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第5章 15 2人の涙
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「ヒ・・・ヒルダ様っ?!ど、どうされたのですかっ?!」
ヒルダが屋敷へ戻るとメイドのカミラが出迎えて息を飲んだ。何故ならヒルダの目は真っ赤になっていたからだ。
「ル・・ルドルフが・・・・。」
「え?ルドルフさんがどうかしたのですか?とりあえず・・ヒルダ様のお部屋へ参りましょう。」
カミラは他の使用人達に見られるのは何となくヒルダが嫌なのではないだろうかと思い、手を取ると部屋へ連れて行った。
そしてヒルダをソファに座らせると尋ねた。
「さあ、ヒルダ様。今この部屋にいるのは私とヒルダ様の2人だけです。何があったのか話して頂けますか?」
すると、ヒルダの目から大粒の涙が溢れだし、スカートの上でギュッと握りしめていた手にぽたぽたと涙が落ちていく。
「!」
カミラは驚いてヒルダの顔を見た。ヒルダは声をあげる事も無く、ただ涙をポロポロと流している。その姿は見ているこちら迄涙を誘われてしまいそうな泣き方であった。
「ヒルダお嬢様・・!そんな風に泣かないで下さいっ・・」
カミラはヒルダを自分の胸に強く抱きしめた。するとヒルダは涙を流しながら語りだした。
「カ・・・カミラ・・・だ、誰にも言わないって・・約束して・・くれる・・?」
「はい、ヒルダお嬢様。私がお仕えするのはヒルダお譲様です。絶対に誰にも、旦那様にも奥様にも言いません。」
カミラはヒルダの背中を優しく撫でながら言う。
「わ、私ね・・・。本当は・・ルドルフの事が・・大好きなの・・・。で、でも・・・私がそばにいるとルドルフは・・・幸せになれないから・・だ、だから・・彼に婚約破棄するって・・今告げてきたの・・・。だって私は・・こんな足だし・・そ、それにルドルフは・・私に足を怪我させた責任を・・取らされて・・私と婚約したんだって・・知ってしまったから・・。」
そう言ってヒルダは激しくすすり鳴いた。
「ヒルダお嬢様・・・・。」
カミラもその話は聞いた事があった。マーガレット付きのメイドがハリスとマーガレットの会話を偶然耳にしたらしく、ヒルダとルドルフの婚約の経緯がメイド達の間で広まったのだ。カミラは何て馬鹿らしい噂だと今の今迄思っていたのだが、ヒルダの嘆き悲しみようを見る限り、真実だったのかもしれない。
「ヒルダお嬢様・・・本当にお嬢様はお優しい方ですね・・・。大丈夫です。私はどんな時もヒルダお嬢様の味方です。どうぞお好きなだけ泣いて下さい。」
するとカミラの言葉にヒルダは堰を切ったように激しく泣きだした。ルドルフの名を呼びながら、身体を震わせていつまでもいつまでも涙が枯れるまで泣き続けるのだった—。
一方、その頃ルドルフはショックで頭が呆然となっていた。
(そんな・・・・僕はヒルダ様に嫌われてしまったなんて・・・。)
12歳の時、初めてヒルダに出会った時からその美しさに目を奪われ、恋に落ちてしまっていた。
そしてヒルダを知れば知る程、ますます好きになっていった。その声も、優しさも・・ブルネットの瞳も・・そのどれもがルドルフの心を捕らえて離さなかった。
だけど、ヒルダはこの地を治める伯爵家の令嬢。そして自分の父はフィールズ家の厩舎で働く使用人の息子。とても釣り合わない事は分かっていた。だから自分の恋心を隠し、ヒルダと偶然の出会いを装って2人の会話を楽しんできた。
そこへあの落馬事故。あの時、あんなに側にいたのにヒルダの身体が馬から投げ落とされた時、抱きとめる事が出来なかった。そんな自分が不甲斐なく、ヒルダの左足がもう治らないと聞かされた時は死んで詫びようと思った程だった。けれどヒルダの両親から婚約して責任を取れと言われた時は、不謹慎だと分かっていても天にも昇る気持ちだった。
そして2人で過ごした馬車の中・・・本当に幸せだった。2人は両思いだと信じて疑わなかったのに、今日ヒルダから投げつけられた冷たい言葉はルドルフの心を凍らせた。
(ヒルダ様・・・。)
気付けばルドルフはフラフラと家に向って歩いていた。
そこを背後からルドルフの名を呼ぶ少女の声が聞こえてくる。
「ルドルフッ!待ってっ!」
ハアハアと息を切らせながら追いかけてきた少女は他でも無い、グレースだった。そしてルドルフの右腕を掴む。
「・・・。」
しかし、ルドルフはグレースに腕を掴まれても振り返らない。
「ルドルフッ!私を見てっ!」
グレースはルドルフの前に回り込み、息を飲んだ。
「ル・・ルドルフ・・泣いてるの・・?」
「グ・・・グレース・・・。」
ルドルフは目に涙を浮かべながらグレースを見下ろした。
「ルドルフッ!私がいるっ!私なら・・・どんな事があっても貴方から離れないっ!だって私はルドルフが大好きだからっ!」
グレースは強くルドルフを抱きしめながら言った。
