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第4章 5 娘への思い

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「エドガー様・・どうぞ。」

カミラはエドガーに紅茶を差し出した。エドガーはカップを持ち、紅茶の匂いを嗅ぐと言った。

「これは・・『カウベリー』で栽培されている茶葉だね。お気遣いありがとう。そうか・・こうやって君たちは故郷を懐かしんでいたんだな。」

エドガーはニッコリ笑うと、窓の外を眺めながら言った。

「本当に・・・ここは賑やかな町だな。ここなら・・・あまり人のしがらみも無いだろう。『カウベリー』は自然が美しいとても素敵な場所だけど、その分人間関係を築き上げるのも難しい。なかなか領民たちから受け入れてもらうのも難しいからね。まあ・・今のは俺自身の話だけどさ。」

「「・・・。」」

ヒルダとカミラは黙ってエドガーの話を聞いている。エドガーは紅茶を飲むと言った。

「ヒルダ、つまり俺が言いたい事は・・・確かに父が君にした仕打ちは酷いものだったのかもしれないが、あんな強硬手段を取ったのは・・全てはヒルダとフィールズ家を守る為のものだったんだ。もちろん、父はそんなことは一言だって口にはしないけど・・俺には分かる。何せ毎日父の傍で領主になる為の勉強をしているからね。」

「本当に・・・お父様が・・・?」

ヒルダはポツリと呟いた。会ったばかりのエドガーの言葉はにわかに信じにくいものであったが、エドガーの言葉の節々にはヒルダに対する気遣いが感じられた。

「ところで・・カミラだっけ?」

今度はエドガーはカミラに視線を移すと言った。

「カミラは紅茶を入れるのが上手だな。それより・・悪かったと思ってるよ。勝手に母と君との手紙を読んでしまったのは・・・。ただ、それには理由があってね・・。」

そして再びエドガーはヒルダを見た。

「ヒルダ。母は・・・今病の床に伏している。」

「えっ?!お母様が・・?ま、まさか重い病気で・・・・?」

するとエドガーは首を振った。

「いや、病気なんかじゃない。心労だよ。」

「心労・・・?」

「ああ、そうだ。考えても見なよ。たった一人きりの娘が勘当されて家を出たんだ。しかも遠い外国の地へ・・。まだ当時たった15歳の娘を手放さなくてはならなかったんだ。そしてヒルダの様子を知るにはカミラからの手紙のやり取のみ・・・。」

「・・・。」

カミラは俯いて話を聞いている。

「それで先月・・・とうとう心労がたたって寝込んでしまったのさ。今はベッドの上で生活している。しきりに手紙の事を気にかけていたから何の手紙か尋ねたら、絶対に父には内緒にして欲しいと念を押されて手紙の隠し場所を聞いたんだよ。それで母に届ける前に・・悪いとは思ったけど中身を読ませてもらった。驚いたよ。まさか1年以上も手紙で母とカミラが手紙のやり取りをしていたなんてね。母には手紙を届ける時に・・正直に話して謝罪したよ。手紙を勝手に盗み見た事・・。だけど母は笑って許してくれた。だからその罪滅ぼしじゃないけど、俺がヒルダたちの様子を見に行ってくると母に約束して、『ロータス』へやって来たのさ。父には適当にいいわけをしてね。」

「そ、それでは・・貴方がここへやってきたのはお母様の依頼・・だったからですか?」

ヒルダは声を震わせてエドガーに尋ねた。

「まあ、半分は母の為でもあるけど・・もう半分は自分の為でもあるかな。興味があったんだよ。父に縁を切られてしまったヒルダとはいったいどんな少女なのだろうって・・・。まあヒルダは噂通りの美人だったな?フィールズ家の使用人たちはヒルダの事をそれはとても美しい少女だと語っていたからね。」

ヒルダはその事に関しては何と返事をしたらよいのか分からず、黙っていた。するとエドガーが言う。

「ヒルダ。俺は港付近のホテルに宿を取ったんだ。明日、『ロータス』の町を案内してくれよ。歩けばヒルダの足のリハビリにもなるだろう?とりあえず俺は今日はホテルに戻るよ。汽車の長旅は慣れなくて疲れたからね。」


エドガーは荷物を持つと立ち上がった。ヒルダとカミラも立ち上がると、エドガーは玄関へと向かって歩いていく。
そしてドアの前に立つとポケットからメモ紙を取り出した。

「ヒルダ。俺は今日と明日、このホテルに部屋を取ってあるんだ。明日も学校は休みだろう?10時にホテルへ来てくれ。」

言いながらメモ紙をヒルダに手渡すと言った。

「ロータスの観光案内・・楽しみにしているからな?それじゃまた明日。」

「は、はい。分かりました。」

慌てて返事をするヒルダ。

エドガーはその様子に満足そうに頷くと、ドアを開けてヒルダたちのアパートメントを出て行った。



「・・・ずいぶん強引な方でしたね・・。」

カミラはエドガーが去ったあと、ヒルダに声を掛けてきた。

「ええ・・。随分物事をはっきりおっしゃる方だけど・・悪い方ではなさそうだわ・・。それに頭も切れそうな方よね?」

ヒルダの言葉にカミラは頷いた。

「当然ですよ。養子に選ばれるのは代々、優秀な方と決まっているのですから。」

「そうよね・・・。エドガー様は・・きっと優秀な方なのね・・・。」

ヒルダはポツリと呟いた―。




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