嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第10章 12 アンナとヒルダ

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「まあ・・・素敵な部屋・・・海がこんなに近くに見えるなんて・・・・。」

アンナは寒さにもめげず、ホテルの部屋の港が一望できるバルコニーへ出ると目を輝かせた。そしてアンナのお付きの侍女も寒さに震えながらも、生まれて初めて見る海に目を奪われている。

一方、ヒルダは足の怪我に触るのでバルコニーへ出るのは遠慮させて貰い、暖炉の傍で暖まりながら2人の様子を見ていた。

(お兄様の婚約者のアンナ様。黒髪に黒い瞳でとても神秘的な方だわ。それにとても可愛らしい方だし、何より私の為にこんなに親身になってくれているなんて・・。)

ヒルダは今、アンナに心から感謝していた。母の命が危険にさらされているのはヒルダにとっては胸が潰れる程辛く、苦しい事だった。けれど今は少しだけ希望が持てる。もう二度と生まれ故郷の地を踏むことを許されないと思っていたのに、アンナの機転でもう一度あの懐かしい故郷、『カウベリー』に行く事が出来るからだ。
ヒルダは祈った。

(どうかお母様の御病気が・・良くなりますように・・・。)

と―。




「ヒルダ様、ヒルダ様の容姿はあまりに目立ちすぎます。」

アンナは自分の方こそ目立っているのに、ヒルダに言った。今、ヒルダはアンナとアンナの侍女コゼットと一緒に『ロータス』の町へ買い物に出ていた。
大勢人々が行き交う石畳の路地を歩いていると、誰もがヒルダ達を物珍しそうに見つめている。

「その天使の様に輝く金の髪も目立ちますし、青い瞳も目立ちます。なので私は色々考えたんです。まずはカツラを扱っている美容院へ行きましょう。ヒルダ様、美容院の場所はご存知ですか?」

アンナは自分の容姿が注目を浴びていることに気付きもせずに言う。

「美容院ですか・・私はあまり行かないのですけど、町の中心部へ行けば色々なお店があるのでそこに美容院があるかもしれませんね。」

ヒルダは小首を傾げながら言う。

「そうですか、それでは早速そこへ行ってみましょう。」

アンナは元気よく先頭を切って歩き出す。そしてその後ろをヒルダとコゼットが付いて歩く。

(フフ・・アンナさんは本当に元気な方だわ・・・。一緒にいると元気を分けてもらえるわ・・。)

ヒルダは思った。エドガーは良き伴侶となる女性を見つける事が出来たと―。



「ヒルダ様、このかつらはどうですか?」

アンナはブリュネット色の肩先までのストレートヘアのカツラをヒルダに見せた。

「ええと・・そうですね。ちょっと被ってみる事にします。」

ヒルダは今髪の毛をゴムで後ろに1つにまとめている。美容院の店員に手伝って貰って早速かぶって見る事にした。

「どうでしょうか?」

ヒルダはアンナとコゼットの方を向き直ると尋ねた。

「まあ・・ヒルダ様、すごく似合ってるわ!」

アンナは手を叩く。

「ええ・・・本当によくお似合いです。これではヒルダ様とは分かりませんね。」

コゼットも感心したように言うが、アンナはまだ納得いかない。

「いいえ、まだ駄目よ。後はやはりここに眼鏡を掛けないと。ヒルダ様は視力は良いのですか?」

「ええ・・そうですね。両目とも1.2ずつあります。」

「それならただのガラスが入った眼鏡を掛ければいいですね。ではこのカツラを買いましょう。」

アンナがカツラを持ってレジへ行こうとするのでヒルダは慌てた。

「あの、アンナ様!カツラなら私が買いますので・・。」

するとアンナは言う。

「大丈夫です、ちゃんとエドガー様からお金は預かってきていますので。勿論旅費も預かっておりますよ。」

しかし、それは嘘だった。アンナはヒルダの生活事情もエドガーから聞いて知っていた。今は年間50枚の金貨を父親から援助して貰っているが、それも高校卒業と同時に援助を打ち切られることも、そしてヒルダがアルバイトをして節約生活をしているのも・・。

(私はエドガー様の妻になるのだから、ヒルダ様を支えてあげなくちゃ・・・。)

まだ14歳の少女でありながら、ヒルダの事をアンナは気遣っていたのだった―・



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