136 / 566
第4章 5 娘への思い
しおりを挟む
「エドガー様・・どうぞ。」
カミラはエドガーに紅茶を差し出した。エドガーはカップを持ち、紅茶の匂いを嗅ぐと言った。
「これは・・『カウベリー』で栽培されている茶葉だね。お気遣いありがとう。そうか・・こうやって君たちは故郷を懐かしんでいたんだな。」
エドガーはニッコリ笑うと、窓の外を眺めながら言った。
「本当に・・・ここは賑やかな町だな。ここなら・・・あまり人のしがらみも無いだろう。『カウベリー』は自然が美しいとても素敵な場所だけど、その分人間関係を築き上げるのも難しい。なかなか領民たちから受け入れてもらうのも難しいからね。まあ・・今のは俺自身の話だけどさ。」
「「・・・。」」
ヒルダとカミラは黙ってエドガーの話を聞いている。エドガーは紅茶を飲むと言った。
「ヒルダ、つまり俺が言いたい事は・・・確かに父が君にした仕打ちは酷いものだったのかもしれないが、あんな強硬手段を取ったのは・・全てはヒルダとフィールズ家を守る為のものだったんだ。もちろん、父はそんなことは一言だって口にはしないけど・・俺には分かる。何せ毎日父の傍で領主になる為の勉強をしているからね。」
「本当に・・・お父様が・・・?」
ヒルダはポツリと呟いた。会ったばかりのエドガーの言葉はにわかに信じにくいものであったが、エドガーの言葉の節々にはヒルダに対する気遣いが感じられた。
「ところで・・カミラだっけ?」
今度はエドガーはカミラに視線を移すと言った。
「カミラは紅茶を入れるのが上手だな。それより・・悪かったと思ってるよ。勝手に母と君との手紙を読んでしまったのは・・・。ただ、それには理由があってね・・。」
そして再びエドガーはヒルダを見た。
「ヒルダ。母は・・・今病の床に伏している。」
「えっ?!お母様が・・?ま、まさか重い病気で・・・・?」
するとエドガーは首を振った。
「いや、病気なんかじゃない。心労だよ。」
「心労・・・?」
「ああ、そうだ。考えても見なよ。たった一人きりの娘が勘当されて家を出たんだ。しかも遠い外国の地へ・・。まだ当時たった15歳の娘を手放さなくてはならなかったんだ。そしてヒルダの様子を知るにはカミラからの手紙のやり取のみ・・・。」
「・・・。」
カミラは俯いて話を聞いている。
「それで先月・・・とうとう心労がたたって寝込んでしまったのさ。今はベッドの上で生活している。しきりに手紙の事を気にかけていたから何の手紙か尋ねたら、絶対に父には内緒にして欲しいと念を押されて手紙の隠し場所を聞いたんだよ。それで母に届ける前に・・悪いとは思ったけど中身を読ませてもらった。驚いたよ。まさか1年以上も手紙で母とカミラが手紙のやり取りをしていたなんてね。母には手紙を届ける時に・・正直に話して謝罪したよ。手紙を勝手に盗み見た事・・。だけど母は笑って許してくれた。だからその罪滅ぼしじゃないけど、俺がヒルダたちの様子を見に行ってくると母に約束して、『ロータス』へやって来たのさ。父には適当にいいわけをしてね。」
「そ、それでは・・貴方がここへやってきたのはお母様の依頼・・だったからですか?」
ヒルダは声を震わせてエドガーに尋ねた。
「まあ、半分は母の為でもあるけど・・もう半分は自分の為でもあるかな。興味があったんだよ。父に縁を切られてしまったヒルダとはいったいどんな少女なのだろうって・・・。まあヒルダは噂通りの美人だったな?フィールズ家の使用人たちはヒルダの事をそれはとても美しい少女だと語っていたからね。」
ヒルダはその事に関しては何と返事をしたらよいのか分からず、黙っていた。するとエドガーが言う。
「ヒルダ。俺は港付近のホテルに宿を取ったんだ。明日、『ロータス』の町を案内してくれよ。歩けばヒルダの足のリハビリにもなるだろう?とりあえず俺は今日はホテルに戻るよ。汽車の長旅は慣れなくて疲れたからね。」
エドガーは荷物を持つと立ち上がった。ヒルダとカミラも立ち上がると、エドガーは玄関へと向かって歩いていく。
そしてドアの前に立つとポケットからメモ紙を取り出した。
「ヒルダ。俺は今日と明日、このホテルに部屋を取ってあるんだ。明日も学校は休みだろう?10時にホテルへ来てくれ。」
言いながらメモ紙をヒルダに手渡すと言った。
「ロータスの観光案内・・楽しみにしているからな?それじゃまた明日。」
「は、はい。分かりました。」
慌てて返事をするヒルダ。
エドガーはその様子に満足そうに頷くと、ドアを開けてヒルダたちのアパートメントを出て行った。
「・・・ずいぶん強引な方でしたね・・。」
カミラはエドガーが去ったあと、ヒルダに声を掛けてきた。
