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第4章 6 兄と妹
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翌朝10時―
「カミラ、それじゃエドガー様の処へ行って来るわね。」
ヒルダは玄関まで見送りに出てきたカミラに言った。
「ヒルダ様・・・本当に私も御伴しなくてよろしいのですか?」
「ええ、大丈夫よ。カミラは普段はお仕事で大変でしょうから土日位は休んでいて。それにここ『ロータス』は観光名所は無いもの。案内するような所は特にないからすぐに終わるでしょう?」
そしてヒルダは帽子をかぶると、小さなリュックを背負い、久々に杖を持った。
「ヒルダ様。杖をお持ちになるのですか?」
「ええ。杖が無いと早く歩けないから・・・・私の歩く速度に合わせてはエドガー様に迷惑が掛かってしまうもの。きっとエドガー様は『カウベリー』に戻ったら私の事をお母様に報告するでしょう?なるべくお母様に心配を掛けない姿をエドガー様に見ておいてもらわないといけないと思って。」
そして少し寂し気に笑みを浮かべる。
「ヒルダ様・・・・。」
(まだヒルダ様は16歳なのに、もうそんな周囲に気を遣うような行動を・・。)
カウベリーでの凄まじい経験、父親からの絶縁、そして見知らぬ土地での生活はヒルダを格段に大人へと成長させていた。
「カミラ。それじゃエドガー様をお待たせするわけには行かないから、もう行くわね。」
「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
ヒルダはドアを開けるとカミラに手を振って玄関を出て行った。
春の日差しも暖かく、今日は土曜日と言う事もありメインストリートには大勢の人々が行きかっていた。通りには多くの露店が立ち並び、賑わいを見せている。
ヒルダは杖をついて歩き、人々や馬車などに気を付けながらエドガーの宿泊している港のホテルへと向かった。
「ここね・・・。」
約10分ほど歩いたところにエドガーが宿泊しているホテルはあった。エドガーが手渡してきたメモ書きのホテル名と、今目の前に建っているホテルの看板を照らし合わせる。
「本当にこんなホテルに泊まっているのかしら・・・?」
ヒルダは首をかしげた。
そこは決して高級ホテルとは言い難いホテルであった。建物は古めしくいかにも年季が入っているように見えた。それにホテル自体も小さい。ヒルダが暮らしているアパートメントの全体の大きさと比較しても大差なかった。しかし、ホテルの名前は合致している。
「とりあえず中へ入ってみましょう・・・。」
ヒルダはガラス戸を開けてホテルの中へと入って行った。
カランカラン
ドアに取り付けられたベルが軽い音を立てて鳴る。どこか薄暗いホテルの内部はやはりヒルダの想像通り広くはない。フロントも狭く、2名のホテルマンが受付に立っているだけであり、何やら暇そうにしている。それはこのホテルにはほとんど宿泊客がいないことを物語っているかのようにヒルダには感じられた。
(あの人たちにエドガー様の事を聞けばいいわね・・・。)
ヒルダはフロントに向かおうとすると、背後から声を掛けれらた。
「ヒルダ!こっちだよ。」
ヒルダが振り向くと、ロビーのソファに座っているエドガーがいた。内部が薄暗かったのでエドガーの姿に気づかなかったのだ。
「エドガー様、こちらにいらしたのですか?」
ヒルダが近付こうとするとエドガーは言った。
「いいよ、ヒルダ。俺からそっちへ行くから。」
エドガーは立ち上がるとヒルダの下へと歩いてくる。
「おはよう、ヒルダ。今日は観光案内よろしく頼むよ。」
肩からメッセンジャーバックを下げてるエドガーは言った。
「はい、あまりエドガー様のご期待に沿えないかもしれませんが、どうぞよろしくお願い致します。」
するとエドガーは腰に手をやり、ヒルダを見下ろした。
「エドガー様か・・・。」
「?」
「そうだ、ヒルダ。今から俺の事は名前ではなく・・・お兄様と呼んでくれないか?」
「え・・?お兄様・・・?」
「ああ、一応俺はフィールズ家の息子だし、ヒルダ。君だってフィールズの姓を名乗っているんだ。それに俺たちは偶然同じブロンドヘアーで、瞳の色も同じだ。俺がここに滞在中は俺たちは兄妹だ。だからお兄様と呼んでくれ。」
