嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

３章 4 囚われたヒルダ

「おい、フランシス。ヒルダがいないぞ？」

カウンターにあるメニュー表でランチを選んでいる時、突如マイクがフランシスに言った。

「何だってっ？！」

フランシスは慌ててヒルダが座っていたテーブルを振り向くと、そこにはヒルダのお弁当が残されたままで、その姿はどこにもない。

「何か飲み物でも買いに外に出たんじゃないか？」

のんびり言うのはカイン。すると隣に並んでいたステラが言った。

「いいえ！そんなはずないわっ！だってヒルダさんはここのカフェテリアのスープを私に頼んだのよ？それに足の悪いヒルダさんはあまり学校内では歩き回らないようにしているんだからっ！第一ヒルダさんは・・・勝手にいなくなるような人じゃないもの！そ、そうだわっ！何か・・テーブルの上にメモが残されていないかしら？」

ステラはカウンターに並ぶのをやめると、急いでヒルダが座っていたテーブルに向った。そのあとをフランシスも追う。

「「「・・・。」」」

残ったマイク、カイン、ルイスは互いの顔を見渡すと言った。

「「「パンでも買うか？」」」


　ヒルダが座っていたテーブルにステラとフランシスがたどり着くと、そこにはお弁当だけが残されており、メモのようなものは何もない。

「ヒルダ・・・・。」

「ヒルダさん・・・何処へ行ったのかしら・・。」

フランシスとステラが茫然としていると、不意に隣のテーブルに座っている女子生徒たちから声を掛けられた。

「ねえ、もしかしてこの椅子に座っていた女子を探しているの？」

「はい、そうなんです。」

ステラが答えると、そのテーブルに座っている4人の女子生徒たちは互いの顔を見わたしながら状況を説明しだした。

「実はね・・・ここに１人で座っていた女子が突然現れた3人の女生徒たちに取り囲まれてしまったの。」

「それで、無理やりその子を立たせると連れ出して行ってしまったのよ。」

「かわいそうに・・その子、すごく嫌がっているから、私達、彼女たちにやめるように言ったのだけど・・関係ない人間は黙っているように強く言われて・・何も言い返せなくて・・。」

「何だか怖い子たちだったわよね？」

それを聞いたステラとフランシスは顔を青ざめさせた。

「ど、どうしよう・・・。ヒルダさん・・誰に連れて行かれてしまったのかしら・・。」

ステラはブルブル震えながら、フランシスを見た。

「分からない・・けど・・・！」

（くそっ！誰がヒルダを連れ去った？！ヒルダが一体何をしたっていうんだよっ！）

フランシスはグッと拳を握りしめると言った。

「俺・・ヒルダを探してくる・・。」

「え・・？探すって・・一体どこを？」

「いろんなところをだっ！この寒さだ・・・。さすがに外に出たとは考えられない。だとしたら校舎内を探し回ればいいだろうっ！」

「待って！私も行くっ！」

ステラが後を追おうとすると、フランシスが言った。

「駄目だっ！ステラは・・・マイク達に報告しに行ってくれっ！あいつらなら・・・何かヒルダの居場所を特定する知恵を持っているかもしれないからっ！」

それだけ言うと、フランシスは廊下へ飛び出して行った―。



その頃―

「寒い・・。」

わずかに日が差す薄暗い地下倉庫。倉庫の周囲にはボールやスコアボード、平均台・・さまざまな体育用具が埃をかぶり、乱雑に置かれている。
そんな場所で白い息を吐きながらヒルダは身を縮こませてマットレスに座り、1Ｆへ続く梯子を見上げていた。

「それにしても・・・アデルさん・・ここまでして私を恨んでいたの・・？」

両肩を抱え込むようにしながらヒルダはポツリと呟いた。今、ヒルダがいる場所は体育館の地下にある用具室である。無理やりアデル達にここへ連れてこられたヒルダはこの地下倉庫に突き落とされてしまったのである。幸い、床にはマットレスが敷かれてあり、ヒルダは怪我をすることが免れたのだが・・・。


今から約20分前―

地下倉庫に突き落とされたヒルダは上からのぞき込んでいるアデルに言った。

「酷いわ、どうしてこんな事をするのよ？」

ヒルダはアデルを見上げると言った。

「うるさいわね、ヒルダ。貴女のせいよ？貴女が財布を盗んでもいないのに、罪を認めてしまったから・・いざ、真犯人が無事、見つかって・・今度は私がまるで悪者扱いされるようになってしまったじゃないっ！出たければ・・自分で梯子を上ってくることねっ！」

アデルは非常に被害妄想が強い少女だったのだ。

「アデルさん、私が足が悪くて梯子を上れないこと位知っているでしょう？」

しかしアデルは聞く耳を持たない。

「さあね～そんな話は知らないわ。とにかく、せいぜい頑張って自力でそこから出てくることね？どうせ皆の同情を得る為に仮病でも使ってるんじゃないの？さ、それじゃ行くわよ。」

アデルは取り巻きの2人の少女を引き連れて、ヒルダを1人残し、その場を去って行った―。