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第9章 7 ルドルフの帰郷 7
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朝食を終えたマルコとルドルフは防寒着に身を包み、馬の引くソリに乗ってフィールズ家を目指していた。
馬を操りながらマルコが尋ねてきた。
「どうだ?ルドルフ。ロータスでの暮らしぶりは?」
「うん。悪くないよ。とても都会の町だし・・賑やかで・・・こんなに閉鎖的な場所じゃない・・。」
ルドルフの最後のセリフは消え入りそうに小さかった。
「・・・そうか・・。」
マルコもルドルフが言わんとしていることが何か気付いたのか、その意味を深く問いただすことは無かった―。
「やあ、ルドルフ。よく来てくれたな・・・。待っていたよ。」
大きな肘掛椅子に座っていたハリスはルドルフが部屋に入ってくるとすぐに声を掛けてきた。フィールズ家に到着したルドルフは早速ハリスの元へ呼ばれ、執務室へ招かれていたのだ。
「・・・どうも、ご無沙汰しておりました。」
ルドルフは緊張する面持ちでハリスに挨拶をする。するとその様子に気付いたのか、ハリスはルドルフに言った。
「まあ、それほど緊張する事はない・・とにかく掛けてくれ。」
ハリスはルドルフの目の前にある応接セットのレザー製の高級感漂うソファを指示した。目の前のテーブルは大理石でできている。
「・・・失礼致します。」
ルドルフはソファに腰かけると、すぐに向かい側の席にハリスは座り、ルドルフをじっと見つめた。
(旦那様・・・随分お痩せになって・・・。きっと奥様の事で・・。だけど・・・!)
ルドルフは思った。一番気の毒なのは・・ヒルダだと。まだたった15歳でヒルダは父親から絶縁され、親子の縁を切られて爵位を剥奪されてこの『カウベリー』を追い出されたのだ。ルドルフは知っている。ヒルダがどんなに自分の生まれ故郷を愛しているか・・・。
(ヒルダ様は・・・この封鎖的な人々のせいで・・・二度とこの地を踏み事を許されないんだ・・!)
ルドルフはこみ上げてくる衝動を必死で抑えてハリスの言葉を待った。
「実はな・・ルドルフ。君に色々聞きたいことがあったんだ。」
ハリスは何故か辺りをうかがうように小声でルドルフに語り掛けてきた。
「え・・?聞きたいこと・・ですか?」
ルドルフに緊張が走る。
(何だろう・・・?旦那様が聞きたいことって一体・・?)
「君は・・イワンという少年を・・・知っているな?」
ハリスは身を乗り出すと尋ねてきた。ルドルフは思いがけない名前がハリスの口から出てきたので驚いた。
「え・・?イワンですか?は、はい。勿論です。彼は・・・僕が中学生の時の友人ですから・・・。実は・・・昨日偶然駅に降り立った時に再会したんです。彼は駅の清掃員の仕事をしていました。もう少し彼と話がしたかったのですが・・何故か途中で逃げてしまって・・。」
「そうか・・・。実は昨日・・・ポストに手紙が入っていたんだ。」
「手紙・・・ですか?」
「ああ、これなんだが・・・。」
ハリスは背広のポケットから封筒を取り出すとルドルフの前に差し出してきた。
「あ、あの・・・僕が手紙を読んでも構わないのですか・・?」
「ああ、気にすることは無い。いや・・・むしろルドルフ。君に手紙を読んでもらいたいのだ。私では何の事だかさっぱり分からなくて・・・。」
ハリスはソファの背もたれに寄り掛かると腕組みをして深いため息をついた。
「では・・失礼します・・。」
ルドルフは封筒から手紙を取り出すと、目を通した。
『ごめんなさい、領主様。僕はとんでもない事をしてしまいました。僕は僕の犯した罪を忘れようとしていました。でもルドルフに会って思い出してしまいました。それがどんな罪かは言えませんが、どうかお許しください。もう2年前からずっと後悔しています。死んでお詫びできるならそうしたい位です。でも僕は怖くて死ぬ勇気はありませんでした。どうか罪深い僕を許して下さい。そして僕が手紙を書いたこと、友人たちには内緒にしてください。どうかお願いします。 イワン』
