175 / 566
第6章 17 夜の偶然
しおりを挟む
ヒルダとカミラはすっかり日が暮れた夜のロータスの町を歩いていた。ガス灯には火が灯され、店はランタンで照らされ、幻想的な夜の港町の姿になっていた。
「ヒルダ様、お写真が撮影出来て良かったですね。」
2人は並んで歩きながら、カミラが声を掛けてきた。
「ええ、そうね。カミラ。でも現像に1週間かかってしまうのね・・。」
ヒルダは溜息をついた。
「ヒルダ様、大丈夫ですよ。奥様はお強い方です。そんなにすぐに体調が悪化するとは思えません。なので写真の前に一度お手紙を書きましょう。そして手紙に書くのです。写真を撮ったので現像出来たら送りますと。きっと奥様はそれだけでも元気になられると思いますよ?」
カミラはヒルダを元気づけた。
「カミラ・・・ええ、きっとお母様は大丈夫よね?」
「ええ、勿論です。」
そしてカミラは言った。
「そうだ、ヒルダ様。今夜は何処かのレストランでお食事をしていきませんか?」
「そうだったわ・・・ごめんなさい。カミラ。お母さまの事がショックで・・お夕食の準備が出来なかったの。」
ヒルダは申し訳なさそうに言う。
「何を仰っておられるのですか、ヒルダ様。私の方こそいつもヒルダ様にお食事を用意して頂いて、申し訳ない気持ちで一杯なのですから。」
「カミラ・・・。そんな事気にしないで。私は料理が好きだから・・作っているのよ。もっともっと料理が上手になれば・・・もしかして将来お店を開けるかもしれないしね。」
「ヒルダ様・・・。それではその時は是非私にもお手伝いさせて下さいね?」
カミラはそっとヒルダの手を握りしめた―。
その時、ルドルフは家庭教師のアルバイトの帰り道だった。
(今夜はいつもより遅くなってしまったな・・・。もう寮で食事は無理かもしれない・・。)
ルドルフは寮生活をしている。寮の夕食時間は午後6時から8時までと決まっている。門限は夜の9時で、必ずその時間までには帰らないといけない。
腕時計を見ると時刻は午後7時40分を差している。
(仕方ない・・今夜は何処かの店で食事をしよう。)
そして目についたのは大衆レストランだった。
「ここなら安くて色々な料理が食べれそうだな。」
ルドルフは店先にあるメニュー表を見ると呟いた。そしてカランカランとドアベルを鳴らしながらドアを開けると店内へと足を踏み入れた。
店内には大勢の人々で賑わっていた。食事に来ている人々も様々な顔ぶれで、友人同士や、恋人同士、そして家族連れ・・等様々だった。勿論ルドルフの様に1人で食事に来ている人もいる。
ルドルフは壁際の一番奥の2人掛け用のテーブル席に着くと、すぐに若いウェイターがやって来た。
「いらっしゃいませ、何に致しますか?」
ルドルフはもう店内に入る前からメニューを決めていた。
「トマトとチキンの煮込みセットをお願いします。」
「かしこまりました、少々お待ち下さい。」
ウェイターは水を置くと去って行った。
「ふう・・・。」
ルドルフは椅子の背もたれに寄りかかり、店内をぐるりと見渡した時、ある席で目が留まった。
(ヒルダ様に・・・カミラさんっ!)
そこにはおいしそうに食事をしているヒルダとカミラの姿があった。2人は何か会話をしている様子だった。
(ヒルダ様・・・何処かへ出かけていたのだろうか?)
ヒルダは上品なワンピースを着ていた。カウベリーにいた頃のヒルダの服とは大分劣ってはいるが、それでも美しいヒルダによく似合っていた。
(ヒルダ様・・・。)
ルドルフはヒルダの姿を見ると胸が締め付けられそうに苦しくなってくる。冷たい言葉を投げつけられ、惨めに捨てられてしまったのに、それでも・・ルドルフはやはりヒルダの事が忘れられなかったのだった。
その後、ルドルフは2人が店を去るまで、じっと見つめていた―。
「ヒルダ様、お写真が撮影出来て良かったですね。」
2人は並んで歩きながら、カミラが声を掛けてきた。
「ええ、そうね。カミラ。でも現像に1週間かかってしまうのね・・。」
ヒルダは溜息をついた。
「ヒルダ様、大丈夫ですよ。奥様はお強い方です。そんなにすぐに体調が悪化するとは思えません。なので写真の前に一度お手紙を書きましょう。そして手紙に書くのです。写真を撮ったので現像出来たら送りますと。きっと奥様はそれだけでも元気になられると思いますよ?」
カミラはヒルダを元気づけた。
「カミラ・・・ええ、きっとお母様は大丈夫よね?」
「ええ、勿論です。」
そしてカミラは言った。
「そうだ、ヒルダ様。今夜は何処かのレストランでお食事をしていきませんか?」
「そうだったわ・・・ごめんなさい。カミラ。お母さまの事がショックで・・お夕食の準備が出来なかったの。」
ヒルダは申し訳なさそうに言う。
「何を仰っておられるのですか、ヒルダ様。私の方こそいつもヒルダ様にお食事を用意して頂いて、申し訳ない気持ちで一杯なのですから。」
「カミラ・・・。そんな事気にしないで。私は料理が好きだから・・作っているのよ。もっともっと料理が上手になれば・・・もしかして将来お店を開けるかもしれないしね。」
「ヒルダ様・・・。それではその時は是非私にもお手伝いさせて下さいね?」
カミラはそっとヒルダの手を握りしめた―。
その時、ルドルフは家庭教師のアルバイトの帰り道だった。
(今夜はいつもより遅くなってしまったな・・・。もう寮で食事は無理かもしれない・・。)
ルドルフは寮生活をしている。寮の夕食時間は午後6時から8時までと決まっている。門限は夜の9時で、必ずその時間までには帰らないといけない。
腕時計を見ると時刻は午後7時40分を差している。
(仕方ない・・今夜は何処かの店で食事をしよう。)
そして目についたのは大衆レストランだった。
「ここなら安くて色々な料理が食べれそうだな。」
ルドルフは店先にあるメニュー表を見ると呟いた。そしてカランカランとドアベルを鳴らしながらドアを開けると店内へと足を踏み入れた。
店内には大勢の人々で賑わっていた。食事に来ている人々も様々な顔ぶれで、友人同士や、恋人同士、そして家族連れ・・等様々だった。勿論ルドルフの様に1人で食事に来ている人もいる。
ルドルフは壁際の一番奥の2人掛け用のテーブル席に着くと、すぐに若いウェイターがやって来た。
「いらっしゃいませ、何に致しますか?」
ルドルフはもう店内に入る前からメニューを決めていた。
「トマトとチキンの煮込みセットをお願いします。」
「かしこまりました、少々お待ち下さい。」
ウェイターは水を置くと去って行った。
「ふう・・・。」
ルドルフは椅子の背もたれに寄りかかり、店内をぐるりと見渡した時、ある席で目が留まった。
(ヒルダ様に・・・カミラさんっ!)
そこにはおいしそうに食事をしているヒルダとカミラの姿があった。2人は何か会話をしている様子だった。
(ヒルダ様・・・何処かへ出かけていたのだろうか?)
ヒルダは上品なワンピースを着ていた。カウベリーにいた頃のヒルダの服とは大分劣ってはいるが、それでも美しいヒルダによく似合っていた。
(ヒルダ様・・・。)
ルドルフはヒルダの姿を見ると胸が締め付けられそうに苦しくなってくる。冷たい言葉を投げつけられ、惨めに捨てられてしまったのに、それでも・・ルドルフはやはりヒルダの事が忘れられなかったのだった。
その後、ルドルフは2人が店を去るまで、じっと見つめていた―。
0
お気に入りに追加
733
あなたにおすすめの小説
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
ヒロインは辞退したいと思います。
三谷朱花
恋愛
リヴィアはソニエール男爵の庶子だった。15歳からファルギエール学園に入学し、第二王子のマクシム様との交流が始まり、そして、マクシム様の婚約者であるアンリエット様からいじめを受けるようになった……。
「あれ?アンリエット様の言ってることってまともじゃない?あれ?……どうして私、『ファルギエール学園の恋と魔法の花』のヒロインに転生してるんだっけ?」
前世の記憶を取り戻したリヴィアが、脱ヒロインを目指して四苦八苦する物語。
※アルファポリスのみの公開です。

【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?
ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。
アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。
15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

彼女がいなくなった6年後の話
こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。
彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。
彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。
「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」
何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。
「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」
突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。
※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です!
※なろう様にも掲載

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる