上 下
237 / 566

第11章 6 ヒルダの帰郷 6

しおりを挟む
「母上・・・信じられません。ほんの僅かな間で・・こんなにお元気になられるなんて・・。」

エドガーはマーガレットが1人で起き上がれるようになった姿が信じられなかった。

「お母様・・・それほどまでにお身体を壊していたのですか?」

ヒルダの問いにエドガーは答えた。

「ああ・・・ヒルダに心配を掛けさせたくは無かったから・・秘密にしておいたんだ。すまなかった。」

エドガーが頭を下げてきたのでヒルダは慌てて言った。

「そんな・・お兄様。頭を上げて下さい。お兄様は私を心配して今まで黙っていらしたのですよね?」

「そうだ。しかし・・。」

するとマーガレットが言った。

「エドガー。貴方が私とヒルダの為に色々してくれたのは良く分かっているわ。だからそんな事・・考えないで頂戴。」

「母上・・・。」

エドガーは声を詰まらせた。

「ヒルダ・・よく聞いて頂戴・・。」

マーガレットはヒルダを見ると言った。

「もっと貴女にここにいて欲しいけど・・・でもいつまでもここにいるのは貴女の為に良くないわ。今、貴女はそうやって変装をしているけれども・・やっぱり勘の良い人には貴女がヒルダと言う事が・・分かってしまうと思うの。」

「・・・。」

ヒルダは俯き・・黙って話を聞いている。そしてエドガーはマーガレットと同じ事を思った。

(確かに・・・いくら眼鏡をかけて、カツラを被っていても・・この家にはヒルダを良く知る使用人たちが大勢いる。彼らを疑う訳じゃないが、もし目に触れてヒルダだと見抜かれてしまったら・・?父にヒルダの事を告げられてしまったら・・もう二度とヒルダをこの屋敷に招くことが出来なくなってしまうかもしれない・・!)

「ヒルダ・・・・。」

エドガーが声を掛けると、ヒルダは顔を上げた。

「分りました・・・お母様の言う通りだと思います。私・・もう行きます。ですが・・お母様・・。」

ヒルダは母の手を取ると言った。

「必ず元気になって下さい・・お母様が元気になられましたら『ロータス』に来てください。私・・待っていますから・・。」

ヒルダは再び目に涙を浮かべた。それを見るとマーガレットは言った。

「ええ・・そうね・・もう二度と貴女に会えないと思っていたけれども・・こうして会う事が出来たのだから・・約束するわ。必ず・・健康になって貴女に会いに行くわ・・。」

そして母と娘は強く抱きしめ合った―。



 マーガレットの部屋を出た後・・。
エドガーとヒルダは無言で廊下を歩いていた。本当ならエドガーはヒルダに声を掛けたい気持ちで一杯だった。しかし、ここはフィールズ家の屋敷の中。何所で使用人たちにヒルダとの会話を聞かれてしまうか分らない。

(やはり・・幾ら母とヒルダを再会させることが出来ても・・このままでは駄目だ。 何とか・・・グレースに罪を認めさせる為の証拠を見つけてヒルダの無実を証明しなくては・・。)

その時・・。

「あの・・・。」

背後を歩いていたヒルダがエドガーに声を掛けてきた。

「な、何だい?」

「今回の事・・本当に色々と有難うございました。それで・・・またこちらの様子をお手紙で教えて頂けますか・・?」

ヒルダは遠慮がちに尋ねる。

「ああ・・それ位ならお安い御用だ。何なら毎週手紙を書いても・・!」

その時、エドガーの身体が硬直した。

(そ、そんな・・・まさか・・!)

「あの・・どうかしましたか?」

ヒルダが首を傾げるとエドガーは慌ててヒルダを振り向き・・言った。

「父が・・どうやら屋敷に帰ってきたようだ。エントランスで声が聞こえた。」

「え・・?!」

ヒルダの顔色が青ざめた。

「俺が・・父をエントランスで止めておくから・・すぐに応接室へ戻るんだ。」

エドガーは小声で言うと急いでヒルダをその場に残しエントランスへと向かった―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

真実の愛とやらの結末を見せてほしい~婚約破棄された私は、愚か者たちの行く末を観察する~

キョウキョウ
恋愛
私は、イステリッジ家のエルミリア。ある日、貴族の集まる公の場で婚約を破棄された。 真実の愛とやらが存在すると言い出して、その相手は私ではないと告げる王太子。冗談なんかではなく、本気の目で。 他にも婚約を破棄する理由があると言い出して、王太子が愛している男爵令嬢をいじめたという罪を私に着せようとしてきた。そんなこと、していないのに。冤罪である。 聞くに堪えないような侮辱を受けた私は、それを理由に実家であるイステリッジ公爵家と一緒に王家を見限ることにしました。 その後、何の関係もなくなった王太子から私の元に沢山の手紙が送られてきました。しつこく、何度も。でも私は、愚かな王子と関わり合いになりたくありません。でも、興味はあります。真実の愛とやらは、どんなものなのか。 今後は遠く離れた別の国から、彼らの様子と行く末を眺めて楽しもうと思います。 そちらがどれだけ困ろうが、知ったことではありません。運命のお相手だという女性と存分に仲良くして、真実の愛の結末を、ぜひ私に見せてほしい。 ※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開は、ほぼ変わりません。加筆修正して、新たに連載します。 ※カクヨムにも掲載中の作品です。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

【完結】無能に何か用ですか?

凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」 とある日のパーティーにて…… セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。 隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。 だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。 ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ…… 主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──

【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。

112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。 目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。  死にたくない。あんな最期になりたくない。  そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

私を捨てるんですか? いいですよ、別に。元々あなたのことなんて、好きじゃありませんので【完結】

小平ニコ
恋愛
「ローラリア、すまないが、他に好きな人ができた。おまえとはここまでだ」 突然そんなことを言い出したブライアンに、私はごく自然な態度で「はあ、そうなんですか」とだけ答えた。……怒りも、悲しみも、ほんの少しの嫉妬心もない。だって元々、ブライアンのことなんて、好きでも何でもなかったから。 落ち着き払った私の態度が気に入らないのか、ブライアンは苛立ち、その日のうちに婚約破棄は成立する。しかし、ブライアンは分かっていなかった、自分のとった行動が、どんな結末を招くかを……

平民の方が好きと言われた私は、あなたを愛することをやめました

天宮有
恋愛
公爵令嬢の私ルーナは、婚約者ラドン王子に「お前より平民の方が好きだ」と言われてしまう。 平民を新しい婚約者にするため、ラドン王子は私から婚約破棄を言い渡して欲しいようだ。 家族もラドン王子の酷さから納得して、言うとおり私の方から婚約を破棄した。 愛することをやめた結果、ラドン王子は後悔することとなる。

処理中です...