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第11章 6 ヒルダの帰郷 6
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「母上・・・信じられません。ほんの僅かな間で・・こんなにお元気になられるなんて・・。」
エドガーはマーガレットが1人で起き上がれるようになった姿が信じられなかった。
「お母様・・・それほどまでにお身体を壊していたのですか?」
ヒルダの問いにエドガーは答えた。
「ああ・・・ヒルダに心配を掛けさせたくは無かったから・・秘密にしておいたんだ。すまなかった。」
エドガーが頭を下げてきたのでヒルダは慌てて言った。
「そんな・・お兄様。頭を上げて下さい。お兄様は私を心配して今まで黙っていらしたのですよね?」
「そうだ。しかし・・。」
するとマーガレットが言った。
「エドガー。貴方が私とヒルダの為に色々してくれたのは良く分かっているわ。だからそんな事・・考えないで頂戴。」
「母上・・・。」
エドガーは声を詰まらせた。
「ヒルダ・・よく聞いて頂戴・・。」
マーガレットはヒルダを見ると言った。
「もっと貴女にここにいて欲しいけど・・・でもいつまでもここにいるのは貴女の為に良くないわ。今、貴女はそうやって変装をしているけれども・・やっぱり勘の良い人には貴女がヒルダと言う事が・・分かってしまうと思うの。」
「・・・。」
ヒルダは俯き・・黙って話を聞いている。そしてエドガーはマーガレットと同じ事を思った。
(確かに・・・いくら眼鏡をかけて、カツラを被っていても・・この家にはヒルダを良く知る使用人たちが大勢いる。彼らを疑う訳じゃないが、もし目に触れてヒルダだと見抜かれてしまったら・・?父にヒルダの事を告げられてしまったら・・もう二度とヒルダをこの屋敷に招くことが出来なくなってしまうかもしれない・・!)
「ヒルダ・・・・。」
エドガーが声を掛けると、ヒルダは顔を上げた。
「分りました・・・お母様の言う通りだと思います。私・・もう行きます。ですが・・お母様・・。」
ヒルダは母の手を取ると言った。
「必ず元気になって下さい・・お母様が元気になられましたら『ロータス』に来てください。私・・待っていますから・・。」
ヒルダは再び目に涙を浮かべた。それを見るとマーガレットは言った。
「ええ・・そうね・・もう二度と貴女に会えないと思っていたけれども・・こうして会う事が出来たのだから・・約束するわ。必ず・・健康になって貴女に会いに行くわ・・。」
そして母と娘は強く抱きしめ合った―。
マーガレットの部屋を出た後・・。
エドガーとヒルダは無言で廊下を歩いていた。本当ならエドガーはヒルダに声を掛けたい気持ちで一杯だった。しかし、ここはフィールズ家の屋敷の中。何所で使用人たちにヒルダとの会話を聞かれてしまうか分らない。
(やはり・・幾ら母とヒルダを再会させることが出来ても・・このままでは駄目だ。 何とか・・・グレースに罪を認めさせる為の証拠を見つけてヒルダの無実を証明しなくては・・。)
その時・・。
「あの・・・。」
背後を歩いていたヒルダがエドガーに声を掛けてきた。
「な、何だい?」
「今回の事・・本当に色々と有難うございました。それで・・・またこちらの様子をお手紙で教えて頂けますか・・?」
ヒルダは遠慮がちに尋ねる。
「ああ・・それ位ならお安い御用だ。何なら毎週手紙を書いても・・!」
その時、エドガーの身体が硬直した。
(そ、そんな・・・まさか・・!)
「あの・・どうかしましたか?」
ヒルダが首を傾げるとエドガーは慌ててヒルダを振り向き・・言った。
「父が・・どうやら屋敷に帰ってきたようだ。エントランスで声が聞こえた。」
「え・・?!」
ヒルダの顔色が青ざめた。
「俺が・・父をエントランスで止めておくから・・すぐに応接室へ戻るんだ。」
エドガーは小声で言うと急いでヒルダをその場に残しエントランスへと向かった―。
エドガーはマーガレットが1人で起き上がれるようになった姿が信じられなかった。
「お母様・・・それほどまでにお身体を壊していたのですか?」
ヒルダの問いにエドガーは答えた。
「ああ・・・ヒルダに心配を掛けさせたくは無かったから・・秘密にしておいたんだ。すまなかった。」
エドガーが頭を下げてきたのでヒルダは慌てて言った。
「そんな・・お兄様。頭を上げて下さい。お兄様は私を心配して今まで黙っていらしたのですよね?」
「そうだ。しかし・・。」
するとマーガレットが言った。
「エドガー。貴方が私とヒルダの為に色々してくれたのは良く分かっているわ。だからそんな事・・考えないで頂戴。」
「母上・・・。」
エドガーは声を詰まらせた。
「ヒルダ・・よく聞いて頂戴・・。」
マーガレットはヒルダを見ると言った。
「もっと貴女にここにいて欲しいけど・・・でもいつまでもここにいるのは貴女の為に良くないわ。今、貴女はそうやって変装をしているけれども・・やっぱり勘の良い人には貴女がヒルダと言う事が・・分かってしまうと思うの。」
「・・・。」
ヒルダは俯き・・黙って話を聞いている。そしてエドガーはマーガレットと同じ事を思った。
(確かに・・・いくら眼鏡をかけて、カツラを被っていても・・この家にはヒルダを良く知る使用人たちが大勢いる。彼らを疑う訳じゃないが、もし目に触れてヒルダだと見抜かれてしまったら・・?父にヒルダの事を告げられてしまったら・・もう二度とヒルダをこの屋敷に招くことが出来なくなってしまうかもしれない・・!)
「ヒルダ・・・・。」
エドガーが声を掛けると、ヒルダは顔を上げた。
「分りました・・・お母様の言う通りだと思います。私・・もう行きます。ですが・・お母様・・。」
ヒルダは母の手を取ると言った。
「必ず元気になって下さい・・お母様が元気になられましたら『ロータス』に来てください。私・・待っていますから・・。」
ヒルダは再び目に涙を浮かべた。それを見るとマーガレットは言った。
「ええ・・そうね・・もう二度と貴女に会えないと思っていたけれども・・こうして会う事が出来たのだから・・約束するわ。必ず・・健康になって貴女に会いに行くわ・・。」
そして母と娘は強く抱きしめ合った―。
マーガレットの部屋を出た後・・。
エドガーとヒルダは無言で廊下を歩いていた。本当ならエドガーはヒルダに声を掛けたい気持ちで一杯だった。しかし、ここはフィールズ家の屋敷の中。何所で使用人たちにヒルダとの会話を聞かれてしまうか分らない。
(やはり・・幾ら母とヒルダを再会させることが出来ても・・このままでは駄目だ。 何とか・・・グレースに罪を認めさせる為の証拠を見つけてヒルダの無実を証明しなくては・・。)
その時・・。
「あの・・・。」
背後を歩いていたヒルダがエドガーに声を掛けてきた。
「な、何だい?」
「今回の事・・本当に色々と有難うございました。それで・・・またこちらの様子をお手紙で教えて頂けますか・・?」
ヒルダは遠慮がちに尋ねる。
「ああ・・それ位ならお安い御用だ。何なら毎週手紙を書いても・・!」
その時、エドガーの身体が硬直した。
(そ、そんな・・・まさか・・!)
「あの・・どうかしましたか?」
ヒルダが首を傾げるとエドガーは慌ててヒルダを振り向き・・言った。
「父が・・どうやら屋敷に帰ってきたようだ。エントランスで声が聞こえた。」
「え・・?!」
ヒルダの顔色が青ざめた。
「俺が・・父をエントランスで止めておくから・・すぐに応接室へ戻るんだ。」
エドガーは小声で言うと急いでヒルダをその場に残しエントランスへと向かった―。
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