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第7章 5 朽果てた教会
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「さあ、早く乗って頂戴。」
先に馬車に乗り込んだグレースに急かされ、やむを得ずヒルダは馬車に乗る事にした。グレースの馬車は踏み台が高くて足の不自由なヒルダには乗りにくかったが、手すりを握りしめて何とか馬車に乗り込んだ。
その様子をグレースがイライラしたように見つめているのを知っていたので、ヒルダはますます目の前に座っているグレースが怖くなり、身を縮こませるように座った。
そんな様子のヒルダをグレースは一瞥すると御者に向って声を掛けた。
「出して頂戴。」
「かしこまりました。」
すると馬車はガラガラと走り出した。
馬車が走り出してもグレースは一言も口を利かない。黙って馬車の外の景色を眺めている。
(一体、何処へ連れて行くのかしら・・・。)
そんな様子のグレースを見ながらヒルダはますます不安を募らせていく。そこでとうとう我慢が出来ずにヒルダはグレースに話しかけた。
「あ、あの・・・グレースさん。この馬車は一体何処へ向かっているのかしら?」
するとグレースはヒルダの方を見る事も無く、言った。
「教会よ。」
「え・・?教会・・・?」
それを聞いたヒルダは少しだけ安心した。教会なら神父さんがいるだろうし、お祈りに来ている人達もいるかもしれない。なにしろ、ここ『カウベリー』に住む人々は皆誰もが信仰深く、足しげく教会へ通う姿が見られていたからだ。
そこでヒルダも安心して外を眺めたが、外の景色を眺めている内に顔色が曇って来た。辺りの景色がだんだん寂しくなってきている。
(おかしいわ・・。どんどん街から外れている気がする・・・。)
しかし、それをグレースの前で口に出すのは何となくはばかられ、ヒルダは息を潜めるように乗っていると、やがて馬車は止まった。
「着いたようね。さあ、ヒルダさん。降りるのよ。」
さっさと先に降りたグレースは馬車に乗っているヒルダに声を掛けてきた。
「え、ええ・・・。」
戸惑いながらもヒルダは痛む足を堪えて何とか馬車から降りると辺りを見渡した。
そこは町はずれで、馬車が止まったのは朽果てた教会の前だった。
「え・・・ここが・・教会・・・?」
ヒルダはその教会を見て急に不安が押し寄せてきた。枯れ木に囲まれた教会は不気味さを醸し出している。一体自分はこんな所に連れて来られ、何をされるのだろうか・・?
「あ、あの・・グレースさん・・。」
ヒルダは隣に立っているグレースに声を掛けるが、彼女はヒルダの呼びかけを無視し、御者の初老の男性に言った。
「ここで暫く待っていて頂戴。」
「はい、承知致しました。」
そしてグレースはヒルダを振り向くと言った。
「ついてきて、ヒルダさん。」
そしてスタスタと教会の入口へと向かって歩いて行く。ヒルダは慌てて杖をつきながらグレースの後を追った。
ギイイイ・・・。
グレースはドアを開けた。
古びたドアの大きくきしむ音が教会内に響き渡った。
「!」
ヒルダはグレースの背後から教会の中を覗きこみ、息を飲んだ。
薄暗い内部は木が腐食して床や、椅子・・壁・・あちこちが抜け落ちている。天井には蜘蛛の巣が張り巡らされ、ヒビの入ったステンドグラスは汚れで灰色に曇っている。そして礼拝堂の側では暖炉の前に3人の少年少女の姿があった。
(あ!あの人達は・・・ルドルフの友達の・・・!)
ヒルダはその3人に見覚えがあった。
「待たせたわね。」
グレースの声が教会に響き渡った。
「グレース。」
イワンが立ち上ってこちらを見た。するとコリンとノラも振り返ったが・・・3人は怯えたような目でグレースを黙って見つめている。
「さあ、ヒルダさんを連れて来たから早速始めましょうか?」
そしてグレースは意味深な目でヒルダを振り返った―。
先に馬車に乗り込んだグレースに急かされ、やむを得ずヒルダは馬車に乗る事にした。グレースの馬車は踏み台が高くて足の不自由なヒルダには乗りにくかったが、手すりを握りしめて何とか馬車に乗り込んだ。
その様子をグレースがイライラしたように見つめているのを知っていたので、ヒルダはますます目の前に座っているグレースが怖くなり、身を縮こませるように座った。
そんな様子のヒルダをグレースは一瞥すると御者に向って声を掛けた。
「出して頂戴。」
「かしこまりました。」
すると馬車はガラガラと走り出した。
馬車が走り出してもグレースは一言も口を利かない。黙って馬車の外の景色を眺めている。
(一体、何処へ連れて行くのかしら・・・。)
そんな様子のグレースを見ながらヒルダはますます不安を募らせていく。そこでとうとう我慢が出来ずにヒルダはグレースに話しかけた。
「あ、あの・・・グレースさん。この馬車は一体何処へ向かっているのかしら?」
するとグレースはヒルダの方を見る事も無く、言った。
「教会よ。」
「え・・?教会・・・?」
それを聞いたヒルダは少しだけ安心した。教会なら神父さんがいるだろうし、お祈りに来ている人達もいるかもしれない。なにしろ、ここ『カウベリー』に住む人々は皆誰もが信仰深く、足しげく教会へ通う姿が見られていたからだ。
そこでヒルダも安心して外を眺めたが、外の景色を眺めている内に顔色が曇って来た。辺りの景色がだんだん寂しくなってきている。
(おかしいわ・・。どんどん街から外れている気がする・・・。)
しかし、それをグレースの前で口に出すのは何となくはばかられ、ヒルダは息を潜めるように乗っていると、やがて馬車は止まった。
「着いたようね。さあ、ヒルダさん。降りるのよ。」
さっさと先に降りたグレースは馬車に乗っているヒルダに声を掛けてきた。
「え、ええ・・・。」
戸惑いながらもヒルダは痛む足を堪えて何とか馬車から降りると辺りを見渡した。
そこは町はずれで、馬車が止まったのは朽果てた教会の前だった。
「え・・・ここが・・教会・・・?」
ヒルダはその教会を見て急に不安が押し寄せてきた。枯れ木に囲まれた教会は不気味さを醸し出している。一体自分はこんな所に連れて来られ、何をされるのだろうか・・?
「あ、あの・・グレースさん・・。」
ヒルダは隣に立っているグレースに声を掛けるが、彼女はヒルダの呼びかけを無視し、御者の初老の男性に言った。
「ここで暫く待っていて頂戴。」
「はい、承知致しました。」
そしてグレースはヒルダを振り向くと言った。
「ついてきて、ヒルダさん。」
そしてスタスタと教会の入口へと向かって歩いて行く。ヒルダは慌てて杖をつきながらグレースの後を追った。
ギイイイ・・・。
グレースはドアを開けた。
古びたドアの大きくきしむ音が教会内に響き渡った。
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そしてグレースは意味深な目でヒルダを振り返った―。
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