「ええ・・。随分物事をはっきりおっしゃる方だけど・・悪い方ではなさそうだわ・・。それに頭も切れそうな方よね?」
ヒルダの言葉にカミラは頷いた。
「当然ですよ。養子に選ばれるのは代々、優秀な方と決まっているのですから。」
「そうよね・・・。エドガー様は・・きっと優秀な方なのね・・・。」
ヒルダはポツリと呟いた―。
カミラはエドガーに紅茶を差し出した。エドガーはカップを持ち、紅茶の匂いを嗅ぐと言った。
「これは・・『カウベリー』で栽培されている茶葉だね。お気遣いありがとう。そうか・・こうやって君たちは故郷を懐かしんでいたんだな。」
エドガーはニッコリ笑うと、窓の外を眺めながら言った。
「本当に・・・ここは賑やかな町だな。ここなら・・・あまり人のしがらみも無いだろう。『カウベリー』は自然が美しいとても素敵な場所だけど、その分人間関係を築き上げるのも難しい。なかなか領民たちから受け入れてもらうのも難しいからね。まあ・・今のは俺自身の話だけどさ。」
「「・・・。」」
ヒルダとカミラは黙ってエドガーの話を聞いている。エドガーは紅茶を飲むと言った。
「ヒルダ、つまり俺が言いたい事は・・・確かに父が君にした仕打ちは酷いものだったのかもしれないが、あんな強硬手段を取ったのは・・全てはヒルダとフィールズ家を守る為のものだったんだ。もちろん、父はそんなことは一言だって口にはしないけど・・俺には分かる。何せ毎日父の傍で領主になる為の勉強をしているからね。」
「本当に・・・お父様が・・・?」
ヒルダはポツリと呟いた。会ったばかりのエドガーの言葉はにわかに信じにくいものであったが、エドガーの言葉の節々にはヒルダに対する気遣いが感じられた。
「ところで・・カミラだっけ?」
今度はエドガーはカミラに視線を移すと言った。
「カミラは紅茶を入れるのが上手だな。それより・・悪かったと思ってるよ。勝手に母と君との手紙を読んでしまったのは・・・。ただ、それには理由があってね・・。」
そして再びエドガーはヒルダを見た。
「ヒルダ。母は・・・今病の床に伏している。」
「えっ?!お母様が・・?ま、まさか重い病気で・・・・?」
するとエドガーは首を振った。
「いや、病気なんかじゃない。心労だよ。」
「心労・・・?」
「ああ、そうだ。考えても見なよ。たった一人きりの娘が勘当されて家を出たんだ。しかも遠い外国の地へ・・。まだ当時たった15歳の娘を手放さなくてはならなかったんだ。そしてヒルダの様子を知るにはカミラからの手紙のやり取のみ・・・。」
「・・・。」
カミラは俯いて話を聞いている。
「それで先月・・・とうとう心労がたたって寝込んでしまったのさ。今はベッドの上で生活している。しきりに手紙の事を気にかけていたから何の手紙か尋ねたら、絶対に父には内緒にして欲しいと念を押されて手紙の隠し場所を聞いたんだよ。それで母に届ける前に・・悪いとは思ったけど中身を読ませてもらった。驚いたよ。まさか1年以上も手紙で母とカミラが手紙のやり取りをしていたなんてね。母には手紙を届ける時に・・正直に話して謝罪したよ。手紙を勝手に盗み見た事・・。だけど母は笑って許してくれた。だからその罪滅ぼしじゃないけど、俺がヒルダたちの様子を見に行ってくると母に約束して、『ロータス』へやって来たのさ。父には適当にいいわけをしてね。」
「そ、それでは・・貴方がここへやってきたのはお母様の依頼・・だったからですか?」
ヒルダは声を震わせてエドガーに尋ねた。
「まあ、半分は母の為でもあるけど・・もう半分は自分の為でもあるかな。興味があったんだよ。父に縁を切られてしまったヒルダとはいったいどんな少女なのだろうって・・・。まあヒルダは噂通りの美人だったな?フィールズ家の使用人たちはヒルダの事をそれはとても美しい少女だと語っていたからね。」
ヒルダはその事に関しては何と返事をしたらよいのか分からず、黙っていた。するとエドガーが言う。
「ヒルダ。俺は港付近のホテルに宿を取ったんだ。明日、『ロータス』の町を案内してくれよ。歩けばヒルダの足のリハビリにもなるだろう?とりあえず俺は今日はホテルに戻るよ。汽車の長旅は慣れなくて疲れたからね。」
エドガーは荷物を持つと立ち上がった。ヒルダとカミラも立ち上がると、エドガーは玄関へと向かって歩いていく。
そしてドアの前に立つとポケットからメモ紙を取り出した。
「ヒルダ。俺は今日と明日、このホテルに部屋を取ってあるんだ。明日も学校は休みだろう?10時にホテルへ来てくれ。」
言いながらメモ紙をヒルダに手渡すと言った。
「ロータスの観光案内・・楽しみにしているからな?それじゃまた明日。」
