217 / 566
第9章 15 ルドルフの怒り
しおりを挟む
グレースの母が誰の事を話しているのか、ルドルフもエドガーもすぐにヒルダの事を言っているという事に気がついた。エドガーは黙っていたが、ルドルフはどうにも我慢する事が出来ずに口を開いた。
「あの・・あの娘とは・・一体誰の事を言っているんですか?」
つい、ルドルフの声に怒気が含まれる。しかし、怒りに満ちているグレースの母にはルドルフの怒りに気付かない。気付かないまま言葉を続ける。
「何を言っているんだい、ルドルフ。あの娘と言ったら・・・決まっているだろう?この地を治める領主の娘でありながら、大事な文化遺産にする予定だったあの教会を焼き払ってしまった・・・あの娘さ!名前を口に出すのもおこがましい・・!」
ダンッ!!
突然ルドルフが何もない壁を右手の拳でいきなり強く殴りつけた。壁からはパラパラと小さな破片と埃が舞い散る。
「ル・ルドルフ・・?」
そこでグレースの母は初めてルドルフの怒りに気が付いた。ルドルフは唇を強く噛みしめ、青ざめた顔に激しい怒りを込めた目でグレースの母を睨み付けていたのだ。
今まで大人しく、心優しい姿しか見たことが無かったグレースの母はルドルフの凄まじい程の怒りを感じて震えた。
エドガーは黙ってルドルフの様子を伺っていたが、ここで初めて口を開いた。
「・・・落ち着け、ルドルフ・・・。」
「だ、だけどっ!エドガー様っ!」
ルドルフはエドガーを見て声を荒げた。
「彼女は何も知らないんだ。だから今ここで責めたってどうしようもないだろう?」
静かに言うエドガーにルドルフは口を閉ざした。
(そうだ・・・グレースのお母さんは何も知らないんだ・・・だから『カウベリー』に住む人達と同じような反応をするのは当然なんだ・・。だけど・・・!)
相手がグレースの母と言う事が何よりもルドルフはやるせなかった。グレースが平気で自分の為なら人を傷つける事も、身の保身の為なら相手を踏みつけるのもいとわないような人間に育て上げたのは・・今目の前にいるグレースの母であり・・父なのだから。
「あ・・・な、何なんだい・・・一体・・・。」
グレースの母はすっかり怯え・・ガタガタと震えている。そんな彼女にエドガーは声を掛けた。
「俺達はグレースに用があって尋ねてきたんだ。グレースには会えるか?」
「え、ええ・・・。グ、グレースは・・すっかりあの事件以来・・ひきこもってしまって・・・私達もまともに話も出来ないんですよ・・。時折酷くうなされているみたいだし・・。しかも、女の子なのに・・あ、あんな酷い火傷を負ってしまって・・・いい縁談があったのに・・断られてしまったんですよ!あの子が頼みの綱だったのに・・こ、この家を建て直すための・・・それもこれもやはりすべてはあの娘のせいで・・・!」
再び、怒りが込み上げてきたのか・・グレースの母は醜く顔を歪める。その姿を見てエドガーは思った。
(やはり・・グレースの母も・・・正気を失っているようだな・・まあ、無理も無いか・・恐らくは相当裕福だったはずなのに・・今は何も無いこんな・・がらんとした空間に住んでいるのだから・・いや、それより良くこの屋敷を手放さずにすんでいるものだ・・。)
ルドルフはどうにも怒りが治まらなかったが、今の気持ちを鎮めないと恐らく母親はグレースに会わせてくれないだろうと判断し・・深呼吸を数回繰り返して気持ちを静めると言った。
「それではグレースに会わせて下さい。」
「あ、ああ・・・あの子が会うと返事をするかどうかは分らないけど・・グレースの部屋はこの階段を昇った先の一番右奥の部屋だよ。」
グレースの母は自分の後ろに見える階段を指さした。
「そうか・・分った。」
エドガーは頷くとルドルフを見た。
「ルドルフ・・それじゃグレースの部屋を訪ねてみようか?」
「はい、行きましょう。」
ルドルフはエドガーの言葉に頷き、2人はギシギシとなる階段を並んでゆっくり歩きだした―。
「あの・・あの娘とは・・一体誰の事を言っているんですか?」
つい、ルドルフの声に怒気が含まれる。しかし、怒りに満ちているグレースの母にはルドルフの怒りに気付かない。気付かないまま言葉を続ける。
「何を言っているんだい、ルドルフ。あの娘と言ったら・・・決まっているだろう?この地を治める領主の娘でありながら、大事な文化遺産にする予定だったあの教会を焼き払ってしまった・・・あの娘さ!名前を口に出すのもおこがましい・・!」
ダンッ!!
