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第5章 6 気持ちを押し殺して
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ヒルダは杖を突きながら重い足取りで馬車乗り場へと歩いていた。あの後ヒルダはグレースに約束させられたのだ。自分の謹慎処分が解けるまでに必ずルドルフと婚約を破棄するようにと・・・。
(知らなかった・・・。ルドルフが・・本当はグレースさんと恋人同士だったなんて・・・。私はグレースさんからルドルフを奪ってしまったのね・・。)
グレースに泥棒猫と呼ばれた言葉がまるで棘のようにヒルダの心に突き刺さってくる。まさか両親がヒルダの怪我をルドルフのせいにして無理矢理ルドルフに婚約者になるように迫ったという事実もヒルダの心を大きく傷つけた。
「ルドルフは・・・さぞかし嫌だったでしょうね・・・。」
ヒルダはポツリと呟いた—。
一方のルドルフはヒルダが馬車乗り場にやって来るのを首を長くして待っていた。
「ルドルフッ!」
その時ルドルフは背後から声を掛けられた。てっきりヒルダだと思っていたルドルフは笑顔で振り向き・・・顔をこわばらせた。
「え・・?グ・・・グレース・・?な、何故ヒルダ様と同じ制服を着ているの・・?それにどうして此処に・・・?」
するとグレースは笑顔で言った。
「やだ、ルドルフ。この間言ったでしょう?私は爵位を手に入れたって。だからルドルフと同じ学校へ転校してきたのよ。ねえ、ルドルフ。一緒に帰りましょうよ。」
グレースはルドルフの腕に自分の腕をからませると甘えた声で訴えた。
「ごめんねグレース。それは出来ないよ。僕はヒルダ様と同じ馬車で帰る約束をしているんだから。」
ルドルフはなるべくグレースを傷つけないように優しく言った。
「ヒルダさんの事なら気にする必要は無いわよ。だってちゃんと了承済みだもの。ねえ、いいでしょう?ルドルフ。」
「グレース・・・。」
すると、その時ルドルフは気が付いた。ヒルダが真っ青な顔でルドルフとグレースを見つめている姿を。
「ヒ、ヒルダ様・・・!」
思わずルドルフはグレースの腕を振り払おうとした時、ヒルダが口を開いた。
「それではグレースさん。ルドルフをよろしくお願いします。」
ヒルダはルドルフの方を見もせずに、グレースに頭を下げると杖を突いて足を引きずりながら、去って行こうとする。
「ヒルダ様っ!待って下さいっ!」
ルドルフはグレースの手を振り切って、ヒルダに駆け寄った。
「ルドルフッ!」
グレースの悲痛な声がヒルダの耳に飛び込んできた。しかし、それでもルドルフは構うことなくヒルダの正面に回り込んだ。
「・・・どいて、ルドルフ。」
ヒルダは俯いたまま言った。
「ヒルダ様・・・一体どうされたのですか?何故・・・顔を見せてくれないのですか?お願いです。ヒルダ様・・どうか顔を上げてください・・」
その声は酷く悲しげだった。
(やめて・・・ルドルフ。そんな声で・・・私に話しかけないで・・!)
ヒルダは目頭が熱くなってきたが、必死で涙を堪えながら言った。
「私の事は・・もう構わないで・・。グレースさんが呼んでるわ。彼女の側に行ってあげて。」
「え・・?」
ルドルフはてっきり自分とヒルダは両思いだとばかりに思って来たので、いきなりのヒルダの心変わりとも取れる言葉がにわかには信じられなかった。
するとそこへグレースが追いかけてきた。
「酷いわっ!ルドルフッ!私がこんなにも呼んでいるのに・・っ!」
「グ、グレース。僕は・・・。」
ヒルダはその隙に2人に背を向けると自分の馬車に乗り込んでしまった。
「あ!待って下さいっ!ヒルダ様っ!」
ルドルフはグレースの手を再び振り払って、追いかけようとしたが無残にも馬車はルドルフの前から走り去って行ってしまった。
「ヒルダ様・・・何故・・・?」
ルドルフは青ざめた顔でヒルダの乗った馬車を見つめていた—。
(知らなかった・・・。ルドルフが・・本当はグレースさんと恋人同士だったなんて・・・。私はグレースさんからルドルフを奪ってしまったのね・・。)
グレースに泥棒猫と呼ばれた言葉がまるで棘のようにヒルダの心に突き刺さってくる。まさか両親がヒルダの怪我をルドルフのせいにして無理矢理ルドルフに婚約者になるように迫ったという事実もヒルダの心を大きく傷つけた。
「ルドルフは・・・さぞかし嫌だったでしょうね・・・。」
ヒルダはポツリと呟いた—。
一方のルドルフはヒルダが馬車乗り場にやって来るのを首を長くして待っていた。
「ルドルフッ!」
その時ルドルフは背後から声を掛けられた。てっきりヒルダだと思っていたルドルフは笑顔で振り向き・・・顔をこわばらせた。
「え・・?グ・・・グレース・・?な、何故ヒルダ様と同じ制服を着ているの・・?それにどうして此処に・・・?」
するとグレースは笑顔で言った。
「やだ、ルドルフ。この間言ったでしょう?私は爵位を手に入れたって。だからルドルフと同じ学校へ転校してきたのよ。ねえ、ルドルフ。一緒に帰りましょうよ。」
グレースはルドルフの腕に自分の腕をからませると甘えた声で訴えた。
「ごめんねグレース。それは出来ないよ。僕はヒルダ様と同じ馬車で帰る約束をしているんだから。」
ルドルフはなるべくグレースを傷つけないように優しく言った。
「ヒルダさんの事なら気にする必要は無いわよ。だってちゃんと了承済みだもの。ねえ、いいでしょう?ルドルフ。」
「グレース・・・。」
すると、その時ルドルフは気が付いた。ヒルダが真っ青な顔でルドルフとグレースを見つめている姿を。
「ヒ、ヒルダ様・・・!」
思わずルドルフはグレースの腕を振り払おうとした時、ヒルダが口を開いた。
「それではグレースさん。ルドルフをよろしくお願いします。」
ヒルダはルドルフの方を見もせずに、グレースに頭を下げると杖を突いて足を引きずりながら、去って行こうとする。
「ヒルダ様っ!待って下さいっ!」
ルドルフはグレースの手を振り切って、ヒルダに駆け寄った。
「ルドルフッ!」
グレースの悲痛な声がヒルダの耳に飛び込んできた。しかし、それでもルドルフは構うことなくヒルダの正面に回り込んだ。
「・・・どいて、ルドルフ。」
ヒルダは俯いたまま言った。
「ヒルダ様・・・一体どうされたのですか?何故・・・顔を見せてくれないのですか?お願いです。ヒルダ様・・どうか顔を上げてください・・」
その声は酷く悲しげだった。
(やめて・・・ルドルフ。そんな声で・・・私に話しかけないで・・!)
ヒルダは目頭が熱くなってきたが、必死で涙を堪えながら言った。
「私の事は・・もう構わないで・・。グレースさんが呼んでるわ。彼女の側に行ってあげて。」
「え・・?」
ルドルフはてっきり自分とヒルダは両思いだとばかりに思って来たので、いきなりのヒルダの心変わりとも取れる言葉がにわかには信じられなかった。
するとそこへグレースが追いかけてきた。
「酷いわっ!ルドルフッ!私がこんなにも呼んでいるのに・・っ!」
「グ、グレース。僕は・・・。」
ヒルダはその隙に2人に背を向けると自分の馬車に乗り込んでしまった。
「あ!待って下さいっ!ヒルダ様っ!」
ルドルフはグレースの手を再び振り払って、追いかけようとしたが無残にも馬車はルドルフの前から走り去って行ってしまった。
「ヒルダ様・・・何故・・・?」
ルドルフは青ざめた顔でヒルダの乗った馬車を見つめていた—。
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