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第7章 10 カミラの手引き
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「お願いですっ!ヒルダ様に会わせて下さいっ!」
フィールズ家に着いたルドルフはエントランスで叫んでいた。
「いえ、会わせるわけにはいきません。」
立ち塞がっているのはフィールズ家のメイド長である。そしてその背後には10名ほどのフットマンとメイド達が控えている。
「そんな事を言わずに・・・お願いですからっ!」
ルドルフは必死で頭を下げて頼み込んだ。ルドルフの態度に背後にいるメイドやフットマン達は悲痛な顔を浮かべている。しかしメイド長は冷たく言い放った。
「いいえ、いくら貴方のお父上がハリス様の執事であろうと、貴方が男爵家でヒルダ様のかつての婚約者であろうと、旦那様から決して誰にもヒルダ様には会わせるなとの命令が下っております。貴方をヒルダ様に会わせると私たちが罰を受けます。貴方はそれでも会わせろというのですか?」
眼鏡の奥で冷たい目を光らせながらメイド長はルドルフに言い放った。
「そ、それは・・・っ!」
ルドルフはその言葉に思わずうつむく。
(そうだ・・・僕が我儘を通せばこの人達に迷惑が・・・!)
ここまで言われてしまえば、心優しいルドルフは何も言い返す事が出来なかった。
「申し訳・・・ありませんでした・・・。で、では・・せめてお手紙だけでも・・書いたら手渡して頂けますか・・・?」
ルドルフは青ざめた顔でメイド長に尋ねた。
「いいえ、それも無理です。何故なら私達もヒルダ様に会う事を禁じられているからです。」
「!そ、そんな・・・それでは誰がヒルダ様のお世話をしているのですか?!」
「それは貴方の知る処ではありません。とにかくヒルダ様には会う事は出来ません。ご理解頂けたなら、お引き取り願えますか?」
「わ・・分かりました・・。我儘を言ってご迷惑をかけてしまって・・すみませんでした・・。」
淡々と語るメイド長の言葉にルドルフは頷くしかなかった。
「ヒルダ様・・・。」
ルドルフは絶望的な気持ちになりながら、エントランスを出ると止めてあった自転車のスタンドを上げ、力なく自転車を持ってガーデンアプローチを歩き始めた。すると小声で誰かが呼び掛けてきた。
「ルドルフ様。」
「え?」
慌てて振り向くと大きな天使像の素焼きのガーデニングオーナメントの背後から顔を覗かせている人物がいた。それはメイドのカミラであった。
「あ・・貴女は・・っ!」
ルドルフが声を上げると、カミラは唇の前に人差し指を立てて静かにするように合図を送ると、手招きをしてきた。
慌ててルドルフが自転車を持ってカミラに近づいて小声で声を掛けた。
「貴女はヒルダ様と以前一緒にいたメイドの方ですよね?ひょっとしてヒルダ様に会わせて頂けるのですか?」
「ええ。なので私について来て下さい。」
カミラは短く、それだけ言うとルドルフをヒルダのいる離れへと案内した。
「ヒルダ様は・・・旦那様の命で今は殆ど軟禁状態にあるのです。」
案内する道すがら、カミラは言った。
「軟禁状態・・・。」
ルドルフは小さく呟いた。
「旦那様は酷いです。いくら町の人々の怒りを鎮める為とはいえ、ヒルダ様を離れに閉じ込めているのですから。でも・・・私達使用人誰もが旦那様のやり方には反対しています。なのでメイド長に頼み込んで、陰ながら私がヒルダ様のお世話をさせていただいています。奥様もこの事はご存知です。」
「良かった・・・そうなのですね。てっきり・・・この屋敷中の人全てがヒルダ様の敵なのではないかと・・あ、すみません。変な表現をしてしまって。」
すると前を歩きながらカミラが言った。
「いいえ、先ほどのメイド長の言葉を聞けばそう思われても仕方がありません。でも・・私達全員誰もがヒルダ様は無実だと信じています。」
そしてカミラは足を止めた。
そこには可愛らしい小さな家が1軒建っていた。
「ヒルダ様はこちらにいらっしゃいます。それでは私はもう戻ります。」
「どうもありがとうございました。」
ルドルフが頭を下げるとカミラは言った。
「どうか・・・ヒルダ様をよろしくお願いします。」
「はい、分かりました。」
(大丈夫・・・きっとヒルダ様は会ってくれるはず・・・。)
するとカミラは笑みを浮かべると去って行った。
