上 下
56 / 566

第5章 4 グレースの謹慎処分

しおりを挟む
「ヒルダッ!」

シャーリーはヒルダの側に駆け寄るとギュッと抱きしめて来た。

「シャ、シャーリー・・・?」

ヒルダは親友の突然の行動に驚いた。何故ならシャーリーは泣いていたからである。

「ご、ごめんなさい・・・っ!ヒルダ・・・!私が余計な真似をしたばかりに・・あ、貴女の怪我した足をあんな女のせいで皆の前でさらしてしまって・・・!」

「シャーリー・・・。」

ヒルダはそっと親友の頭を撫でると言った。

「ううん、シャーリーは何も悪く無いわ。むしろ・・お礼を言いたい位だもの。私の為に・・・あんな勇ましい行動を取ってくれるなんて・・・。」

「ヒルダ・・・。」

シャーリーは涙にぬれた顔を上げた。すると1人の女生徒が2人に近寄って来ると突然頭を下げてきた。

「ごめんなさいっ!ヒルダさんっ!」

「え・・?どうしたの?突然・・・。」

ヒルダは首を傾げた。シャーリーも不思議そうにしている。

「わ・・・私・・・ヒルダさんが車椅子で初めて登校してきた時・・ああ、ヒルダさんはもうまともに歩く事も出来なくなってしまったから、縁談話が回って来ないだろうなって・・・そしたら私にもチャンスが巡って来るだろうって・・・思ってしまったの!だ、だって・・・ヒルダさんはすごく綺麗で・・・隣の男子校でも人気があったから・・。」

「え?そうだったの・・?」

ヒルダはそんな話は初耳だった。するとシャーリーが言った。

「ヒルダ・・もしかして知らなかったの?」

「え、ええ・・・。たった今その話を聞いたわ・・・。」

すると別の女生徒も前に出てきた。

「ヒルダさん・・・私も彼女と同じ事を考えてしまったの・・。でもまさかそこまで深い傷を負っていたなんて・・・私・・知らなくて・・・本当にごめんなさい!」

そしてその後もヒルダに謝罪してくる女生徒たちは後を絶たなかった。やがてクラスメイト全員が落ち着いた頃、シャーリーが言った。

「皆、さっきヒルダにはもう縁談の話は来ないだろうって言ってたけど・・当然よ。だってもうヒルダには婚約者がいるんだから。そうでしょう?ヒルダ?」

「シャ、シャーリー・・。そ、それは・・・。」

ヒルダが真っ赤になると、今度は途端に女生徒の目の輝きが変わった。

「本当なの?!ヒルダさんっ!」

「お相手の方はどんな男性なの?」

「お名前は?何処で知り合ったの?」

等々・・・ヒルダの恋の話で盛り上がり、昼休みは終わった―。



「先生・・娘がご迷惑をお掛けしました。」

学校から呼び出されたグレースの父は校長室で深々と頭を下げた。

「兎に角・・・グレースさんは転校初日で問題を起こしてしまいましたからね・・。生徒達に与える影響を考慮して、2週間の謹慎処分を命じます。」

「ええっ?!そ、そんなっ!酷いですっ!校長先生っ!」

グレースは悲鳴を上げて立ち上がった。折角今日から放課後はルドルフと一緒に馬車に乗って家に帰る計画を立てていたのに、これでは意味が無い。

「グレース・・・頼むから言う事を聞いてくれ・・・。」

グレースの父は溜息をつきながら言う。
次に校長はミランダを見ると言った。

「ミランダさん。貴女は原稿用紙3枚で反省文を明日までに書いて来るのですよ?」

「は、はい・・・。」

するとここでもグレースは声を荒げた。

「酷いっ!何故私が謹慎処分で、ミランダさんだけは反省文なんですか?!私も反省文にしてくださいっ!」

するとついに校長は我慢の限界なのか、声を荒げた。

「いい加減になさいっ!グレース・ミラーッ!これ以上騒ぎを起こすなら退学させますよっ?!」

「た、退学・・・?」

グレースは足を震わせて、力なくソファに座り込むのだった—。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されていないのですね、ではさようなら。

杉本凪咲
恋愛
夫から告げられた冷徹な言葉。 「お前へ愛は存在しない。さっさと消えろ」 私はその言葉を受け入れると夫の元を去り……

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく

たまこ
恋愛
 10年の間、王子妃教育を受けてきた公爵令嬢シャーロットは、政治的な背景から王子妃候補をクビになってしまう。  多額の慰謝料を貰ったものの、婚約者を見つけることは絶望的な状況であり、シャーロットは結婚は諦めて公爵家の仕事に打ち込む。  もう会えないであろう初恋の相手のことだけを想って、生涯を終えるのだと覚悟していたのだが…。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

何を間違った?【完結済】

maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。 彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。 今真実を聞いて⋯⋯。 愚かな私の後悔の話 ※作者の妄想の産物です 他サイトでも投稿しております

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

婚約者の浮気を目撃した後、私は死にました。けれど戻ってこれたので、人生やり直します

Kouei
恋愛
夜の寝所で裸で抱き合う男女。 女性は従姉、男性は私の婚約者だった。 私は泣きながらその場を走り去った。 涙で歪んだ視界は、足元の階段に気づけなかった。 階段から転がり落ち、頭を強打した私は死んだ……はずだった。 けれど目が覚めた私は、過去に戻っていた! ※この作品は、他サイトにも投稿しています。

処理中です...