突然ルドルフが何もない壁を右手の拳でいきなり強く殴りつけた。壁からはパラパラと小さな破片と埃が舞い散る。
「ル・ルドルフ・・?」
そこでグレースの母は初めてルドルフの怒りに気が付いた。ルドルフは唇を強く噛みしめ、青ざめた顔に激しい怒りを込めた目でグレースの母を睨み付けていたのだ。
今まで大人しく、心優しい姿しか見たことが無かったグレースの母はルドルフの凄まじい程の怒りを感じて震えた。
エドガーは黙ってルドルフの様子を伺っていたが、ここで初めて口を開いた。
「・・・落ち着け、ルドルフ・・・。」
「だ、だけどっ!エドガー様っ!」
ルドルフはエドガーを見て声を荒げた。
「彼女は何も知らないんだ。だから今ここで責めたってどうしようもないだろう?」
静かに言うエドガーにルドルフは口を閉ざした。
(そうだ・・・グレースのお母さんは何も知らないんだ・・・だから『カウベリー』に住む人達と同じような反応をするのは当然なんだ・・。だけど・・・!)
相手がグレースの母と言う事が何よりもルドルフはやるせなかった。グレースが平気で自分の為なら人を傷つける事も、身の保身の為なら相手を踏みつけるのもいとわないような人間に育て上げたのは・・今目の前にいるグレースの母であり・・父なのだから。
「あ・・・な、何なんだい・・・一体・・・。」
グレースの母はすっかり怯え・・ガタガタと震えている。そんな彼女にエドガーは声を掛けた。
「俺達はグレースに用があって尋ねてきたんだ。グレースには会えるか?」
「え、ええ・・・。グ、グレースは・・すっかりあの事件以来・・ひきこもってしまって・・・私達もまともに話も出来ないんですよ・・。時折酷くうなされているみたいだし・・。しかも、女の子なのに・・あ、あんな酷い火傷を負ってしまって・・・いい縁談があったのに・・断られてしまったんですよ!あの子が頼みの綱だったのに・・こ、この家を建て直すための・・・それもこれもやはりすべてはあの娘のせいで・・・!」
再び、怒りが込み上げてきたのか・・グレースの母は醜く顔を歪める。その姿を見てエドガーは思った。
(やはり・・グレースの母も・・・正気を失っているようだな・・まあ、無理も無いか・・恐らくは相当裕福だったはずなのに・・今は何も無いこんな・・がらんとした空間に住んでいるのだから・・いや、それより良くこの屋敷を手放さずにすんでいるものだ・・。)
ルドルフはどうにも怒りが治まらなかったが、今の気持ちを鎮めないと恐らく母親はグレースに会わせてくれないだろうと判断し・・深呼吸を数回繰り返して気持ちを静めると言った。
「それではグレースに会わせて下さい。」
「あ、ああ・・・あの子が会うと返事をするかどうかは分らないけど・・グレースの部屋はこの階段を昇った先の一番右奥の部屋だよ。」
グレースの母は自分の後ろに見える階段を指さした。
「そうか・・分った。」
エドガーは頷くとルドルフを見た。
「ルドルフ・・それじゃグレースの部屋を訪ねてみようか?」
「はい、行きましょう。」
ルドルフはエドガーの言葉に頷き、2人はギシギシとなる階段を並んでゆっくり歩きだした―。
0
お気に入りに追加
728
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと
淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品)
※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。
原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。
よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。
王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。
どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。
家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。
1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。
2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる)
3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。
5.お父様と弟の問題を解決する。
それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc.
リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。
ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう?
たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。
これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。
【注意点】
恋愛要素は弱め。
設定はかなりゆるめに作っています。
1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。
2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
婚約破棄されたい公爵令息は、子供のふりをしているけれど心の声はとても優しい人でした
三月叶姫
恋愛
北の辺境伯の娘、レイナは婚約者であるヴィンセント公爵令息と、王宮で開かれる建国記念パーティーへ出席することになっている。
その為に王都までやってきたレイナの前で、ヴィンセントはさっそく派手に転げてみせた。その姿はよく転ぶ幼い子供そのもので。
彼は二年前、不慮の事故により子供返りしてしまったのだ――というのは本人の自作自演。
なぜかヴィンセントの心の声が聞こえるレイナは、彼が子供を演じている事を知ってしまう。
そして彼が重度の女嫌いで、レイナの方から婚約破棄させようと目論んでいる事も。
必死に情けない姿を見せつけてくる彼の心の声は意外と優しく、そんな彼にレイナは少しずつ惹かれていった。
だが、王宮のパーティーは案の定、予想外の展開の連続で……?
※設定緩めです
※他投稿サイトにも掲載しております
大好きなあなたを忘れる方法
山田ランチ
恋愛
あらすじ
王子と婚約関係にある侯爵令嬢のメリベルは、訳あってずっと秘密の婚約者のままにされていた。学園へ入学してすぐ、メリベルの魔廻が(魔術を使う為の魔素を貯めておく器官)が限界を向かえようとしている事に気が付いた大魔術師は、魔廻を小さくする事を提案する。その方法は、魔素が好むという悲しい記憶を失くしていくものだった。悲しい記憶を引っ張り出しては消していくという日々を過ごすうち、徐々に王子との記憶を失くしていくメリベル。そんな中、魔廻を奪う謎の者達に大魔術師とメリベルが襲われてしまう。
魔廻を奪おうとする者達は何者なのか。王子との婚約が隠されている訳と、重大な秘密を抱える大魔術師の正体が、メリベルの記憶に導かれ、やがて世界の始まりへと繋がっていく。
登場人物
・メリベル・アークトュラス 17歳、アークトゥラス侯爵の一人娘。ジャスパーの婚約者。
・ジャスパー・オリオン 17歳、第一王子。メリベルの婚約者。
・イーライ 学園の園芸員。
クレイシー・クレリック 17歳、クレリック侯爵の一人娘。
・リーヴァイ・ブルーマー 18歳、ブルーマー子爵家の嫡男でジャスパーの側近。
・アイザック・スチュアート 17歳、スチュアート侯爵の嫡男でジャスパーの側近。
・ノア・ワード 18歳、ワード騎士団長の息子でジャスパーの従騎士。
・シア・ガイザー 17歳、ガイザー男爵の娘でメリベルの友人。
・マイロ 17歳、メリベルの友人。
魔素→世界に漂っている物質。触れれば精神を侵され、生き物は主に凶暴化し魔獣となる。
魔廻→体内にある魔廻(まかい)と呼ばれる器官、魔素を取り込み貯める事が出来る。魔術師はこの器官がある事が必須。
ソル神とルナ神→太陽と月の男女神が魔素で満ちた混沌の大地に現れ、世界を二つに分けて浄化した。ソル神は昼間を、ルナ神は夜を受け持った。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
完結)余りもの同士、仲よくしましょう
オリハルコン陸
恋愛
婚約者に振られた。
「運命の人」に出会ってしまったのだと。
正式な書状により婚約は解消された…。
婚約者に振られた女が、同じく婚約者に振られた男と婚約して幸せになるお話。
◇ ◇ ◇
(ほとんど本編に出てこない)登場人物名
ミシュリア(ミシュ): 主人公
ジェイソン・オーキッド(ジェイ): 主人公の新しい婚約者
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~
黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※
すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる