嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第4章 11 エドガーとマイク

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「君・・名前、何て言うんだっけ?」

エドガーはマイクの名前を憶えていたが、あえて尋ねた。

「マイクです。マイク・ブライト。どうぞ僕の事はマイクと呼んで下さい。」

「ふ~ん・・。マイクか・・。ヒルダの事を知りたいなら本人から聞くべきじゃないか?」

「!」

マイクは一瞬眉をピクリと上げて言った。

「それが・・見ての通り、ヒルダはすごく無口なんでよ。必要最低限の事しか話さないし、僕達から話しかけないとヒルダと会話出来ないんですよ。だからお兄さんからヒルダの事を色々聞きたいんです。お兄さんの方が何となく話しやすくて。あの・・ヒルダは昔からああいう性格だったんですか?」

「ああいう性格って?」

エドガーはそんなマイクを一瞥すると尋ねた。

「い、いえ・・。ヒルダは学校で、『氷の女王』て言われてたんですよ。何があっても冷静沈着で、人を寄せ付けず、決して笑ったことが無い・・・。」

マイクの言葉にエドガーは苛立ちを覚えていた。

(なんだ?彼は・・・自分が一体どれだけ今失礼な事を言っているのか自覚がないのか?)

カウベリーで事件が起こる前のヒルダは明るく、笑顔が絶えない少女だったと聞いている。落馬事故に遭って、一生治ることは無いと言われるほどの酷い怪我を負った時でも笑顔を見せる少女だったと・・・。ヒルダが変わったのは教会の焼失事件がきっかけだった。本人の証言で、教会が燃え落ちたのはヒルダが薪を落としたからと言われている。領民たちは大切に保管していた教会が燃え落ちた事に対して激怒し・・・ヒルダの追放を願った。領民たちの怒りを抑える為にフィールズ家は苦渋の決断をせざるを得なかった。そしてハリスはヒルダの縁を切り、爵位をはく奪し、カウベリーから実の娘を・・まだ、たった15歳の少女を追い出したのだ。
それほどの壮絶な過去を背負い、深い傷を負ったヒルダの事を知りもせずに、好奇心で尋ねてくるマイクをエドガーは許せなかった。

(大体・・・あの焼失事件だって怪しい・・・。俺にはどう考えてもヒルダが犯人とは思えない・・。)

「お兄さん。どうしたんですか?急に黙り込んでしまって・・・それで、先程の話の続きですけど・・・。」

するとエドガーが口を開いた。

「マイク。悪いが、ヒルダの事は俺の口からは話せない。何せ、ヒルダは俺の大切な妹だからね。妹の許可なしに勝手にプライバシーを話すわけにはいかないのさ。」

「そ、それは・・・!」

「何か聞きたいことがあるなら・・俺にじゃなくて本人に直接聞いたらどうなんだ?ヒルダが君の事を信頼していれば、自分の事を話すんじゃないか?俺からはヒルダの事は何も話すつもりは・・・ない。」

「・・・。」

マイクは悔しそうに唇を噛んでいる。

(ふん、どうせ・・・苦労知らずの坊ちゃんなんだろう・・。少し警告しておいた方がいいな・・。)

そこでエドガーは再び口を開いた。

「マイク・・・言っておくが、俺の大切な妹ヒルダを・・困らせたり、泣かせるような事をしたら、ただじゃおかないからな?とにかく・・・妹の友人でいたいなら余計な詮索をするな。分かったか?」

エドガーの目つきは、それは鋭いものだった。今まで人からこのような目で睨まれたことのないマイクは恐ろしくなった。

「は、はい・・・分かりました・・・。」

「そうか、分かればいいんだ。」

エドガーは満足気にうなずくと、ヒルダたちの元へと走って行く。

その後ろ姿をマイクは悔し気に見つめていたが・・身体は小刻みに震えていた—。

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