嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第8章 9 冬期休暇の前日

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 明日からいよいよ冬期休暇に入る。今学期最後のホームルームが終了し、担任教師のブルーノが教室を出ると、たちまち歓声に包まれた。

「やったー!やっと実家に帰れる!」

寮生活をしている男子学生が声を上げた。

「本当ね~。やっと家族に会えるわ・・。」

同じく寮生の女生徒も言う。

「早く飼い犬に会いたな~。」

「私は弟と妹に会いたいわ。」

「俺は婚約者が待ってるんだよ・・・。2人で一緒にクリスマスを過ごすんだ。」

等々・・・誰もが早くも冬期休暇に思いをはせていた。

「ねえ、ヒルダは冬期休暇はどうするの?」

帰り支度をしていたヒルダにマドレーヌが尋ねてきた。

「え?私?」

「ええ、実家には帰るの?」

何もヒルダの事情を知らないマドレーヌは無邪気に尋ねて来る。

「え、ええ・・・。私は・・。実家には帰らないの・・。雪深い地域にあるから・・この足だと不便で・・・。」

ヒルダは咄嗟に嘘をついてしまった。

(マドレーヌに詳しい事情を話すわけにはいかないわ・・きっと話せば気を遣わせてしまうかもしれないから・・。)

「あら、そうなのね?それじゃ冬休みの間はずっとお姉さんとアパートメントで過ごすのね?」

「ええ、そうね。アルバイトはするけど。」

「アルバイトって・・もしかして診療所の?」

「そうなの。学校がお休みの日はアルバイトとして雇ってくれてるのよ。」

そこまで話している時、スクールカバンを背負ったルドルフがヒルダとカミラの脇を通り過ぎて行く。

(ルドルフ・・・。)

相変わらず、ルドルフのヒルダに対する態度はそっけないものだった。しかし、ヒルダはそれは仕方の無い事だと思っていた。一方的に婚約を破棄し、追いすがるルドルフを拒絶したのは、他でもないヒルダだったのだから。挙句の果てに『カウベリー』を黙って去って行ったのも・・・。

しかし、今日だけは違っていた。そのまま通り過ぎていくはずのルドルフがピタリと足を止めたのだ。そしてヒルダの方を見て言う。

「また・・来年。」

「え?ええ。ま、また・・来年。」

ヒルダは慌てて返事をすると、ルドルフはそのまま無言で立ち去って行った。

(ルドルフが・・・初めて自分から私に声を掛けてくれた・・。)

ヒルダはルドルフが出て行った教室のドアを見つめていると、マドレーヌが声を掛けてきた。

「ヒルダ・・・いいの?ルドルフを追わなくて。」

「え?ええ・・いいのよ。それじゃ・・・帰りましょうか?」

「そうね、帰りましょう。夕方から初雪が降るかもしれないってラジオのニュースでいってたし・・・。」

マドレーヌの言葉にヒルダは眉を寄せた。

「まあ、雪が?知らなかったわ。だったら急いで帰らないと・・。」

そして2人の少女は教室を一緒に出た―。



 一方、ルドルフは寮に向かって校庭を足早に歩いていた。学生たちの寮は同じ敷地内にある。正門から見て左側が男子寮、右側が女子寮となっているのだ。寮の生活は快適で、冬はボイラーがあるので、室内は暖かく過ごしやすくなっている。エドガーの話ではヒルダ達のアパートメントはボイラー室が無いので冬は薪ストーブで室内を温めているそうだ。

(ヒルダ様・・・やはり・・『ロータス』へ残るのですね・・・。足の悪いヒルダ様こそ、身体を冷やさないように温かく過ごせる寮生活の方がいいのに・・僕だけ快適な暮らしを・・。しかも『カウベリー』には里帰りしたくても帰れない。そして冬休みのアルバイトだなんて・・。)

伯爵令嬢として、大切に育てられ・・何不自由なく暮らして来たヒルダ。そんなヒルダの今の境遇を考えると、ルドルフは哀れでならなかった。

(僕が・・もっと大人だったら・・ヒルダ様の力になれる程に大人だったらどんなにか良かったのに・・。)

ルドルフは明日、『カウベリー』に里帰りする事になっている。何かヒルダにお土産を買って帰ろうかとルドルフは密かに考えるのだった―。

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