「ここに・・・ヒルダ様がいるんだ・・・。」
ルドルフは深呼吸するとドアをノックした―。
フィールズ家に着いたルドルフはエントランスで叫んでいた。
「いえ、会わせるわけにはいきません。」
立ち塞がっているのはフィールズ家のメイド長である。そしてその背後には10名ほどのフットマンとメイド達が控えている。
「そんな事を言わずに・・・お願いですからっ!」
ルドルフは必死で頭を下げて頼み込んだ。ルドルフの態度に背後にいるメイドやフットマン達は悲痛な顔を浮かべている。しかしメイド長は冷たく言い放った。
「いいえ、いくら貴方のお父上がハリス様の執事であろうと、貴方が男爵家でヒルダ様のかつての婚約者であろうと、旦那様から決して誰にもヒルダ様には会わせるなとの命令が下っております。貴方をヒルダ様に会わせると私たちが罰を受けます。貴方はそれでも会わせろというのですか?」
眼鏡の奥で冷たい目を光らせながらメイド長はルドルフに言い放った。
「そ、それは・・・っ!」
ルドルフはその言葉に思わずうつむく。
(そうだ・・・僕が我儘を通せばこの人達に迷惑が・・・!)
ここまで言われてしまえば、心優しいルドルフは何も言い返す事が出来なかった。
「申し訳・・・ありませんでした・・・。で、では・・せめてお手紙だけでも・・書いたら手渡して頂けますか・・・?」
ルドルフは青ざめた顔でメイド長に尋ねた。
「いいえ、それも無理です。何故なら私達もヒルダ様に会う事を禁じられているからです。」
「!そ、そんな・・・それでは誰がヒルダ様のお世話をしているのですか?!」
「それは貴方の知る処ではありません。とにかくヒルダ様には会う事は出来ません。ご理解頂けたなら、お引き取り願えますか?」
「わ・・分かりました・・。我儘を言ってご迷惑をかけてしまって・・すみませんでした・・。」
淡々と語るメイド長の言葉にルドルフは頷くしかなかった。
「ヒルダ様・・・。」
ルドルフは絶望的な気持ちになりながら、エントランスを出ると止めてあった自転車のスタンドを上げ、力なく自転車を持ってガーデンアプローチを歩き始めた。すると小声で誰かが呼び掛けてきた。
「ルドルフ様。」
「え?」
慌てて振り向くと大きな天使像の素焼きのガーデニングオーナメントの背後から顔を覗かせている人物がいた。それはメイドのカミラであった。
「あ・・貴女は・・っ!」
ルドルフが声を上げると、カミラは唇の前に人差し指を立てて静かにするように合図を送ると、手招きをしてきた。
慌ててルドルフが自転車を持ってカミラに近づいて小声で声を掛けた。
「貴女はヒルダ様と以前一緒にいたメイドの方ですよね?ひょっとしてヒルダ様に会わせて頂けるのですか?」
「ええ。なので私について来て下さい。」
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「ヒルダ様は・・・旦那様の命で今は殆ど軟禁状態にあるのです。」
案内する道すがら、カミラは言った。
「軟禁状態・・・。」
ルドルフは小さく呟いた。
「旦那様は酷いです。いくら町の人々の怒りを鎮める為とはいえ、ヒルダ様を離れに閉じ込めているのですから。でも・・・私達使用人誰もが旦那様のやり方には反対しています。なのでメイド長に頼み込んで、陰ながら私がヒルダ様のお世話をさせていただいています。奥様もこの事はご存知です。」
「良かった・・・そうなのですね。てっきり・・・この屋敷中の人全てがヒルダ様の敵なのではないかと・・あ、すみません。変な表現をしてしまって。」
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そしてカミラは足を止めた。
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「どうもありがとうございました。」
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(大丈夫・・・きっとヒルダ様は会ってくれるはず・・・。)
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「ここに・・・ヒルダ様がいるんだ・・・。」
ルドルフは深呼吸するとドアをノックした―。
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