嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第8章 7 秘めた思い

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「それで、ルドルフ。ヒルダの進学の件についてと言っていたようだが・・。」

エドガーは足の上で両手を組むとルドルフを見た。

「はい、そうです。つい先日学校で進路相談があったんです。僕は進学組ですが・・ヒルダ様は就職を考えていたようですね。」

「・・・ああ、そうだ。ヒルダは今父から年間金貨50枚の援助を受けているが、卒業と同時に打ち切られてしまう事になっている。」

「エドガー様・・どうしてその事をを僕に話してくれなかったのですか?知っていたら・・。」

「知っていたら何とか出来たのか?まだ高校生の君に?」

エドガーはルドルフを見た。

「そ、それは・・・!」

(そうだ・・その事実を知ったところで今の僕にはどうする事も出来ない・・・。)

この時ほど、ルドルフは早く大人になりたいと思わずにはいられなかった。

「担任の先生から・・聞いたんです。同じ『カウベリー』の出身だから・・ヒルダの相談に乗って欲しいって・・・。」

ルドルフは唇を噛みしめながら言う。

「そうか・・ヒルダは良い担任の先生に恵まれたんだな。なら、ルドルフ。俺からも頼む。どうか・・妹を、ヒルダの事をこれからも宜しく頼む。」

しかし、ルドルフは返事をしない。

「どうした?ルドルフ。・・・駄目なのか?ヒルダの事を頼むのは・・。」

「・・・僕には無理です。」

「何が無理なんだ?」

「ヒルダ様に・・・近付いて、また拒絶されるのが怖いんです。」

「どうしてそう思う?ロータスでヒルダは一度でも君を拒絶したことがあるのか?」

エドガーはルドルフの目を見た。

「いえ・・ありません。でも・・・僕は二度とあんな辛い目に合いたくはないんです。」

ルドルフは目を伏せると言う。

「ルドルフ。だが・・君はヒルダが崖下に転落したとき、真っ先に助けに行ったんだろう?それはヒルダを愛しているからじゃないのか?」

「はい、そうです・・。僕は・・まだヒルダ様を愛しています。・・あの時は本当にヒルダ様の命に係わる事だったので身体が勝手に動いていました・・・。でも、もう駄目なんです。僕とヒルダ様の関係は・・終わってしまったんですから・・・。」

力なく項垂れるルドルフにエドガーはどうしようもない苛立ちを覚えた。
自分だったら・・絶対にヒルダの傍から離れず、守ってやるのに・・と。だが、今のエドガーにはその言葉を言うことすら許されない。ルドルフとは違い、エドガーは永遠にヒルダへの思いを封印し続けなければならないのだ。

エドガーは溜息をつくと言った。

「ヒルダは・・・大学に進学するつもりでいる。勉強を頑張って奨学金を得るつもりだそうだ。そして仮に奨学金で進学する夢が叶った場合は・・ヒルダの足の整形外科医の主治医が自分の診療所でヒルダをアルバイトとして雇う事を考えているようだ。」

「え・・・?そうなんですか・・?」

ルドルフの顔に戸惑いの色が浮かんだ。それを見てエドガーの心にある気持ちが芽生えた。

(そうだ・・ここで1つルドルフをたきつけてみればどうだろうか・・・?)

そこでエドガーは言った。

「その整形外科医はまだ年も若く、独身だそうだ。夏休みもヒルダは診療所でアルバイトとして雇って貰っている。ひょっとすると・・その医者はヒルダに気があるかもしれないな。」

「え・・?何ですって・・・?!」

「本当に・・・ヒルダを大事に思っているなら・・見守るだけではいずれ誰かに奪われてしまうかもしれないぞ?」

エドガーは本当は自分がそうしたい立場を抑えながらルドルフに言う。

「・・・。」

「ヒルダの事を・・頼む。ヒルダは俺に心配かけまいとして・・今回のオリエンテーリングの話も聞かされていないんだ。」

エドガーは顔を辛そうに歪める。

「エドガー様・・・。」
「高校卒業後は・・・父には内緒でヒルダには年間金貨30枚の援助を検討しているんだ。俺がヒルダにしてやれる事は・・これくらいしかないからな・・。」

「エドガー様・・・。」

ルドルフはエドガーを見て思った。
ひょっとすると・・エドガーもヒルダの事を愛しているのではないかと・・。
だが、ルドルフがそれを口にする事は決して無い―。
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