上 下
54 / 566

第5章 2 グレースの嫌がらせ

しおりを挟む
「グレース・ミラーと申します。皆さんどうぞよろしくお願い致します。」

グレースは挨拶をすると、真っすぐにヒルダを見つめた。

(グレースさん・・。な、何故この学校に・・・?)

「ではグレースさん。席は・・・。」

するとグレースはヒルダの隣に座っているシャーリーを指さすと言った。

「先生、私はヒルダさんと友達なんです。彼女の隣の席にして頂けますか?」

「「え?!」」

ヒルダとシャーリーは同時に声を上げた。

「そうね。グレースさんは転校してきたばかりだから・・・友達の隣の席の方が良いかもしれませんね?それではシャーリーさん。席を譲ってあげて下さい。シャーリーさんは一番前の席があいてるので、そこに移動して下さい。」

「は、はい・・・。」

シャーリーは恨めしそうな目で一瞬グレースを睨み、カバンを持って席を移動した。そしてそれと入れ替わるようにグレースはヒルダの隣に座ると言った。

「これからよろしくね?ヒルダさん。」

「こ、こちらこそよろしく・・グレースさん。」

グレースは口元に笑みを浮かべたが・・・その眼は笑っていなかった。ヒルダはそれが恐ろしく感じた―。


 休み時間になるとグレースはヒルダに声を掛けてきた。

「ねえ、ヒルダさん。お昼休み・・・学校案内をしてくれない?」

「え・・?」

するとそこへシャーリーがやって来ると言った。

「ねえ、グレースさん・・・だったかしら?ヒルダさんは足を痛めてるのよ?他の人に案内を頼んだらどうなの?」

シャーリーは一目見た時からグレースの事が気に入らなかったのだ。

「あら・・そうなの?それじゃ貴女にお願いしようかしら?」

グレースはシャーリーに言った。

「な、何で私が・・・。」

するとヒルダが言った。

「待って、シャーリー。グレースさん。私で良ければ案内させてもらうわ。」

「ヒルダッ!」

シャーリーはヒルダを止めようとした。

「ううん。いいの。お医者さんからはリハビリの一環としてなるべく足を動かした方がいいと言われてるから・・・。」

そしてグレースに言った。

「グレースさん。あまり早く歩けないけれども案内させてもらうわね?」

「ええ、よろしく。ヒルダさん。」

そして2人は昼休みの約束をした―。



「ここが、音楽室になるのよ。」

ヒルダは杖を突きながら、いくつめかの教室を案内した。

「ふ~ん・・・。」

しかしグレースはたいして興味が無さそうにしている。グレースの態度は2人の空気を悪くしていた。ヒルダは心の中でため息をつくと言った。

「それじゃ、次の教室に・・・。」

するとグレースが言った。

「ねえ、ヒルダさん。貴女・・本当に足が悪いの?」

「え・・?」

「本当はルドルフの気を引くために足を引きずってるんじゃないの?」

グレースのあまりの言いようにヒルダは耳を疑った。

「あ、あの・・・グレースさん・・?」

すると何を思ったのか、グレースは突如ヒルダの杖を奪ってしまった。

「ふん。何よ、こんな杖・・・。」

そして杖を音楽室の教室の一番端っこに投げてしまった。

「な、何をするの?グレースさん。」

ヒルダはグレースに抗議した。

「どうせ・・演技なんでしょう?もう教室案内はいいわ。」

それだけ言い捨てるとグレースは1人さっさと歩いて行ってしまった。

「そ、そんな・・・。」

ヒルダは杖を突かないとうまく歩けない。だが、今ここには誰もいない。自分一人で杖を取りに行かなければならないのだ。

「仕方ないわ・・。」

ヒルダは一歩足をふみだした。途端に左足にしびれがはしり、バランスを失って転んでしまった。

「いった・・・。」

何とか両手をついて立ち上がろうとしたが左足が思うように動かない。

「あっ!」

再びヒルダはバランスを崩し、床に倒れてしまった。

(もう、こうなったら・・床を這って行くしかないわね・・。)

そこでヒルダは両手を床について、這って歩いていると突如背後から声が聞こえた。

「ヒルダッ!」

振り向くとそこには荒い息を吐きながら立っているシャーリーがいた。

「シャ、シャーリー・・・。」

するとシャーリーは無言で教室へ入ると杖を拾ってヒルダに手渡した。

「あ、ありがとう・・・。」

するとシャーリーは無言でヒルダを抱きしめると、肩を震わせた。

「シャーリー・・・?も、もしかして・・泣いてるの・・?」

「許せない・・・あの女・・・。教室でヒルダの悪口を・・・仮病を使ってるんじゃないかって・・・。」

「!」

「シャーリー・・ありがとう。助けに来てくれて・・・。」

ヒルダは優しい親友を抱きしめるのだった―。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

十年目の離婚

杉本凪咲
恋愛
結婚十年目。 夫は離婚を切り出しました。 愛人と、その子供と、一緒に暮らしたいからと。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

愛人を切れないのなら離婚してくださいと言ったら子供のように駄々をこねられて困っています

永江寧々
恋愛
結婚生活ニ十周年を迎える今年、アステリア王国の王であるトリスタンが妻であるユーフェミアから告げられたのは『離婚してください」という衝撃の告白。 愛を囁くのを忘れた日もない。セックスレスになった事もない。それなのに何故だと焦るトリスタンが聞かされたのは『愛人が四人もいるから』ということ。 愛している夫に四人も愛人がいる事が嫌で、愛人を減らしてほしいと何度も頼んできたユーフェミアだが、 減るどころか増えたことで離婚を決めた。 幼子のように離婚はしたくない、嫌だと駄々をこねる夫とそれでも離婚を考える妻。 愛しているが、愛しているからこそ、このままではいられない。 夫からの愛は絶えず感じているのにお願いを聞いてくれないのは何故なのかわからないユーフェミアはどうすればいいのかわからず困っていた。 だが、夫には夫の事情があって…… 夫に問題ありなのでご注意ください。 誤字脱字報告ありがとうございます! 9月24日、本日が最終話のアップとなりました。 4ヶ月、お付き合いくださいました皆様、本当にありがとうございました! ※番外編は番外編とも言えないものではありますが、小話程度にお読みいただければと思います。 誤字脱字報告ありがとうございます! 確認しているつもりなのですが、もし発見されましたらお手数ですが教えていただけると助かります。

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

処理中です...