がヒルダを連れてフィールズ家に来ているはずなんだ。ヒルダは今日の汽車でロータスへ帰る事になっているらしいから・・その前にもう一度母に会わせてやりたいんだ。幸い・・父は警察署に行ってるから今は不在なので都合がいいんだ。」
「そうなんですか?どうりで途中からハリス様の姿が見えなくなったと思っていました・・。ではエドガー様。僕はまだここに残ります。イワンのお母さんと話がありますし、ハリス様からお預かりした小切手を渡したいので。」
ルドルフはエドガーに言った。
「ああ・・・そうだな。」
そしてエドガーはルドルフをじっと見つめると言った。
「エドガー。」
「はい、何でしょう?」
「ヒルダの事・・・どう思っている?」
「え・・?」
ルドルフはエドガーの突然の問いかけに戸惑った。
「ヒルダの事・・まだ愛しているんだよな・・?」
エドガーの瞳はとても真剣だった。なのでルドルフはごまかすことなく、はっきりと今の自分の心の内を話すことにした。
「はい、僕は・・ヒルダ様を今もずっと変わらず・・・愛しています。」
「そうか・・。」
エドガーはフッと笑った。しかし・・その目はどこか悲しげであった。
「エドガー様・・・。」
(どうして突然そんな事を僕に尋ねて・・?)
するとエドガーは言った。
「アンナ嬢に聞いたんだが・・・イワンとグレースが亡くなった知らせを聞いた時、ヒルダはショックで気を失ってしまったらしい。」
「え・・?」
ルドルフはギョッとした顔でエドガーを見た。
「そ、そうなんですか・・・?」
「ああ・・・。それで意識を失っている間・・うわ言でルドルフ・・・君の名を呼んでいたらしい。」
「僕の名を・・・?」
「ああ・・・うわ言のように君に謝罪を述べる言葉を口にしていたそうだ。自分のせいでグレースを・・・そう言いながらルドルフ、君の名を口にしていたそうだ。」
「そ、そんな・・ヒルダ様が・・。」
「ルドルフ・・・イワンとグレースが死んだばかりで不謹慎かもしれないが・・。」
エドガーはそこで言葉を一度切ると言った。
「恐らく・・ヒルダはルドルフ・・君の事を愛している。」
「!」
ルドルフはエドガーの言葉にハッとなった。
「ヒルダはグレースの嘘によって・・・君とグレースが恋人同士だったと・・今もそう思っているんだ。」
「・・・。」
(そうだ・・・僕がヒルダ様と引き裂かれてしまったのは・・グレースのせいなんだ・・!)
ルドルフは拳を握り締めた。
「だが、今となってはもう・・グレースは死んで・・この世にいない。」
「・・そうですね・・・。」
「遠慮するものは何もない・・そう思わないか?もう・・ヒルダと恋人同士になってもおかしくないと思わないか?」
エドガーは自分のズキズキと痛む胸の内を押し隠しながらルドルフを見た。
「ヒルダ様と・・・恋人同士に・・・?」
ルドルフはヒルダと恋人同士になれる日を・・ずっと夢見ていた。だが。。。。
「エドガー様・・・でも・・やはり無理です。だって・・『カウベリー』に住む人たちは皆誰もが教会が焼けてしまったのはヒルダ様だと思っているんですよ?」
「そう・・ここでは無理だ。だが・・『ロータス』でならどうだ?あの町なら・・・2人は恋人同士として過ごせるんじゃないのか?」
「『ロータス』なら・・・。」
エドガーはルドルフの肩を軽く叩くと言った。
ヒルダの・・事を・・よろしく頼む―と
そんなイワンの母を遠目から見ていたエドガーとルドルフ。エドガーは白い息を吐きながらルドルフに声を掛けた。
「ルドルフ・・すまないが、俺は屋敷に帰らせてもらうよ。恐らくアンナ嬢がヒルダを連れてフィールズ家に来ているはずなんだ。ヒルダは今日の汽車でロータスへ帰る事になっているらしいから・・その前にもう一度母に会わせてやりたいんだ。幸い・・父は警察署に行ってるから今は不在なので都合がいいんだ。」
「そうなんですか?どうりで途中からハリス様の姿が見えなくなったと思っていました・・。ではエドガー様。僕はまだここに残ります。イワンのお母さんと話がありますし、ハリス様からお預かりした小切手を渡したいので。」
ルドルフはエドガーに言った。
「ああ・・・そうだな。」
そしてエドガーはルドルフをじっと見つめると言った。
「エドガー。」
「はい、何でしょう?」
「ヒルダの事・・・どう思っている?」
「え・・?」
ルドルフはエドガーの突然の問いかけに戸惑った。
「ヒルダの事・・まだ愛しているんだよな・・?」
エドガーの瞳はとても真剣だった。なのでルドルフはごまかすことなく、はっきりと今の自分の心の内を話すことにした。
「はい、僕は・・ヒルダ様を今もずっと変わらず・・・愛しています。」
「そうか・・。」
エドガーはフッと笑った。しかし・・その目はどこか悲しげであった。
「エドガー様・・・。」
(どうして突然そんな事を僕に尋ねて・・?)
するとエドガーは言った。
「アンナ嬢に聞いたんだが・・・イワンとグレースが亡くなった知らせを聞いた時、ヒルダはショックで気を失ってしまったらしい。」
「え・・?」
ルドルフはギョッとした顔でエドガーを見た。
「そ、そうなんですか・・・?」
「ああ・・・。それで意識を失っている間・・うわ言でルドルフ・・・君の名を呼んでいたらしい。」
「僕の名を・・・?」
「ああ・・・うわ言のように君に謝罪を述べる言葉を口にしていたそうだ。自分のせいでグレースを・・・そう言いながらルドルフ、君の名を口にしていたそうだ。」
「そ、そんな・・ヒルダ様が・・。」
「ルドルフ・・・イワンとグレースが死んだばかりで不謹慎かもしれないが・・。」
エドガーはそこで言葉を一度切ると言った。
「恐らく・・ヒルダはルドルフ・・君の事を愛している。」
「!」
ルドルフはエドガーの言葉にハッとなった。
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「・・・。」
(そうだ・・・僕がヒルダ様と引き裂かれてしまったのは・・グレースのせいなんだ・・!)
ルドルフは拳を握り締めた。
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「・・そうですね・・・。」
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「『ロータス』なら・・・。」
エドガーはルドルフの肩を軽く叩くと言った。
ヒルダの・・事を・・よろしく頼む―と
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