手紙はつたない文字でこう書かれていた―。
馬を操りながらマルコが尋ねてきた。
「どうだ?ルドルフ。ロータスでの暮らしぶりは?」
「うん。悪くないよ。とても都会の町だし・・賑やかで・・・こんなに閉鎖的な場所じゃない・・。」
ルドルフの最後のセリフは消え入りそうに小さかった。
「・・・そうか・・。」
マルコもルドルフが言わんとしていることが何か気付いたのか、その意味を深く問いただすことは無かった―。
「やあ、ルドルフ。よく来てくれたな・・・。待っていたよ。」
大きな肘掛椅子に座っていたハリスはルドルフが部屋に入ってくるとすぐに声を掛けてきた。フィールズ家に到着したルドルフは早速ハリスの元へ呼ばれ、執務室へ招かれていたのだ。
「・・・どうも、ご無沙汰しておりました。」
ルドルフは緊張する面持ちでハリスに挨拶をする。するとその様子に気付いたのか、ハリスはルドルフに言った。
「まあ、それほど緊張する事はない・・とにかく掛けてくれ。」
ハリスはルドルフの目の前にある応接セットのレザー製の高級感漂うソファを指示した。目の前のテーブルは大理石でできている。
「・・・失礼致します。」
ルドルフはソファに腰かけると、すぐに向かい側の席にハリスは座り、ルドルフをじっと見つめた。
(旦那様・・・随分お痩せになって・・・。きっと奥様の事で・・。だけど・・・!)
ルドルフは思った。一番気の毒なのは・・ヒルダだと。まだたった15歳でヒルダは父親から絶縁され、親子の縁を切られて爵位を剥奪されてこの『カウベリー』を追い出されたのだ。ルドルフは知っている。ヒルダがどんなに自分の生まれ故郷を愛しているか・・・。
(ヒルダ様は・・・この封鎖的な人々のせいで・・・二度とこの地を踏み事を許されないんだ・・!)
ルドルフはこみ上げてくる衝動を必死で抑えてハリスの言葉を待った。
「実はな・・ルドルフ。君に色々聞きたいことがあったんだ。」
ハリスは何故か辺りをうかがうように小声でルドルフに語り掛けてきた。
「え・・?聞きたいこと・・ですか?」
ルドルフに緊張が走る。
(何だろう・・・?旦那様が聞きたいことって一体・・?)
「君は・・イワンという少年を・・・知っているな?」
ハリスは身を乗り出すと尋ねてきた。ルドルフは思いがけない名前がハリスの口から出てきたので驚いた。
「え・・?イワンですか?は、はい。勿論です。彼は・・・僕が中学生の時の友人ですから・・・。実は・・・昨日偶然駅に降り立った時に再会したんです。彼は駅の清掃員の仕事をしていました。もう少し彼と話がしたかったのですが・・何故か途中で逃げてしまって・・。」
「そうか・・・。実は昨日・・・ポストに手紙が入っていたんだ。」
「手紙・・・ですか?」
「ああ、これなんだが・・・。」
ハリスは背広のポケットから封筒を取り出すとルドルフの前に差し出してきた。
「あ、あの・・・僕が手紙を読んでも構わないのですか・・?」
「ああ、気にすることは無い。いや・・・むしろルドルフ。君に手紙を読んでもらいたいのだ。私では何の事だかさっぱり分からなくて・・・。」
ハリスはソファの背もたれに寄り掛かると腕組みをして深いため息をついた。
「では・・失礼します・・。」
ルドルフは封筒から手紙を取り出すと、目を通した。
『ごめんなさい、領主様。僕はとんでもない事をしてしまいました。僕は僕の犯した罪を忘れようとしていました。でもルドルフに会って思い出してしまいました。それがどんな罪かは言えませんが、どうかお許しください。もう2年前からずっと後悔しています。死んでお詫びできるならそうしたい位です。でも僕は怖くて死ぬ勇気はありませんでした。どうか罪深い僕を許して下さい。そして僕が手紙を書いたこと、友人たちには内緒にしてください。どうかお願いします。 イワン』
手紙はつたない文字でこう書かれていた―。
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