嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第6章 17 夜の偶然

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 ヒルダとカミラはすっかり日が暮れた夜のロータスの町を歩いていた。ガス灯には火が灯され、店はランタンで照らされ、幻想的な夜の港町の姿になっていた。

「ヒルダ様、お写真が撮影出来て良かったですね。」

2人は並んで歩きながら、カミラが声を掛けてきた。

「ええ、そうね。カミラ。でも現像に1週間かかってしまうのね・・。」

ヒルダは溜息をついた。

「ヒルダ様、大丈夫ですよ。奥様はお強い方です。そんなにすぐに体調が悪化するとは思えません。なので写真の前に一度お手紙を書きましょう。そして手紙に書くのです。写真を撮ったので現像出来たら送りますと。きっと奥様はそれだけでも元気になられると思いますよ?」

カミラはヒルダを元気づけた。

「カミラ・・・ええ、きっとお母様は大丈夫よね?」

「ええ、勿論です。」

そしてカミラは言った。

「そうだ、ヒルダ様。今夜は何処かのレストランでお食事をしていきませんか?」

「そうだったわ・・・ごめんなさい。カミラ。お母さまの事がショックで・・お夕食の準備が出来なかったの。」

ヒルダは申し訳なさそうに言う。

「何を仰っておられるのですか、ヒルダ様。私の方こそいつもヒルダ様にお食事を用意して頂いて、申し訳ない気持ちで一杯なのですから。」

「カミラ・・・。そんな事気にしないで。私は料理が好きだから・・作っているのよ。もっともっと料理が上手になれば・・・もしかして将来お店を開けるかもしれないしね。」

「ヒルダ様・・・。それではその時は是非私にもお手伝いさせて下さいね?」

カミラはそっとヒルダの手を握りしめた―。



 その時、ルドルフは家庭教師のアルバイトの帰り道だった。

(今夜はいつもより遅くなってしまったな・・・。もう寮で食事は無理かもしれない・・。)

ルドルフは寮生活をしている。寮の夕食時間は午後6時から8時までと決まっている。門限は夜の9時で、必ずその時間までには帰らないといけない。
腕時計を見ると時刻は午後7時40分を差している。

(仕方ない・・今夜は何処かの店で食事をしよう。)

そして目についたのは大衆レストランだった。

「ここなら安くて色々な料理が食べれそうだな。」

ルドルフは店先にあるメニュー表を見ると呟いた。そしてカランカランとドアベルを鳴らしながらドアを開けると店内へと足を踏み入れた。
店内には大勢の人々で賑わっていた。食事に来ている人々も様々な顔ぶれで、友人同士や、恋人同士、そして家族連れ・・等様々だった。勿論ルドルフの様に1人で食事に来ている人もいる。
ルドルフは壁際の一番奥の2人掛け用のテーブル席に着くと、すぐに若いウェイターがやって来た。

「いらっしゃいませ、何に致しますか?」

ルドルフはもう店内に入る前からメニューを決めていた。

「トマトとチキンの煮込みセットをお願いします。」

「かしこまりました、少々お待ち下さい。」

ウェイターは水を置くと去って行った。

「ふう・・・。」

ルドルフは椅子の背もたれに寄りかかり、店内をぐるりと見渡した時、ある席で目が留まった。

(ヒルダ様に・・・カミラさんっ!)

そこにはおいしそうに食事をしているヒルダとカミラの姿があった。2人は何か会話をしている様子だった。

(ヒルダ様・・・何処かへ出かけていたのだろうか?)

ヒルダは上品なワンピースを着ていた。カウベリーにいた頃のヒルダの服とは大分劣ってはいるが、それでも美しいヒルダによく似合っていた。

(ヒルダ様・・・。)

ルドルフはヒルダの姿を見ると胸が締め付けられそうに苦しくなってくる。冷たい言葉を投げつけられ、惨めに捨てられてしまったのに、それでも・・ルドルフはやはりヒルダの事が忘れられなかったのだった。

その後、ルドルフは2人が店を去るまで、じっと見つめていた―。








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