(ヒルダ・・・やっと私との約束を守ったのね・・・。でもこれでルドルフの心は私のものよ・・・。もう誰にも渡さないんだから。)
そしてグレースは微笑んだ―。
ヒルダが屋敷へ戻るとメイドのカミラが出迎えて息を飲んだ。何故ならヒルダの目は真っ赤になっていたからだ。
「ル・・ルドルフが・・・・。」
「え?ルドルフさんがどうかしたのですか?とりあえず・・ヒルダ様のお部屋へ参りましょう。」
カミラは他の使用人達に見られるのは何となくヒルダが嫌なのではないだろうかと思い、手を取ると部屋へ連れて行った。
そしてヒルダをソファに座らせると尋ねた。
「さあ、ヒルダ様。今この部屋にいるのは私とヒルダ様の2人だけです。何があったのか話して頂けますか?」
すると、ヒルダの目から大粒の涙が溢れだし、スカートの上でギュッと握りしめていた手にぽたぽたと涙が落ちていく。
「!」
カミラは驚いてヒルダの顔を見た。ヒルダは声をあげる事も無く、ただ涙をポロポロと流している。その姿は見ているこちら迄涙を誘われてしまいそうな泣き方であった。
「ヒルダお嬢様・・!そんな風に泣かないで下さいっ・・」
カミラはヒルダを自分の胸に強く抱きしめた。するとヒルダは涙を流しながら語りだした。
「カ・・・カミラ・・・だ、誰にも言わないって・・約束して・・くれる・・?」
「はい、ヒルダお嬢様。私がお仕えするのはヒルダお譲様です。絶対に誰にも、旦那様にも奥様にも言いません。」
カミラはヒルダの背中を優しく撫でながら言う。
「わ、私ね・・・。本当は・・ルドルフの事が・・大好きなの・・・。で、でも・・・私がそばにいるとルドルフは・・・幸せになれないから・・だ、だから・・彼に婚約破棄するって・・今告げてきたの・・・。だって私は・・こんな足だし・・そ、それにルドルフは・・私に足を怪我させた責任を・・取らされて・・私と婚約したんだって・・知ってしまったから・・。」
そう言ってヒルダは激しくすすり鳴いた。
「ヒルダお嬢様・・・・。」
カミラもその話は聞いた事があった。マーガレット付きのメイドがハリスとマーガレットの会話を偶然耳にしたらしく、ヒルダとルドルフの婚約の経緯がメイド達の間で広まったのだ。カミラは何て馬鹿らしい噂だと今の今迄思っていたのだが、ヒルダの嘆き悲しみようを見る限り、真実だったのかもしれない。
「ヒルダお嬢様・・・本当にお嬢様はお優しい方ですね・・・。大丈夫です。私はどんな時もヒルダお嬢様の味方です。どうぞお好きなだけ泣いて下さい。」
するとカミラの言葉にヒルダは堰を切ったように激しく泣きだした。ルドルフの名を呼びながら、身体を震わせていつまでもいつまでも涙が枯れるまで泣き続けるのだった—。
一方、その頃ルドルフはショックで頭が呆然となっていた。
(そんな・・・・僕はヒルダ様に嫌われてしまったなんて・・・。)
12歳の時、初めてヒルダに出会った時からその美しさに目を奪われ、恋に落ちてしまっていた。
そしてヒルダを知れば知る程、ますます好きになっていった。その声も、優しさも・・ブルネットの瞳も・・そのどれもがルドルフの心を捕らえて離さなかった。
だけど、ヒルダはこの地を治める伯爵家の令嬢。そして自分の父はフィールズ家の厩舎で働く使用人の息子。とても釣り合わない事は分かっていた。だから自分の恋心を隠し、ヒルダと偶然の出会いを装って2人の会話を楽しんできた。
そこへあの落馬事故。あの時、あんなに側にいたのにヒルダの身体が馬から投げ落とされた時、抱きとめる事が出来なかった。そんな自分が不甲斐なく、ヒルダの左足がもう治らないと聞かされた時は死んで詫びようと思った程だった。けれどヒルダの両親から婚約して責任を取れと言われた時は、不謹慎だと分かっていても天にも昇る気持ちだった。
そして2人で過ごした馬車の中・・・本当に幸せだった。2人は両思いだと信じて疑わなかったのに、今日ヒルダから投げつけられた冷たい言葉はルドルフの心を凍らせた。
(ヒルダ様・・・。)
気付けばルドルフはフラフラと家に向って歩いていた。
そこを背後からルドルフの名を呼ぶ少女の声が聞こえてくる。
「ルドルフッ!待ってっ!」
ハアハアと息を切らせながら追いかけてきた少女は他でも無い、グレースだった。そしてルドルフの右腕を掴む。
「・・・。」
しかし、ルドルフはグレースに腕を掴まれても振り返らない。
「ルドルフッ!私を見てっ!」
グレースはルドルフの前に回り込み、息を飲んだ。
「ル・・ルドルフ・・泣いてるの・・?」
「グ・・・グレース・・・。」
ルドルフは目に涙を浮かべながらグレースを見下ろした。
「ルドルフッ!私がいるっ!私なら・・・どんな事があっても貴方から離れないっ!だって私はルドルフが大好きだからっ!」
グレースは強くルドルフを抱きしめながら言った。
(ヒルダ・・・やっと私との約束を守ったのね・・・。でもこれでルドルフの心は私のものよ・・・。もう誰にも渡さないんだから。)
そしてグレースは微笑んだ―。
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