嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

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第7章 14 ヒルダの旅立ち

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 いよいよ明日はヒルダが『ロータス』へ向けて出発する日となった。
その為、フィールズ家では朝から使用人たちがバタバタと忙しそうに屋敷中を走り回っている。

「フン。ようやく明日あいつがこの屋敷を出て行くのか。」

ハリスは馬車に荷造りをしているカミラとヒルダの様子を窓の外から眺めながら言った。ハリスは荷造りの準備は決して誰にも手伝わないように使用人たちに言いつけてあったのだ。

「あ・・・貴方は何所まで冷酷な人なのですかっ?!」

マーガレットはハンカチを目に押し当てながらハリスに抗議した。

「うるさいっ!この私が騒ぎを少しでも抑える為にどれだけ町中を奔走したと思っている?町人達の怒りは爆発寸前だったのだぞ?!ようやく彼らを鎮める為に、どれだけ今年の税収を低くしたか分かっているのか?たった1人の愚かな子供のせいで・・どれ程私が苦労したかお前には分かるまい。しかも高等学校に通う3年間は学費と生活費で年に50枚の金貨を渡すのだぞっ?!金貨1枚で1カ月は余裕で暮らせると言うのに・・それを年間50枚もあの子供の為に振り込むのだっ!とんだ散財だッ!」

「あ、貴方・・・。」

マーガレットは信じられない思いでハリスを見つめた。本当にこれがハリスなのだろうか?以前のハリスはヒルダを目に入れても痛くない程に溺愛していたのに、それが今はどうだろう?ハリスはあれ以降、すっかり別人のように変わってしまった。ヒルダから爵位を奪い、戸籍から抜き取り、徹底的にヒルダの存在を無視し・・・時には否定し続けてきた。その証拠にハリスはヒルダが何所へ行くのかも、何という高等学校に願書を出すのかさえ知らずにいたのだった。

「うっ・・うっ・・何てかわいそうなヒルダ・・・。」

マーガレットは涙をボロボロ流し続けた。

「いい加減にしろ、マーガレット。我々には始めから子供はいなかった。跡取り問題の事なら気にするな。養子を迎えてきっといいようにしてやるから。」

ハリスはそれだけ言い残すと部屋を出て行った―。



 馬車3台分に全ての荷物を積み終わると、ヒルダは屋敷を振り返った。15年間、温かい家庭で育った屋敷との生活も今日が最後になるのだ。もうヒルダは二度とここへ戻って来る事を許されない。何故なら今のヒルダは爵位を奪われ、親子の縁を切られてしまった、ただのヒルダ・フィールズなのだから。

「お父様・・・最後まで私を許しては下さらなかったのね・・・。」

真っ白いコートに身を包んだヒルダは白い息を吐きながら父の書斎がある部屋の窓を見つめるとポツリと言った。もう泣き過ぎて涙も枯れて出なくなってしまった。ひょっとすると、もうヒルダはこのさき先もずっと涙が出てこないかもしれない・・・。

「ヒルダ様・・・汽車の時間がありますから・・・そろそろ行かないと・・・。」

御者のスコットが申し訳なさそうに声を掛けてきた。

「はい・・・分かりました。あの、スコットさん。」

「はい、何でしょうヒルダ様。」

「シャーリーに・・・もし会ったら・・・謝っておいて貰えるかしら・・?黙って居なくなってごめんなさいって・・・私は・・貴女の事を大好きだった、決して忘れないって・・・。」

「ヒルダ様・・・っ!はい・・・」

スコットは言葉を詰まらせながら返事をした。

「ヒルダお嬢様っ!」

使用人たちに別れを告げてきたカミラが戻って来た。

「カミラ・・・。」

「お待たせ致しました、ヒルダ様。では馬車に乗りましょう。」

「ええ・・・。」

ヒルダはカミラの手を借りて馬車に乗り込むと、スコットは馬車を走らせた。そしてその後ろを3台の荷馬車が後をついて行く。

こうしてヒルダは15年間生まれ育った『カウベリー』の地を追われ、新天地へと旅立った。

ヒルダの行先を知る者は、カミラとマーガレット以外は、誰も知らない。

また、ヒルダが旅だった事をルドルフやグレース達は知る由も無かった。



 そして・・ヒルダが『ロータス』に移り住み、1年の歳月が流れた―。



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