200 / 566
第8章 9 冬期休暇の前日
しおりを挟む
明日からいよいよ冬期休暇に入る。今学期最後のホームルームが終了し、担任教師のブルーノが教室を出ると、たちまち歓声に包まれた。
「やったー!やっと実家に帰れる!」
寮生活をしている男子学生が声を上げた。
「本当ね~。やっと家族に会えるわ・・。」
同じく寮生の女生徒も言う。
「早く飼い犬に会いたな~。」
「私は弟と妹に会いたいわ。」
「俺は婚約者が待ってるんだよ・・・。2人で一緒にクリスマスを過ごすんだ。」
等々・・・誰もが早くも冬期休暇に思いをはせていた。
「ねえ、ヒルダは冬期休暇はどうするの?」
帰り支度をしていたヒルダにマドレーヌが尋ねてきた。
「え?私?」
「ええ、実家には帰るの?」
何もヒルダの事情を知らないマドレーヌは無邪気に尋ねて来る。
「え、ええ・・・。私は・・。実家には帰らないの・・。雪深い地域にあるから・・この足だと不便で・・・。」
ヒルダは咄嗟に嘘をついてしまった。
(マドレーヌに詳しい事情を話すわけにはいかないわ・・きっと話せば気を遣わせてしまうかもしれないから・・。)
「あら、そうなのね?それじゃ冬休みの間はずっとお姉さんとアパートメントで過ごすのね?」
「ええ、そうね。アルバイトはするけど。」
「アルバイトって・・もしかして診療所の?」
「そうなの。学校がお休みの日はアルバイトとして雇ってくれてるのよ。」
そこまで話している時、スクールカバンを背負ったルドルフがヒルダとカミラの脇を通り過ぎて行く。
(ルドルフ・・・。)
相変わらず、ルドルフのヒルダに対する態度はそっけないものだった。しかし、ヒルダはそれは仕方の無い事だと思っていた。一方的に婚約を破棄し、追いすがるルドルフを拒絶したのは、他でもないヒルダだったのだから。挙句の果てに『カウベリー』を黙って去って行ったのも・・・。
しかし、今日だけは違っていた。そのまま通り過ぎていくはずのルドルフがピタリと足を止めたのだ。そしてヒルダの方を見て言う。
「また・・来年。」
「え?ええ。ま、また・・来年。」
ヒルダは慌てて返事をすると、ルドルフはそのまま無言で立ち去って行った。
(ルドルフが・・・初めて自分から私に声を掛けてくれた・・。)
ヒルダはルドルフが出て行った教室のドアを見つめていると、マドレーヌが声を掛けてきた。
「ヒルダ・・・いいの?ルドルフを追わなくて。」
「え?ええ・・いいのよ。それじゃ・・・帰りましょうか?」
「そうね、帰りましょう。夕方から初雪が降るかもしれないってラジオのニュースでいってたし・・・。」
マドレーヌの言葉にヒルダは眉を寄せた。
「まあ、雪が?知らなかったわ。だったら急いで帰らないと・・。」
そして2人の少女は教室を一緒に出た―。
一方、ルドルフは寮に向かって校庭を足早に歩いていた。学生たちの寮は同じ敷地内にある。正門から見て左側が男子寮、右側が女子寮となっているのだ。寮の生活は快適で、冬はボイラーがあるので、室内は暖かく過ごしやすくなっている。エドガーの話ではヒルダ達のアパートメントはボイラー室が無いので冬は薪ストーブで室内を温めているそうだ。
(ヒルダ様・・・やはり・・『ロータス』へ残るのですね・・・。足の悪いヒルダ様こそ、身体を冷やさないように温かく過ごせる寮生活の方がいいのに・・僕だけ快適な暮らしを・・。しかも『カウベリー』には里帰りしたくても帰れない。そして冬休みのアルバイトだなんて・・。)
伯爵令嬢として、大切に育てられ・・何不自由なく暮らして来たヒルダ。そんなヒルダの今の境遇を考えると、ルドルフは哀れでならなかった。
(僕が・・もっと大人だったら・・ヒルダ様の力になれる程に大人だったらどんなにか良かったのに・・。)
ルドルフは明日、『カウベリー』に里帰りする事になっている。何かヒルダにお土産を買って帰ろうかとルドルフは密かに考えるのだった―。
「やったー!やっと実家に帰れる!」
寮生活をしている男子学生が声を上げた。
「本当ね~。やっと家族に会えるわ・・。」
同じく寮生の女生徒も言う。
「早く飼い犬に会いたな~。」
「私は弟と妹に会いたいわ。」
「俺は婚約者が待ってるんだよ・・・。2人で一緒にクリスマスを過ごすんだ。」
等々・・・誰もが早くも冬期休暇に思いをはせていた。
「ねえ、ヒルダは冬期休暇はどうするの?」
帰り支度をしていたヒルダにマドレーヌが尋ねてきた。
「え?私?」
「ええ、実家には帰るの?」
何もヒルダの事情を知らないマドレーヌは無邪気に尋ねて来る。
「え、ええ・・・。私は・・。実家には帰らないの・・。雪深い地域にあるから・・この足だと不便で・・・。」
ヒルダは咄嗟に嘘をついてしまった。
(マドレーヌに詳しい事情を話すわけにはいかないわ・・きっと話せば気を遣わせてしまうかもしれないから・・。)
「あら、そうなのね?それじゃ冬休みの間はずっとお姉さんとアパートメントで過ごすのね?」
「ええ、そうね。アルバイトはするけど。」
「アルバイトって・・もしかして診療所の?」
「そうなの。学校がお休みの日はアルバイトとして雇ってくれてるのよ。」
そこまで話している時、スクールカバンを背負ったルドルフがヒルダとカミラの脇を通り過ぎて行く。
(ルドルフ・・・。)
相変わらず、ルドルフのヒルダに対する態度はそっけないものだった。しかし、ヒルダはそれは仕方の無い事だと思っていた。一方的に婚約を破棄し、追いすがるルドルフを拒絶したのは、他でもないヒルダだったのだから。挙句の果てに『カウベリー』を黙って去って行ったのも・・・。
しかし、今日だけは違っていた。そのまま通り過ぎていくはずのルドルフがピタリと足を止めたのだ。そしてヒルダの方を見て言う。
「また・・来年。」
「え?ええ。ま、また・・来年。」
ヒルダは慌てて返事をすると、ルドルフはそのまま無言で立ち去って行った。
(ルドルフが・・・初めて自分から私に声を掛けてくれた・・。)
ヒルダはルドルフが出て行った教室のドアを見つめていると、マドレーヌが声を掛けてきた。
「ヒルダ・・・いいの?ルドルフを追わなくて。」
「え?ええ・・いいのよ。それじゃ・・・帰りましょうか?」
「そうね、帰りましょう。夕方から初雪が降るかもしれないってラジオのニュースでいってたし・・・。」
マドレーヌの言葉にヒルダは眉を寄せた。
「まあ、雪が?知らなかったわ。だったら急いで帰らないと・・。」
そして2人の少女は教室を一緒に出た―。
一方、ルドルフは寮に向かって校庭を足早に歩いていた。学生たちの寮は同じ敷地内にある。正門から見て左側が男子寮、右側が女子寮となっているのだ。寮の生活は快適で、冬はボイラーがあるので、室内は暖かく過ごしやすくなっている。エドガーの話ではヒルダ達のアパートメントはボイラー室が無いので冬は薪ストーブで室内を温めているそうだ。
(ヒルダ様・・・やはり・・『ロータス』へ残るのですね・・・。足の悪いヒルダ様こそ、身体を冷やさないように温かく過ごせる寮生活の方がいいのに・・僕だけ快適な暮らしを・・。しかも『カウベリー』には里帰りしたくても帰れない。そして冬休みのアルバイトだなんて・・。)
伯爵令嬢として、大切に育てられ・・何不自由なく暮らして来たヒルダ。そんなヒルダの今の境遇を考えると、ルドルフは哀れでならなかった。
(僕が・・もっと大人だったら・・ヒルダ様の力になれる程に大人だったらどんなにか良かったのに・・。)
ルドルフは明日、『カウベリー』に里帰りする事になっている。何かヒルダにお土産を買って帰ろうかとルドルフは密かに考えるのだった―。
0
お気に入りに追加
725
あなたにおすすめの小説
真実の愛とやらの結末を見せてほしい~婚約破棄された私は、愚か者たちの行く末を観察する~
キョウキョウ
恋愛
私は、イステリッジ家のエルミリア。ある日、貴族の集まる公の場で婚約を破棄された。
真実の愛とやらが存在すると言い出して、その相手は私ではないと告げる王太子。冗談なんかではなく、本気の目で。
他にも婚約を破棄する理由があると言い出して、王太子が愛している男爵令嬢をいじめたという罪を私に着せようとしてきた。そんなこと、していないのに。冤罪である。
聞くに堪えないような侮辱を受けた私は、それを理由に実家であるイステリッジ公爵家と一緒に王家を見限ることにしました。
その後、何の関係もなくなった王太子から私の元に沢山の手紙が送られてきました。しつこく、何度も。でも私は、愚かな王子と関わり合いになりたくありません。でも、興味はあります。真実の愛とやらは、どんなものなのか。
今後は遠く離れた別の国から、彼らの様子と行く末を眺めて楽しもうと思います。
そちらがどれだけ困ろうが、知ったことではありません。運命のお相手だという女性と存分に仲良くして、真実の愛の結末を、ぜひ私に見せてほしい。
※本作品は、少し前に連載していた試作の完成版です。大まかな展開は、ほぼ変わりません。加筆修正して、新たに連載します。
※カクヨムにも掲載中の作品です。
【完結】無能に何か用ですか?
凛 伊緒
恋愛
「お前との婚約を破棄するッ!我が国の未来に、無能な王妃は不要だ!」
とある日のパーティーにて……
セイラン王国王太子ヴィアルス・ディア・セイランは、婚約者のレイシア・ユシェナート侯爵令嬢に向かってそう言い放った。
隣にはレイシアの妹ミフェラが、哀れみの目を向けている。
だがレイシアはヴィアルスには見えない角度にて笑みを浮かべていた。
ヴィアルスとミフェラの行動は、全てレイシアの思惑通りの行動に過ぎなかったのだ……
主人公レイシアが、自身を貶めてきた人々にざまぁする物語──
【完】前世で種を疑われて処刑されたので、今世では全力で回避します。
112
恋愛
エリザベスは皇太子殿下の子を身籠った。産まれてくる我が子を待ち望んだ。だがある時、殿下に他の男と密通したと疑われ、弁解も虚しく即日処刑された。二十歳の春の事だった。
目覚めると、時を遡っていた。時を遡った以上、自分はやり直しの機会を与えられたのだと思った。皇太子殿下の妃に選ばれ、結ばれ、子を宿したのが運の尽きだった。
死にたくない。あんな最期になりたくない。
そんな未来に決してならないように、生きようと心に決めた。
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく
たまこ
恋愛
10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。
多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。
もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる