上 下
78 / 566

第7章 1 進路

しおりを挟む
 季節は廻り、寒い冬が訪れていた。生徒たちはそろそろ何処の高等学校に願書を出すのか、その話で持ちきりになっていた。

「ヒルダ、貴女は何処の高等学校に願書を出すの?」

シャーリーが休み時間に尋ねてきた。

「私は家から学校へ通いたいからカウベリーにある『アザレア女子高等学校』へ願書を出すつもりなの。確かこの高等部は家政科に力を入れていたから。」

「そう言えばヒルダの夢は洋服のデザイナーになる事だったわよね?」

「ええ、そうなの。特殊な技術があれば・・・将来ずっと独身になったとしても1人で食べて・・・生きて行けるでしょう?」

「ヒルダ・・・。」

シャーリーはヒルダの言葉を聞いて胸がつまるような思いになった。

(ヒルダ・・・こんなに女の子らしくて・・優しくて綺麗なのに・・・もう足の怪我のせいで結婚する事を諦めているのね・・・。可愛そうに・・。)

ヒルダはシャーリーの顔が曇った事に気付いて、今度はシャーリーに質問した。

「ねえ、シャーリーは何所の学校へ行くのかしら?」

「私は隣の国の『ソルダート学院』に願書を出すわ。ここは女性警察官を育成してくれる女学校なのよ。」

「そうだったわね。シャーリーの夢は女性警察官になる事だったわね。シャーリーは正義感の強い人だから、きっとなれるわ。でも・・・違う学校になってしまうのは寂しいわ・・。」

ヒルダは少し悲し気に言った。ルドルフと別れてから4ヶ月以上が経過していた。その間の心の寂しさを埋めてくれたのは親友であるシャーリーだったからだ。

「ヒルダ・・・。」

するとシャーリーはヒルダを抱きしめると言った。

「何言ってるの、ヒルダ。私たちは例えどんなに離れていたもずっと親友よ?」

「うん・・・ありがとう。シャーリー。」

ヒルダもシャーリーをしっかり抱きしめるのだった。

「そう言えば、グレースは今どうしてるのかしらね。」

突如、シャーリーはグレースの話を持ち出してきたのでヒルダはドキリとした。
実はグレースは結局停学処分になった後、復学する前に学校を辞めて元の学校に戻っていたのである。
ヒルダがルドルフとの婚約を解消した原因がグレースにある事をシャーリーは全く知らないので他意は無いのだが、グレースの名前を耳にするだけでヒルダの心臓はズキリと痛んだ。

「さ、さあ・・・。どうしたのかしらね。私も全く知らないのよ。」

「そうよね。グレースは転校初日にあんな事件を起こしたわけだし、親しい友人も誰もいなかったから、彼女の事知ってる人はいるはずないものね。」

シャーリーは肩をすくめながら言った。

「ええ・・・そうよね・・。」

返事をしながらヒルダは窓の外を見た。数百m先の男子部にはルドルフがいる。

(ルドルフ・・・。貴方は今どうしてるの・・・?)

そしてヒルダは愛しいルドルフの顔を思い出していた―。



 その日の放課後―

「グレース。またここにやって来たの?」

自転車を押していたルドルフはうんざりしたように校門の前で待っているグレースを見るとため息をついた。

「またって事は無いでしょう?ねえ。ルドルフ。私の馬車で一緒に帰りましょうよ。もう真冬だから自転車の通学は寒くて大変でしょう?」

グレースはルドルフの腕に巻き付いて来た。するとそこへ数人のクラスメイトが冷やかしながら通り過ぎていく。

「何だ、ルドルフ。また彼女が迎えに来てくれているのか?」

「羨ましいなあ。」

「本当に愛されてるんだなあ。」

すると素早くルドルフが反論した。

「違うよ、彼女はそんなんじゃないから。」

それを聞いたクラスメイト達は肩をすくめると去って行った。そしてグレースを見ると言った。

「グレース。本当にいい加減にしてくれないかな?僕は自転車通学をしているんだから朝も迎えに来なくていいし、帰りだって来なくていいんだよ。大体、グレース・・学校はどうしてるの?ひょっとして学校へ通っていないの?」

するとグレースは反論した。

「学校へはちゃんと行ってるわっ!学校が終わってからルドルフの学校へ来ているのよ!」

「そうなんだ。ちゃんと行ってるのならいいよ。でも・・・本当にもうここへは来ないでくれないかな?正直に言うと・・迷惑してるんだよ。」

そしてルドルフは自転車にまたがると、そのまま走り去ってしまった。

「ルドルフッ!!待ってよっ!」

しかし、ルドルフは振り返ることが無かった。そんなルドルフを悔しそうに見つめながらグレースは呟いた。

「ルドルフが冷たい・・・・。彼があんな風になってしまったのは・・・全てヒルダのせいよ・・・。」

グレースは憎々し気にヒルダの通う女子校を睨み付けるのだった―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります。

とうや
恋愛
「私はシャーロットを妻にしようと思う。君は側妃になってくれ」 成婚の儀を迎える半年前。王太子セオドアは、15年も婚約者だったエマにそう言った。微笑んだままのエマ・シーグローブ公爵令嬢と、驚きの余り硬直する近衛騎士ケイレブ・シェパード。幼馴染だった3人の関係は、シャーロットという少女によって崩れた。 「側妃、で御座いますか?承知いたしました、ただし条件があります」 ********************************************        ATTENTION ******************************************** *世界軸は『側近候補を外されて覚醒したら〜』あたりの、なんちゃってヨーロッパ風。魔法はあるけれど魔王もいないし神様も遠い存在。そんなご都合主義で設定うすうすの世界です。 *いつものような残酷な表現はありませんが、倫理観に難ありで軽い胸糞です。タグを良くご覧ください。 *R-15は保険です。

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

【完結】あなただけが特別ではない

仲村 嘉高
恋愛
お飾りの王妃が自室の窓から飛び降りた。 目覚めたら、死を選んだ原因の王子と初めて会ったお茶会の日だった。 王子との婚約を回避しようと頑張るが、なぜか周りの様子が前回と違い……?

処理中です...