「は、はい。分かりました。」
慌てて返事をするヒルダ。
エドガーはその様子に満足そうに頷くと、ドアを開けてヒルダたちのアパートメントを出て行った。
「・・・ずいぶん強引な方でしたね・・。」
カミラはエドガーが去ったあと、ヒルダに声を掛けてきた。
「ええ・・。随分物事をはっきりおっしゃる方だけど・・悪い方ではなさそうだわ・・。それに頭も切れそうな方よね?」
ヒルダの言葉にカミラは頷いた。
「当然ですよ。養子に選ばれるのは代々、優秀な方と決まっているのですから。」
「そうよね・・・。エドガー様は・・きっと優秀な方なのね・・・。」
ヒルダはポツリと呟いた―。
0
お気に入りに追加
725
あなたにおすすめの小説
運命の番?棄てたのは貴方です
ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。
番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。
※自己設定満載ですので気を付けてください。
※性描写はないですが、一線を越える個所もあります
※多少の残酷表現あります。
以上2点からセルフレイティング
婚約者が実は私を嫌っていたので、全て忘れる事にしました
Kouei
恋愛
私セイシェル・メルハーフェンは、
あこがれていたルパート・プレトリア伯爵令息と婚約できて幸せだった。
ルパート様も私に歩み寄ろうとして下さっている。
けれど私は聞いてしまった。ルパート様の本音を。
『我慢するしかない』
『彼女といると疲れる』
私はルパート様に嫌われていたの?
本当は厭わしく思っていたの?
だから私は決めました。
あなたを忘れようと…
※この作品は、他投稿サイトにも公開しています。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。
とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」
成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。
「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」
********************************************
ATTENTION
********************************************
*世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。
*いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。
*R-15は保険です。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
愛されていたのだと知りました。それは、あなたの愛をなくした時の事でした。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
リリナシスと王太子ヴィルトスが婚約をしたのは、2人がまだ幼い頃だった。
それから、ずっと2人は一緒に過ごしていた。
一緒に駆け回って、悪戯をして、叱られる事もあったのに。
いつの間にか、そんな2人の関係は、ひどく冷たくなっていた。
変わってしまったのは、いつだろう。
分からないままリリナシスは、想いを反転させる禁忌薬に手を出してしまう。
******************************************
こちらは、全19話(修正したら予定より6話伸びました🙏)
7/22~7/25の4日間は、1日2話の投稿予定です。以降は、1日1話になります。
大切なあのひとを失ったこと絶対許しません
にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。
はずだった。
目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う?
あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる?
でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの?
私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる