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第5章 2 ヒルダの故郷『カウベリー』②
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「エドガー様、ルドルフは私の1人息子なのです。実は1年程交換留学で外国へ行っていたのですよ。」
マルコが説明している間、ルドルフは黙ってその場に立っている。しかし・・・その表情はどことなく冷たいものを感じた。先程エドガーに挨拶をした時、口元に笑みを浮かべてはいたが、作り笑いの様にしか見えなかった。
(何だか・・・この少年を見ているとヒルダを思い出すな・・・。)
美しい容姿なのに、まるで感情を伴わない表情・・・それらはヒルダをほうふつとさせるものであった。
(年だって俺やヒルダとそう変わらないだろうに・・・。)
「ルドルフと言ったね。君は幾つなんだい?」
「はい。16歳です。」
「16歳か・・。」
(ヒルダと同じ年か・・・。)
エドガーが考え込んでしまったのを見てマルコは声を掛けてきた。
「あの・・・エドガー様。どうされましたか?」
「あ、い・いや。何でもない。」
「さようでございますか。それでは遠方から帰って来られ、お疲れでしょうが・・・よろしくお願い致します。」
「ああ、分った。」
エドガーは返事をするとすぐに書斎に座り、書類に目を通し始めた。
「父さん、それじゃ僕はもう行くよ。」
ルドルフがマルコに小声で心配そうに話しかけている。
「ああ、もう用は済んだんだな。それで明日からは学校だが・・大丈夫そうか?」
「うん、問題は無いよ。」
淡々と答えるルドルフ。
「そうか、ならいいが・・。それにしても・・ルドルフ。よくここへ来れたな。お前・・以前はここへ来るのを拒否していたのに・・。あんなことがあってからは・・。」
「いいんだ。父さん・・・だって、ここにはもう・・あの方はいないんだから・・。拒否する理由は無いよ。」
その声は・・・とても寂し気で、思わずエドガーは顔を上げてルドルフを見た。
ルドルフのその顔は・・全てを諦めたような・・まるで絶望に満ちた表情に見えた。
「!」
エドガーは思わず顔を伏せた。
(な・・・何なんだ?ルドルフのあの顔つきは・・本当にあれで16歳なのか・・?それに、ここにはもう、あの方はいないって・・・まさかヒルダの事なんじゃないか・・?ひょっとするとヒルダとルドルフの間に過去に何かあったんじゃ・・・。)
だが、ここ『カウベリー』ではヒルダの事を話すのは堅く禁じられていた。禁じたのは言うまでも無く、ヒルダの父であるハリスだった。ハリスは『カウベリー』ごとヒルダの存在を封じたのであった。まるで始めからいなかったかのように・・・。
ヒルダに尋ねれば、ここで何があったのか全て分かる。けれど、故郷を追われ、酷く傷ついたヒルダにそんな酷な事は出来ないとエドガーは思うのだった。
「エドガー様。それでは僕は失礼します。」
不意に声を掛けられて、エドガーは顔をあげた。そこには先程のような表情は無い。ただ、口元に笑みを浮かべただけの作り笑いのルドルフがそこにいるだけであった。
「ああ。それじゃあな。」
エドガーはチラリと一瞥すると、ルドルフは頭を下げて部屋を出て行った。ルドルフが部屋を出るとマルコは言った。
「いや・・愛想の無い息子で申し訳ございません。」
マルコは頭を下げてきた。
「いや、礼儀正しい若者だと思うけどな。」
そしてエドガーは何食わぬ顔で次々と書類に目を通していった。
(もし、今度またルドルフに会う機会があれば・・・少し親しくなれる様努力してみるか・・。そうすれば何かヒルダの事について話を聞くことが出来るかもしれないからな・・・。)
エドガーは思うのだった―。
マルコが説明している間、ルドルフは黙ってその場に立っている。しかし・・・その表情はどことなく冷たいものを感じた。先程エドガーに挨拶をした時、口元に笑みを浮かべてはいたが、作り笑いの様にしか見えなかった。
(何だか・・・この少年を見ているとヒルダを思い出すな・・・。)
美しい容姿なのに、まるで感情を伴わない表情・・・それらはヒルダをほうふつとさせるものであった。
(年だって俺やヒルダとそう変わらないだろうに・・・。)
「ルドルフと言ったね。君は幾つなんだい?」
「はい。16歳です。」
「16歳か・・。」
(ヒルダと同じ年か・・・。)
エドガーが考え込んでしまったのを見てマルコは声を掛けてきた。
「あの・・・エドガー様。どうされましたか?」
「あ、い・いや。何でもない。」
「さようでございますか。それでは遠方から帰って来られ、お疲れでしょうが・・・よろしくお願い致します。」
「ああ、分った。」
エドガーは返事をするとすぐに書斎に座り、書類に目を通し始めた。
「父さん、それじゃ僕はもう行くよ。」
ルドルフがマルコに小声で心配そうに話しかけている。
「ああ、もう用は済んだんだな。それで明日からは学校だが・・大丈夫そうか?」
「うん、問題は無いよ。」
淡々と答えるルドルフ。
「そうか、ならいいが・・。それにしても・・ルドルフ。よくここへ来れたな。お前・・以前はここへ来るのを拒否していたのに・・。あんなことがあってからは・・。」
「いいんだ。父さん・・・だって、ここにはもう・・あの方はいないんだから・・。拒否する理由は無いよ。」
その声は・・・とても寂し気で、思わずエドガーは顔を上げてルドルフを見た。
ルドルフのその顔は・・全てを諦めたような・・まるで絶望に満ちた表情に見えた。
「!」
エドガーは思わず顔を伏せた。
(な・・・何なんだ?ルドルフのあの顔つきは・・本当にあれで16歳なのか・・?それに、ここにはもう、あの方はいないって・・・まさかヒルダの事なんじゃないか・・?ひょっとするとヒルダとルドルフの間に過去に何かあったんじゃ・・・。)
だが、ここ『カウベリー』ではヒルダの事を話すのは堅く禁じられていた。禁じたのは言うまでも無く、ヒルダの父であるハリスだった。ハリスは『カウベリー』ごとヒルダの存在を封じたのであった。まるで始めからいなかったかのように・・・。
ヒルダに尋ねれば、ここで何があったのか全て分かる。けれど、故郷を追われ、酷く傷ついたヒルダにそんな酷な事は出来ないとエドガーは思うのだった。
「エドガー様。それでは僕は失礼します。」
不意に声を掛けられて、エドガーは顔をあげた。そこには先程のような表情は無い。ただ、口元に笑みを浮かべただけの作り笑いのルドルフがそこにいるだけであった。
「ああ。それじゃあな。」
エドガーはチラリと一瞥すると、ルドルフは頭を下げて部屋を出て行った。ルドルフが部屋を出るとマルコは言った。
「いや・・愛想の無い息子で申し訳ございません。」
マルコは頭を下げてきた。
「いや、礼儀正しい若者だと思うけどな。」
そしてエドガーは何食わぬ顔で次々と書類に目を通していった。
(もし、今度またルドルフに会う機会があれば・・・少し親しくなれる様努力してみるか・・。そうすれば何かヒルダの事について話を聞くことが出来るかもしれないからな・・・。)
エドガーは思うのだった―。
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