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2章 3 ヒルダからのお礼

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部屋で学校の勉強をしていたヒルダは時計を見上げた。

夕方4時―

(そろそろ夕食の準備を始めた方が良さそうね。)

まだあまり家事に慣れていないヒルダはカミラとは違い料理を作るのに時間がかかる。
教科書とノートを閉じ、鉛筆を机の上に置くとヒルダは足を引きずりながらキッチンへと向かった。

まずヒルダはダイニングルームに行くと、部屋の隅に置かれた鉄製の薪ストーブの様子を見た。

「うん。薪も十分あるし、良く燃えているからお部屋も暖かいわ。」

そしてヒルダはポケットからゴムを取り出すと、後ろで一つにまとめた。
次に椅子に掛けてあるエプロンを身に着け、奥にあるキッチンへと向かった。
今夜のメニューはもう決まっている。雪も溶けきらず、とても寒いのでヒルダはブイヤベースを作る予定を立てていた。それにこの料理ならばわざわざかまどに火を起こさなくても薪ストーブの上で作る事が出来る。
ヒルダは食材がいれられている収納箱から野菜を取り出し、準備を始めた—。

 全ての具材を切り終え、鍋に投入し、水、ローリエや塩、コショウ、白ワインを入れて薪ストーブの上に鍋を乗せた時、アパートメントのドアがコンコンとノックされた。

「え・・・?誰かしら?でもカミラのはずは無いし・・・?」

ヒルダはエプロンを外しながら首を傾げた。カミラなら決してノックをする事は無い。

「あ・・もしかしてお姉さんかしら?」

お姉さんと言うのはカミラの姉のセレナの事である。ここ、ロータスでのヒルダの後見人でもある女性だ。

ヒルダは玄関へ向かうと、ドアを開けた。するとそこに立っていたのはクラスメイトのステラであった。

「え・・?ステラさん・?」

ヒルダは思いがけない人物が立っていたので困惑して首を傾げた。一方のステラは寒さの為か、それとも照れくささの為か、顔を真っ赤にしている。

「どうしたのかしら?まさか・・・ステラさんが私の家に来るなんて・・何故ここが分かったの?」

するとステラは言った。

「あ、あの!私・・・担任のミシェル先生にヒルダさんの住所を聞いたの。どうしても・・・ヒルダさんに会いたくて・・。」

最期の方は消え入りそうな声だった。

「え・・?私に・・・?どうして?」

ヒルダにはさっぱり分からなかった。何故ステラはこんなにも不愛想な自分に近付いて来るのか謎だった。
するとステラは言った。

「わ、私!どうしても・・・ヒルダさん、貴女と・・お友達になりたいのっ!」

そして持っていた手提げバックからステラは慌ただしく1冊のノートと、2つ折りにしたプリントを取り出してヒルダに差し出した。

「え・・?ステラさん。これは何かしら?」

怪訝そうに首を傾げるヒルダをステラはじっと見つめた。

「このプリントは学校で配られたプリントなの。そしてこっちは今日学校で勉強したノートなの。ヒルダさん・・・どうか受け取ってくださいっ!」

ステラはノートとプリントをヒルダの眼前に付き出すと頭を下げた。

「ステラさん・・・。」

(貴女は・・・どうしてここまで・・・。)

「ステラさん。顔をあげて。」

ヒルダは言った。

「え?ええ・・・。」

ステラが顔を上げるとヒルダはノートとプリントを手に取った

「ありがとう、ステラさん。早速・・・ノート借りるわね?わざわざ届けてくれて…ありがとう。」

ヒルダはそっと小さな声でお礼を述べた。

「ヒ、ヒルダさん・・・。」

(う・・・嬉しいっ!ヒルダさんが私にお礼を言ってくれた・・!)

「ステラさん。貴女・・ここまではどうやって来たの?」

ヒルダはステラに尋ねた。

「え?馬車で来たけど・??」

「ひょっとして、御者の人は下で待ってるの?」

「ええ・・・。」

するとヒルダは言った。

「ステラさん。少しだけここで待っていてくれるかしら?」

「分かったわ。」

ステラが頷くと、ヒルダは背を向けると部屋の奥へ消えて行った。やがて5分程経過した頃、ヒルダが玄関に戻ってきた。手にはクッキーの入った瓶が握りしめられていた。

「ステラさん、これ・・・私が初めて焼いたクッキーなの。お口に合えばいいのだけど・・・良かったら受け取ってくれる?」

「え・・・こ、これを私に・・?」

(嬉しい・・・!ヒルダさんの初めて作ったお菓子を貰えるなんて・・・!)

「ありがとう!ヒルダさんっ!」

ステラは笑顔で瓶を握りしめた—。
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