そしてエドガーはヒルダにウィンクをした―。
「カミラ、それじゃエドガー様の処へ行って来るわね。」
ヒルダは玄関まで見送りに出てきたカミラに言った。
「ヒルダ様・・・本当に私も御伴しなくてよろしいのですか?」
「ええ、大丈夫よ。カミラは普段はお仕事で大変でしょうから土日位は休んでいて。それにここ『ロータス』は観光名所は無いもの。案内するような所は特にないからすぐに終わるでしょう?」
そしてヒルダは帽子をかぶると、小さなリュックを背負い、久々に杖を持った。
「ヒルダ様。杖をお持ちになるのですか?」
「ええ。杖が無いと早く歩けないから・・・・私の歩く速度に合わせてはエドガー様に迷惑が掛かってしまうもの。きっとエドガー様は『カウベリー』に戻ったら私の事をお母様に報告するでしょう?なるべくお母様に心配を掛けない姿をエドガー様に見ておいてもらわないといけないと思って。」
そして少し寂し気に笑みを浮かべる。
「ヒルダ様・・・・。」
(まだヒルダ様は16歳なのに、もうそんな周囲に気を遣うような行動を・・。)
カウベリーでの凄まじい経験、父親からの絶縁、そして見知らぬ土地での生活はヒルダを格段に大人へと成長させていた。
「カミラ。それじゃエドガー様をお待たせするわけには行かないから、もう行くわね。」
「はい、お気をつけて行ってらっしゃいませ。」
ヒルダはドアを開けるとカミラに手を振って玄関を出て行った。
春の日差しも暖かく、今日は土曜日と言う事もありメインストリートには大勢の人々が行きかっていた。通りには多くの露店が立ち並び、賑わいを見せている。
ヒルダは杖をついて歩き、人々や馬車などに気を付けながらエドガーの宿泊している港のホテルへと向かった。
「ここね・・・。」
約10分ほど歩いたところにエドガーが宿泊しているホテルはあった。エドガーが手渡してきたメモ書きのホテル名と、今目の前に建っているホテルの看板を照らし合わせる。
「本当にこんなホテルに泊まっているのかしら・・・?」
ヒルダは首をかしげた。
そこは決して高級ホテルとは言い難いホテルであった。建物は古めしくいかにも年季が入っているように見えた。それにホテル自体も小さい。ヒルダが暮らしているアパートメントの全体の大きさと比較しても大差なかった。しかし、ホテルの名前は合致している。
「とりあえず中へ入ってみましょう・・・。」
ヒルダはガラス戸を開けてホテルの中へと入って行った。
カランカラン
ドアに取り付けられたベルが軽い音を立てて鳴る。どこか薄暗いホテルの内部はやはりヒルダの想像通り広くはない。フロントも狭く、2名のホテルマンが受付に立っているだけであり、何やら暇そうにしている。それはこのホテルにはほとんど宿泊客がいないことを物語っているかのようにヒルダには感じられた。
(あの人たちにエドガー様の事を聞けばいいわね・・・。)
ヒルダはフロントに向かおうとすると、背後から声を掛けれらた。
「ヒルダ!こっちだよ。」
ヒルダが振り向くと、ロビーのソファに座っているエドガーがいた。内部が薄暗かったのでエドガーの姿に気づかなかったのだ。
「エドガー様、こちらにいらしたのですか?」
ヒルダが近付こうとするとエドガーは言った。
「いいよ、ヒルダ。俺からそっちへ行くから。」
エドガーは立ち上がるとヒルダの下へと歩いてくる。
「おはよう、ヒルダ。今日は観光案内よろしく頼むよ。」
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「はい、あまりエドガー様のご期待に沿えないかもしれませんが、どうぞよろしくお願い致します。」
するとエドガーは腰に手をやり、ヒルダを見下ろした。
「エドガー様か・・・。」
「?」
「そうだ、ヒルダ。今から俺の事は名前ではなく・・・お兄様と呼んでくれないか?」
「え・・?お兄様・・・?」
「ああ、一応俺はフィールズ家の息子だし、ヒルダ。君だってフィールズの姓を名乗っているんだ。それに俺たちは偶然同じブロンドヘアーで、瞳の色も同じだ。俺がここに滞在中は俺たちは兄妹だ。だからお兄様と呼んでくれ。」
そしてエドガーはヒルダにウィンクをした―。
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